2017年6月19日月曜日

世界でいちばん放射線量の高い場所10【PART2】

■第7位 マヤーク核爆弾生産コンビナート、ロシア共和国/ Mayak, Russia

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ロシア共和国ウラル地方のチェリャビンスク州にあるマヤーク(Маяк/Mayak) 核技術施設は、すでに半世紀以上にわたって、原子力発電所を稼働させてきたプラントだ。といってもその目的は電力ではなく、原子爆弾に用いるプルトニウムの生産にあった。マヤーク(灯台の意味)とはここで製造された原子爆弾の名で、5基の原子炉を持つこのプラントの周囲には技術者とその家族の住む都市が秘密裏につくられ、「チェリヤビンスク65」の暗号名で呼ばれた。

ソ連では、放射性廃棄物の取り扱いがずさんで、液体廃棄物は近くの河川や湖にタレ流しにするのが常態化していた。だがやがて、労働者や付近の住民に健康被害が生じるようになり、高レベルの放射性廃棄物は濃縮してタンクに貯蔵する方法に切り替えられた。

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旧ソ連の原発と秘密核都市

放射性廃棄物の入ったタンクは、崩壊熱により高温となるため、絶えず冷却をつづける必要がある。ところが1957年9月、この冷却装置が故障し、300立方メートルのタンク内の温度は急上昇し、大爆発を起こした。これを「キシュテム事故」と言い、最大100トンの放射性廃棄(radioactive waste)が大気中に放出され、広範なエリアを汚染。結果、40万人を超える人々の頭上に放射線が舞いそそぐことになった。

今日、この広域汚染は「ウラルの核惨事」と呼ばれ、1986年のチェルノブイリ原子力発電所事故、2011年の福島第一原子力発電所事故のレベル7(深刻な事故)に次ぐ、史上3番目に重大な原子力事故とされている。

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放射線の影響で生まれた無頭児

この事故を、旧ソ連が極秘としてひた隠しにしたため、概要が明らかになったのは1976年、亡命した科学者ジョレス・A・メドベージェフが発表した論文によってだった。

しかし旧ソ連側はこれを否定。アメリカもまた冷戦下における核開発に批判が及ぶのをおそれて事態を静観した。なにより世界中の原子力推進派々が、そうした事故はあり得ず、単なる作り話であると喧伝した。

このため、爆発の真相が開示されるには1989年のグラスノスチ(情報公開)を待たねばならなかった。なお地域住民に、大規模で深刻な放射能汚染が公式に通達されたのは、事故から34年後、ロシア政府が発足した1992年前後のことだった。

1950年代から、プラントの廃棄物は周辺地区と、カラチャイ湖(Lake Karachay)に投棄されてきた。このため、専門家は、この湖が世界でいちばん放射線量の高い場所の1つであることを疑わない。にもかかわらず、数千の人々が日常的に湖水を用いている。

ご参考の動画は、マヤーク核技術施設が、周囲の住民たちにどれだけ深刻な影響と不安をあたえているかを伝える実直な佳作。ご興味の向きは是非、ごらんいただきたい。


動画は、YouTubeより
 
■第6位 セラフィールド、イギリス/Sellafield, UK

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イギリスのロー・ティーンの歯からセラフィールドに由来するプルトニウムが検出されたことを報じる新聞記事
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イギリスの北西海岸に位置するセラフィールド(Sellafield)とは、原子力廃止措置機関 (NDA) の管轄下に、セラフィールド社が運用する核燃料再処理工場群のことだ。もともとは1947年、ウィンズケール原子力発電所と一体になって、核爆弾用のプルトニウムを生産する施設(plutonium production facility)として着工された。たったいまご紹介したばかりのヤマーク核技術施設や、前回とりあげたアメリカのハンフォード核処理施設のイギリス版といったところだろう。その後、商用原子力発電所や再処理工場などが併設されて現在に至っている。

1957年10月、ここで世界初の原子炉重大事故「ウィンズケール火災事故」が発生した。原子炉2基の炉心で16時間におよぶ火災が起こり、多量の放射性物質が外部に漏洩した。避難命令がなかったため、地元住民は生涯許容線量の10倍の放射線を浴び、その後、数十人が白血病で死亡した。現在でも、セラフィールド周辺の白血病発生率は全英平均の3倍となっている。

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セラフィールドのロケーション

1981年、施設の改編にともなって、セラフィールドと改名したこのプラントは操業以来、すでに数百件もの事故を起こすとともに、周辺住民への深刻な健康被害などからつねに物議をかもしだしてきた。そして、なんとも身の毛のよだつことだが、現在では、建屋の約3分の2がそれ自体、もはや除染不可能な核廃棄物に指定されている。

その上、このプラントは毎日のように、800万リットルもの汚染水を排出し、アイリッシュ海(Irish Sea)を世界でいちばん放射性濃度の高い海と化している。イギリスはその緑の野原と起伏のある景観で知られる詩情豊かな国だが、この先進国の中心部に、公海に有害廃棄物を垂れ流す、危険な事故多発施設がひかえているのを忘れてはなるまい。

なお日本国内の電気事業者は、青森県六ヶ所村の再処理工場が稼働するまでの措置として、フランスのアレヴァ社(AREVA NC)のラ・アーグ再処理施設と、このセラフィールドに再処理業務を委託している。

動画は地域住民、管理運営者、科学者らへのインタヴューを織り交ぜてセラフィールドの全体像を描き出そうとする意欲的なもの。視聴をお薦めしたい。


動画は、YouTubeより
 
■5 シベリアの化学コンビナート、ロシア/Siberian Chemical Combine, Russia
 
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野外に晒された六フッ化ウランを格納した金属容器 秘密核都市トムスク7で

なにもマヤークだけが、ロシアで唯一汚染された核施設ではない。すでに40年以上にわたって、広大なシベリアの大地は、膨大量の核廃棄物を貯蔵する、白銀のゴミ捨て場と化している。

液体廃棄物の多くは、覆(おお)いのプールに格納されており、12万5000トンを超える固形廃棄物もまた決して安全とはいえない容器の中に保管されている。さらに地下貯蔵庫にはつねに地下水が進入する不安がある。

これまでも風雨が野生動物と周辺地域に汚染を広めてきたが、さまざまな小規模の事故や爆発がその度にプルトニウムを誘い出し、放射線の危険きわまりない拡散につながっている。

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北極海に浮かぶランゲル島 投棄された廃棄物の間を歩くシロクマ

たとえば、世界的に知られる環境NGO、ノルウェーのベロナ・ファウンデーション(Bellona Foundation)は2012年、旧ソ連北極海の約1400平方マイル(約3600平方キロメートル)に渡る海域に、放射性廃棄物の入った約17,000本のバレルを投棄していた事実を発表した。

同時に、核廃棄物を積載した船舶19隻、廃棄した原子炉14基(うち5基には使用済み核燃料が入ったまま)、放射能にまみれた重機735台、横腹に穴をあけたK-27原子力潜水艦(核燃料が入った原子炉2基が搭載されたまま)も海中に沈められてきたという。このうち原子炉はいつ臨界に達してもおかしくはない。

下記の、理不尽な放射線障害に苦しむ人々と、子どもたちの未来を憂える動画は、海洋と同じずさんな投棄が、白樺林と沼沢地の無限の連なりのいたるところで行われてきた空恐ろしい事実をわたしたちに突きつける。
(文・構成=
石川翠


動画は、YouTubeより

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