もしドナルド・トランプ米大統領が実際に、気候変動に関するパリ協定からの離脱を決めたら、国際社会は混乱するだろうし、ホワイトハウスの中でも気候変動対策の必要性を主張する勢力(娘のイバンカさんを含め)は立腹するだろう。しかしトランプ政権には、協定離脱を強力に推進する勢力がいるのだ。
スティーブ・バノン上級顧問のような経済ナショナリストにとっては、協定離脱は意思表示にほかならない。「国際社会」の懸念よりも、米国は自分たちの経済利益を優先するのだと、明確に示すのが狙いだ。
環境保護庁(EPA)のスコット・プルイット長官をはじめ、社会運動に批判的な保守勢力は、環境保護運動にぜひとも一撃を加えたいと思っている。プルイット長官たちにとって環境派の運動は、「地球にやさしい」ふりをした、隠然たる社会主義運動にほかならない。
一方で、トランプ氏を支持する労働者たちは、どこか遠いところの海面上昇や気候変化の危機よりも、自分たちの仕事や生活スタイルのことを心配している。特に、ウェストバージニア、オハイオ、ペンシルベニア各州の石炭生産地の人たちがそうで、この人たちこそが大統領選でトランプ氏に勝利をもたらした支持基盤だ。
トランプ氏の長女イバンカ・トランプさんと夫のジャレッド・クシュナー上級顧問、レックス・ティラーソン国務長官、ジェイムズ・マティス国防長官はいずれも、パリ協定残留を支持していたと言われる。理由は、環境や外交、安全保障など様々だ。
大統領の娘は、政権移行期間に父親と、温暖化対策活動家として有名なアル・ゴア元副大統領との会談をセッティングしたほどだ。
しかし、トランプ氏の大統領選がどういうテーマや利害関係を中心に据えていたかを思えば、こうした環境保護の努力は常に大勢に逆行する戦いだった。
トランプ氏がかつて、地球温暖化の懸念は中国が広める「でっちあげだ」と公言したことは有名な話だ。しかし大統領選の最中は、環境問題にはほとんど言及しなかった。
大統領は選挙戦序盤には、雇用や経済や政府規制について大いに弁舌をふるった。この先もしもパリ協定から離脱するなら、それは米国人の利益になることだ、自分の政権が米国人の所得拡大に取り組んでいる証拠だと主張するはずだ。
政権のこうした動きが国際社会のエリートや米国のリベラル、メディアの論客たちを怒らせるなら、むしろ何よりというところなのだろう。
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