■自然の異物から災害発生を知る「古気候学」がヤバい
地球研は京都市にある国立研究所で、生物地球化学・古気候学(こきこうがく)を専攻する中塚武教授は気候適応史プロジェクトのリーダーだ。同プロジェクトは、過去の気候変動などが当時の社会にどれだけ影響を与えたか調査するもので、その中に「古気候学グループ」が含まれる。この古気候学とは、あまり聞き慣れない分野だが、過去の気候変動を研究し、今回のように古木など自然の遺物から災害発生のサイクルを見出したりする。画像は「総合地球学研究所」より引用
中塚氏の研究について見解を求められた元前橋工科大学教授の濱嶌(はまじま)良吉氏は、1600年頃から1700年代初頭にかけて著しい洪水が頻繁に発生していたことを指摘した上で、「1611年には北海道沖でM9クラスの大地震(慶長三陸地震)が発生している。この地震は400年サイクルといわれ、中塚先生の400年に1度の水害予測と時期が重なっている」(日刊ゲンダイ、2017年9月13日)と語る。
濱嶌氏が指摘する慶長三陸地震は、1611年12月2日に発生したM 8~9クラスの巨大地震と考えられているが、奇しくもちょうど400年後に同じ三陸沖で、東北地方太平洋沖地震(東日本大震災、M9.1)が発生した。この400年サイクル説がもっと早く注目されていれば、三陸沖の巨大地震に対して防災意識を高めておくことができたかもしれない。
■過去データをみると連鎖は確かに起きていた!
では、今後の動向を探るためにも、400年前に内外(主に環太平洋火山帯)で他にどのような大災害が起きていたかデータ化し、以下に要約して示す。
【約400年前に起きた大災害】
・ 1596年9月1日:慶長伊予地震、M 7.0、中央構造線断層帯。
・ 1596年9月4日:慶長豊後地震(大分地震)、M 7.0~7.8、死者710人。
・ 1596年9月5日:慶長伏見地震(慶長伏見大地震、文禄の大地震)、M7.5前後。
・ 1596年夏:関東甲信越など各地で100年ぶりの大雨・水害。
・ 1600年2月19日:ペルー沖で地震、M 8.0。
・ 1600年2月28日:ペルー沖で地震、M 8.2。
・ 1605年2月3日:慶長地震(南海トラフ津波地震説など諸説あり)、M 7.9~8、死者1万 ~2万人。
・ 1605年4月~1612年:駿河・遠江・美濃・尾張・関東など諸国で大雨・洪水。
・ 1611年9月27日:会津地震、M 6.9、死者3,700人。
・ 1611年12月2日:慶長三陸地震、M 8.1~M9、大津波による死者約2千~5千人。
・ 1619年2月14日:ペルー・トルヒーヨ沖、M8.5。
・ 1619年:諸国で洪水。
・ 1619年5月1日:肥後(熊本)八代で地震、M6.0。
・ 1619年11月30日:フィリピンで地震、M8。
・ 1620年:近畿など諸国で大雨・洪水。
・ 1625年7月21日:熊本で地震、M 5~6、死者約50人。
このように、特に慶長年間(1596~1615)は大地震や大洪水が相次いだ時代だった。文禄5年に大地震が相次いだことで慶長に改元されたのが1596年だが、その後も災害の連鎖は止まらず、1615年に元和と改元された。通常「慶長大地震」といえば慶長年間に起きたこれらの連鎖を指すが、単に「慶長地震」と呼ぶ場合は、1605年2月3日に起きたM 7.9~8の大地震を指す。なお、この地震は南海地震(南海トラフ)、南海沖・房総沖の連動など、震源や規模に関して諸説ある。また、この時期の水害などについては、断片的に記録に残るだけで総合的な実態を捉えることはできないものの、全国的に台風などによる大洪水が長く続いたようだ。慶長津波(中央)および宝永津波(右)の教訓が刻まれている碑 画像は「Wikipedia」より引用
400年サイクルに従い、さらに古い大災害を調べてみると、大地震は断片的に記録されているのみ。水害に至ってはほとんど記録が残っていない。念のため、以下にそのごく一部を記しておく。
【約1600年前】
・ 416年8月22日:允恭(いんぎょう)地震、奈良県明日香村、規模不明。
【約1200年前】
・ 818年8月:弘仁地震、M 7.9、北関東、死者多数。
【約800年前】
・ 1200年頃:地質調査によると南海トラフ地震が発生した可能性。
・ 1202年5月20日:レバノン・シリア・イスラエル、M 7.7、死者数千人。
■次はどこが危ないのか!?
さて、前述の濱嶌良吉氏だが「地震では、中央構造線とその延長線上で1586年に天正地震(M7.9クラス)、1596年に慶長伏見地震(M7)が発生している。その後、1605年には南海トラフ地震のひとつである慶長地震(M7.9クラス)、1611年の会津地震(M6.9クラス)など、巨大地震が相次ぎました。地震が連鎖すれば被害ははるかに大きくなりますし、ここ数十年はあらゆるリスクが重なった時期にあるのです」とまで語っている。
こうなると、前述の400年前の災害データで示した慶長豊後地震(大分)、慶長三陸地震(三陸沖)、熊本(熊本地震)は、すでに対応する地震が起きたと解釈できるため、それ以外の大地震に警戒が必要になってくるだろう。具体的にいうと、中央構造線断層帯、近畿地方、そして南海トラフで起こる巨大地震だ。
これまで何度も指摘してきたように、東日本大震災の影響による地震・噴火の連鎖も終わったわけではない。その意味で、濱嶌氏が指摘するように今後数十年は、大地震・火山噴火・大水害に悩まされることを覚悟して、防災に励まなければならない。 トカナより
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