今週は朝鮮半島情勢について、日本が「見たくない真実」を書こう。いま北朝鮮の金正恩・最高指導者は追い詰められているどころか、実は高笑いしているのではないか。自分を取り巻く環境がガラッと変わってしまったからだ。
最初に断っておくが、私は金正恩の肩を持つ気はさらさらない。だが、見たくない事実は見ないという態度では、そこらの左翼と同じになってしまう。だから、客観的に事態を眺め、検証しておきたい。
まずは韓国だ。親北容共路線の文在寅(ムン・ジェイン)政権が誕生した。日本で言えば官房長官に当たる大統領秘書室長に任命されたのは、任鍾晳(イム・ジョンソク)氏である。任氏は文大統領に勝るとも劣らない親北派として知られている。
任氏はかつて親北・学生運動組織の議長を務め、北朝鮮がソウル五輪に対抗して開いた世界青年学生祝典(左翼版ユニバーシアード)に女子学生を送り込んだ。日本で言えば、全学連が学生代表を送ったようなものだ。当然、北朝鮮は宣伝活動に利用した。
この事件は韓国で騒ぎになり、任氏は指名手配された。結局、逮捕収監されたが、その後、親北の金大中政権が誕生すると、選挙に出馬して国会議員に当選する。日本にも似たような政治家がいそうだが、こちらのほうが筋金入りだろう。
そんな任氏を政権の要に登用したのは文政権の親北容共路線は妥協の余地がない、正真正銘の左派路線であることを示している。
これはどういう事件かというと、朴槿恵・前政権で配備が決まったTHAADの発射台を韓国はまず2基、受け入れた。
THAAD配備自体が親北政権の成立を見越して米韓が急いで進めた話だったが、韓国は続けて4基の発射台を国防省が大統領に報告しないまま追加搬入していた、という問題である。真相は不明だが、政権側は「搬入の決定や経緯を徹底調査する」と言っている。
文大統領はもともとTHAADについて否定的だった。選挙戦では軌道修正を匂わせる発言もあったが、政権の座に就いて本心を隠さなくなったのか。韓国がTHAADを配備しなければ、喜ぶのは北朝鮮と中国だ。これが1点。
THAAD問題のもっと重要な意味は、大統領が国防省に対する監視を強化し始めた点である。つまり「オレは軍が勝手に動くのを許さない。全部オレに報告しないとひどいことになるぞ」と脅しているのだ。これがどんな意味を持つか、後でもう一度触れる。
文政権は最終的に何を目指しているのか。
朝鮮問題に詳しい西岡力・麗澤大学客員教授は私が司会を務めるテレビ番組『ニュース女子』(TOKYO MXなど)で「政権は親日・保守派を一掃したうえで北朝鮮との連邦制、国家連合を目指すだろう」との見方を披露した。
韓国と北朝鮮が統一するような事態になったら、日本にとっては悪夢以外の何物でもない。韓国が北朝鮮という怖いヤクザを雇ったような話になる。相手は完成した核兵器とミサイルで日本を脅すかもしれない。
倒れるのはお前だ」
次にトランプ政権だ。大統領は空母艦隊を日本海に派遣して北朝鮮を威嚇してきたが、すでに4月21日公開コラム(http://gendai.ismedia.jp/articles/-/51535)で書いたように、米朝のにらみ合いは長期戦になりつつある。
長期化せざるを得ないのは、トランプ政権が北への原油輸出を止めるよう圧力を加えている中国が優柔不断だからだ。習近平国家主席の最重要案件は秋の中国共産党大会で習体制の基盤を強化することであって、北朝鮮問題ではない。
北朝鮮問題でドラスティックな政策を展開すれば、それがなんだろうと、政敵に体制批判の口実を与えてしまう。とにかく揉め事は避ける。いまの習主席はこの1点なのだ。分かりやすく言えば、株主総会を控えた社長の胸中である。
4月14日公開コラム(http://gendai.ismedia.jp/articles/-/51474)に書いたように、米国や北朝鮮を相手にガチンコ対決するには、習主席は反射神経が鈍すぎる。だから決断ができない。結果として中国は動かず、少なくとも秋までは長期戦になる。
では、トランプ政権の側から事態を動かせるだろうか。私は否定的だ。なぜかといえば、政権の足元が揺らいでいるからだ。ロシアゲート事件である。
私は先週のコラム(http://gendai.ismedia.jp/articles/-/51846)で「ロシアゲートはウォーターゲートよりも深刻だ」と指摘した。政権を批判する内部告発やメディア報道がはるかに幅広く、深いからだ。
先週、紹介したワシントン・ポストはその後もスクープ記事を掲載している。5月26日付電子版は大統領の娘婿であるジャレッド・クシュナー上級顧問が政権発足前の昨年12月、ロシア大使と面談した際、ロシアと秘密情報回線を開くことを提案したと報じた。
クシュナー氏は「ロシア大使館にある設備を使おう」と提案したという。まるでホワイトハウスの深層部がロシアのスパイになるようだ。驚くべき話である。
スクープ記事は匿名で同紙に寄せられた手紙が発端だった。検証取材したところ、複数の官僚が中身を確認して記事になった。どうして手紙の中身を確認できたかというと、米国の情報機関がロシア大使のモスクワへの報告を傍受していたからだ。そんなスパイ活動が同紙に漏れたのも驚きである。
クシュナー氏はなぜロシアと秘密回線を開こうとしたのか。国務省やCIA、FBIに知られたくない話をする必要があったのか。
こんな内部告発が相次ぐようでは、大統領は北朝鮮どころではない。ホワイトハウスの広報部長も辞任した。政権自体が危うくなっているのだ。もちろん金正恩氏は喜んでいるだろう。「倒れるのはオレじゃない。オマエだ。you are fired!」と大統領の口真似をしているかもしれない。
結局、日本にいい話は何もない
政権が揺らいでいるからこそ、戦争に打って出るのでは、という見方はどうか。それは、ますますできない。先制攻撃するなら韓国や日本に事前通告する必要がある。ところが親北の文政権に事前通告すれば、北朝鮮に漏れるに決まっている。
秘密攻撃もできない。いくら秘密でも韓国軍には漏れるだろう。そこで先のTHAAD事件が生きてくる。大統領は「国防省が米軍の秘密行動を察知したら、直ちにオレに報告しろよ」と言っているのだ。つまり国防省と軍に対する締め付けがTHAAD事件の真の狙いである。
完全に単独行動しようとしても、ソウルにいる米軍家族を撤退させないまま動けるはずがない。つまりトランプ政権は手詰まりに陥っている。日本にとって、一連の事態はもちろんバッドニュースである。
それなら、金正恩の始末をつけるのに中国は手を貸すだろう。そうなればなったで、朝鮮半島で習近平主席がのさばるだけだ。日本にいい話は何もない。
日本にできることは何か。自前の情報収集力と抑止力を強化することだ。残念ながら、国会は森友問題が終わったと思ったら、今度は加計学園問題に夢中になっている。私には、これこそ「見たくない真実」である。現代ビジネスより
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