2017年6月9日金曜日

死刑囚の絵画作品が新刊小説『迷宮の飛翔』の挿絵に

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※画像:『迷宮の飛翔』(河出書房新社)

 
9月に刊行された、蜷川泰司著『迷宮の飛翔』(河出書房新社)に、死刑囚である風間博子の16枚の絵が、挿絵として掲載されている。死刑囚の絵が小説の挿絵となったのは、おそらく初めてのことだろう。
 
ページをめくると、はっと目に飛び込んでくる、緻密で繊細なモノクロームのペン画。街の風景にしても人物の姿にしても、きわめて静謐だが、描いた者の激しい情動が封じ込められているように見える。

冤罪の可能性も? 『埼玉愛犬家連続殺人事件
 
風間博子は1993年に4人が殺害された『埼玉愛犬家連続殺人事件』で、元夫の関根元とともに、殺人と死体損壊遺棄で起訴された。2009年最高裁に上告するも棄却され、死刑判決が確定している。
 
風間は逮捕以来、殺人に関しては一貫して否認。現場に呼び寄せられ、犯行に居合わせた恐怖の中で、関根に命じられ、死体を乗せた車の運転と遺体解体の一部を手伝ってしまったことだけを認めている。
 
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※画像:『迷宮の飛翔』より。風間のイラスト
 
風間と関根の起訴の元になった供述をしたのは、脅されて死体損壊遺棄のみを行ったという共犯者の山崎永幸である。だが彼は、証人としてふたりの公判に出廷した際に、「博子さんは無実だと思います」「人も殺してないのに、何で死刑判決出んの?」と発言している。
 
風間は獄中で、ペンや12色の色鉛筆など、限られた画材で絵を描き続けている。以前から絵の心得があったのではと思わせる腕前だが、逮捕前の経験は美術の時間や夏休みの宿題くらい。画集を手に取ったことさえなかったという。
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※画像:『迷宮の飛翔』より
 
大道寺幸子基金(昨年、大道寺幸子-赤堀政夫基金と改名)による「死刑囚表現展」に、風間は絵画を出展し続け、2014年には表現賞を受賞している。
 
死刑囚の絵の展覧会は、京都の東本願寺や広島県福山市の鞆の津ミュージアムなどで、開かれてきた。蜷川泰司は、そこで風間の絵に出会ったという。
 
風間は22年近く、東京拘置所の独房で過ごしている。ふた昔前と言えば、パソコンも携帯電話も珍しく、スマートフォンなどは想像さえされていなかった時代。FacebookTwitterもLINEもなく、今とは別世界だ。
 
獄中で作画する困難さを語った風間の言葉が、『迷宮の飛翔』のあとがきに記されている。
 
「社会では今、知りたいことは何でもパソコンですぐに調べることができるようですが、ここではスイカの柄にしろ、車の形にしろ、手探りです」
 
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※画像:『迷宮の飛翔』より
 
加えて連絡の困難さがある。アメリカでは死刑の残っている州でも、確定死刑囚と文通したり、電話、面会したりできる。だが、ここ日本では、確定死刑囚と面会、文通できるのは、親族と拘置所が認めた限られた知人のみである。
 
作家から、このような絵を描いて欲しい、と直接注文することはできない。作品への希望や、できあがった絵に対する感想はパンフレット形式にして、文通ができる支援者に託すという形で作画は進められた。塀を越えた困難な交流は、逆に豊かなイマジネーションを産み、作家の意図を超える絵ができあがった。
 
物語がやがて作者殺しを試みるという、狂気を孕んだ不条理な小説。風間博子の絵は、この小説の幻視的世界を際立たせている。 トカナより

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