このロマンティックな名前の由来は、街が月に届くほど高い場所にあるからだ。つまり、普通は人が住まない高山地区を不法占拠して作られたスラムなのである。
昨年、ソウルの「ペクサマウル(白砂村)」と呼ばれるタルトンネに行ってきた。ここは「蘆原区中渓洞104番地」という住所で、104の発音が「ペクサ(白砂の意味)」なので、ペクサマウルと呼ばれる。
建物はボロボロで、屋根は布のシートの上にタイヤを重しで置いているだけ。家の周りはひたすらゴミが折り重なっているという、スラム街の光景が好きな人にとっては垂涎の光景が広がっていた。
そんなヒドい建物なのに、並んでいる車はピカピカというのも印象的だった。家賃は不法占拠で安くすませて、動産を買う、というのはいかにも賢いやり方ではないだろうか? もちろん、“悪賢い”の賢いではあるが。
■釜山のスラムを支える日本の“あの石”
そして今年、今度は釜山のタルトンネに行ってきた。そこは、ソウルのタルトンネとは違い、とてもカラフルだった。なんでも、イメージを一新するため、芸術活動に力を入れて、アートな街と変化したのだと言う。観光客もたくさん訪れていて、記念撮影をしていた。
スラムの風景が大好きな僕としてはちょっと残念だったが、色とりどりの町並みや、街に溢れるアート作品は、それなりに面白かった。
その広大な街を散策していると、妖怪塗り壁のような、四角いゆるキャラを発見する。タルトンネの中のとある地区の“名物”を表現した、ゆるキャラだという。
名物とは一体なんなのか。アート化したとはいえ、高山地区という地形は変えられない。細い路地の階段を、えっちらおっちら登って散策する。
ふと見ると、漢字が書いてある階段を発見。韓国では、あまり漢字が使われないので、漢字があると目立つのだ。
しかもその階段には、「南無阿弥陀仏」とまで書いてある。
「ゲゲッ!! お墓じゃないか!!」
それも、日本の、僕たちの祖先のお墓が、その地区の石垣や階段に大量に利用されているではないか。僕は、神仏やら罰やらは信じないほうだが、さすがにお墓を踏むのは無理だ。
そう、このタルトンネの名物であり、先に紹介したゆるキャラの正体とは、日本人のお墓をイメージしたキャラクターだったのだ。
ジャップ・セメタリーちゃんとでもいった感じなのだろうか? まあ、なめられたものである。
『国分治之墓』と書かれた立派なお墓は、家の土台として利用され、パステルグリーンのペンキが塗られていた。国分さんも、まさか死んだ後に、自分のお墓が縁の下の力持ちになっているとは思いもしなかったろう。
一番ヒドイなと思ったのは、お墓で作られた石垣に、アートの街らしく、オドロオドロしい絵が書き加えられてある一角だ。韓国は日本とはお墓の形態が違うらしく、なんとも適当な感じの絵に仕上がっていた。
そのアート作品の近くには、警察のイメージキャラクター(日本でいうピーポくん)が書かれた一角があった。「警察公認でやってるんだな〜」って感じがして、もやもやした。
地元のおばさんに軽く話を聞いてみると、「昔に比べるとお墓むき出しの場所は減った。今はほとんどなくなった」とのこと。
とはいえ、十分にそれだと確認できるほど、街のあちこちで建材としてお墓が利用されていた。一体、昔はどれだけ大量に、日本人のお墓が転がっていたのだろう。
しかし思うのは、韓国人は、日本人に対し怒りや、嫌悪感があるかもしれないが、それでもわざわざ毎日歩いて、目につく場所にお墓を置く精神はなかなか理解できない。僕なら、山にでも埋めてしまって、忘れてしまうがこれも、国民性の違いなのだろうか?
今売れに売れている韓国のスゴイことわざを集めた、『新版朝鮮カルタ韓国ことわざ100選』(青林堂刊)を読んでいた際に、「泣く子に大便を食わせる」ということわざが紹介されていた。「悲しんでいる人に、よりヒドいことをする」という意味らしいが表現が、どうにも日本人には強烈すぎる。傷口に塩を塗るくらいでは、すまさないのだ。
ともあれ、なるほど、ムカつく日本人の墓を、毎日踏みつけて楽しく生きていける、韓国人の心の強さがわかった気がする。そんな釜山は、海水浴もできるし、魚も食べられるので、ぜひ、旅行に行ったらいいと思いますよ。 トカナより
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