2017年10月4日水曜日

日本人、中国で電動バイク買う

日本で年老いた親の面倒を見るために帰国したはずなのに、諸々あっていつの間にか中国にまた戻ってきて一番の悩みが交通手段である。鉄道網の代わりに安価なバス網が発達しているので重宝なのだが、日本のような時刻表がないのである。ある時など、待っても待ってもバスが来ない。聞けば道路工事のため通知なしに路線が日替わりで変更されていたりする。

とはいえ中国には、電動バイク(フル電動自転車)という優れた選択肢がある。セグウェイ風のものから後述するような電気自動車の一歩手前のものまで、考え得るあらゆる
タイプのものが市場に出回っている。

もっとも、すべては自己責任だという点がなんとも悩ましいのだが。

というのも少しググるとお分かりになっていただけるが、「たまたま」検品をくぐり抜けてしまい、突然火を噴いて壊れてしまうような残念なハズレ品が市場でまかり通っていたりする。また、中国において電動バイクは日本の自転車のようにどこでも走れる、つまり規制というものがほとんどない。免許もなければヘルメットの義務付けもなく自賠責など何もない。簡単に言えば、すべてが自己責任なのだ。

それで中国人の妻と相談の末、もうすぐ3歳半の子供の安全を優先し、走る鉄製の箱のような様相の電動四輪バイクを買おうとタオバオを物色したところ、7千元(日本円にして10万円少し)の出物を見つけてしまう。屋根付き密閉タイプだから雨が降ってもへっちゃら。また1回の充電で70キロ程度の距離を走れるとのことなので、35キロ先の農村に住む妻の年老いた両親のところならなんとか往復できるかも?などと夢が膨らむ。

ところが妻の親族から、「たぶん偽物かも」と脇から急ブレーキを踏まれてしまった。バッテリーが本物か偽物か新品なのか使い古しなのか誰にも分からない、という簡潔かつ非常に説得力のある説明によりこの案は却下となり、今度は家の近くの電動バイク店を回ってみたところ、ついに1万4千元(20万円少し)の電動四輪バイクを探し当てた。

ぱっと見はまるで普通の電気自動車をそのまま一回り小さくしたようなこの電動四輪バイクは1回の充電で約80キロの距離を走れるだけでなく、なんと発動機がついているので都度ディーゼルを給油し給電しさえすればどこまででも走れるというスグレモノだ。1年間360元、つまり1日1元程度(20円弱)の対人対物保険もあるそうで、50キロ程度離れている空港に日本から遊びに来た友人を迎えに行くというミッションさえ可能である。これこそがファイナルアンサーだと確信し、家に帰ってお金の算段を始める。

しかし待て。そもそもこの某メーカーの車両は安全なのか。ググってみると驚いたことに、突然火を噴いておしまいという、まさにそのメーカーの車ではないか。火を噴いた時の写真というのがなんとも合成っぽいものの、やはり不安はぬぐえない。で、翌朝すぐに電動バイク店に行って聞いてみると明らかに狼狽した様子で、自分たちはそういう話は聞いていないし、この電動四輪バイクはそれとは違うまた別メーカーのものだし、第一、火を噴いたというのは別タイプの車両なので関係ない、と逆に怒鳴られてしまう。

「でも保険に入っていれば何とかなるんでしょ?」と妻が聞くと、それは保険の対象外だし売っているだけの自分たちは何もできないとあっさり言われてしまった。私たちは仏教徒だからウソはつかないとも念を押され、確かにウソは言ってないなと変に納得してしまう。

つまり、もし万が一火を噴いても自己責任でお願いします、というわけだ。仮に約20万円の愛車が炎に包まれたところで、報道によればどうやら泣き寝入りでおしまいなのである。

ちなみに中国全土での出荷台数上位120社の電動四輪バイクメーカ一覧によると、火を噴いておしまいという例のメーカーは驚いたことに全国11位という健闘ぶりだった。少なからぬ中国人が自己責任でこのメーカーの車に実際に乗っているわけで、悩ましい話ではある。

僕たち自身は結局、友人(正確には友人の友人)を介して少し高めで二輪の普通の電動バイクを2千800元(4万5千円弱)で購入した。やはり1回の充電で80キロ前後の走行が可能なのだが、妻子を乗せ(つまり3人乗りで)田舎道を片道35キロのツーリングというのは「かなり危ないと思う」という別の友人の親切なアドバイスにしたがって、外回りやミーティングへの参加等10キロ半径内程度を比較的低速で毎日行ったり来たりしているのだが、大型スクーターのような乗り心地で快適この上ない。

とはいえ、今回買った電動バイクでさえ、買った翌日にデパートの前でエンコして動かなくなってしまった。すぐに友人とバイク屋さんに連絡を取って助けに来てもらったところ、ただの接触不良とわかりホッと胸をなでおろす。家に帰ってから少し心配になってネットでこのメーカーの評判を調べると、「一分銭一分貨」つまり安価なモデルはダメな一方で信頼性の高いモデルは値が張るというなんだか既視感のあるコメントが並んでいた。もっとも、残念なことにさらにもっと有名なメーカーの電動バイクは必ずと言っていいほど偽物が出回っているのだが。

日本の十倍もの人口、また無数の大小メーカーがひしめく「百花斉放、百家争鳴」な中国というこの国では、昔も今も自己責任なリスクを減らすためにあれやこれやの工夫や用心が必要だということだろう。電動バイク一つ買うにしても、信頼できる友人という良い意味での縁故や各方面へのアドバイスは欠かせない。

実を言えば、僕自身はもう一ランク安い白い電動バイクが欲しかった。しかし友人が耳元でそっとつぶやいて言った。「中国人で白いのに乗っている人は多くないから、目立っちゃうよ。見栄えが良くて新品かどうかも一目で分かるから盗まれやすい色でもあるんだ。だから赤か黒にするといい」。いや、日本人の僕にその視点はなかった。ボディーカラーの選択まで自己責任だとは。なんとも悩ましい。   レコードチャイナより

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