2016年5月14日土曜日

人民元が暴れ出す! 死んでるのに死なない経済の謎を解く

モノからカネのチャイナリスクへ

田村秀男(産経新聞特別記者) 2016年の世界経済最大の焦点は、中国の企業債務問題でしょう。15年は中国の生産過剰が世界のモノの市場を揺さぶりました。次はカネ版のチャイナリスクです。株式を含む世界の市場が中国製債務爆弾に脅かされることになります。

国際決済銀行によると、15年6月末の中国の企業債務(金融機関を除く)残高はダントツの17・2兆ドル(約2100兆円)。国内総生産(GDP)でアメリカの6割程度なのにアメリカの企業債務12・5兆ドル(約1550兆円)を凌駕しています。膨張速度もずば抜けていて、リーマン・ショック直後の08年末に比べ3・8倍(アメリカ16%増、日本30%減、他の新興国は64%増)。

党支配の異形市場経済がつくり出した金融バブルです。

宮崎正弘(評論家) ニューズウィークによれば、中国企業の債務は、対GDP比で約160%です。我々は一貫して中国はバブルだから危ない、危ない、と言ってきたわけですが。

田村 そう、我々は危ないと言ってきましたね(笑)。バブル経済とは何か。もちろん、資本主義経済の成長は債務の増大で支えられますから、企業は借金をしては設備投資し、雇用を増やしていきます。その結果、需要が創出され、高度成長に導くという好循環となるなら、「よい債務増大」と評価できる。それが「悪い債務」に転化したのがバブル経済ですね。

これは、ちょうど正常な細胞が、がん細胞に変わって増殖するのに似ています。「バブルは破裂してから初めてバブルと定義できる」とグリーンスパン元FRB(米連邦準備制度理事会)議長は現役時代に嘆いたほど、「よい」から「悪い」ほうへの転換点の見極めは難しい。

しかし、中国バブルは目を凝らせばはっきりわかる。

渡邉哲也(評論家) はい。でも、政府の公表数字だけを見ても、全くわからないのが中国なんですよね。知ってか知らずか知りませんけど、政府の数字だけを見て、「健全だ」「まだまだ好調だ」なんて言っている人やメディアもあるのが事実で…それも専門家を名乗る人たちやメディアだったりするんですよね。

宮崎 そもそも中国発の数字を先進国の資本主義メカニズム同様に考えてはいけないわけです。大半の国有企業の公開情報はデタラメで、工場を閉鎖したのに「操業中」と報告するくらいは屁とも思っていない。株価罫線(チャート)、PER(1株あたりの収益率)、PBR(1株あたりの純資産倍率)というような近代の株式形成理論はいっさい通じない。あれはマカオの博打場と同じなんです。

市場参加者の8割を占める個人投資家は、「あの会社は共産党幹部の某の息子が経営している」とか、「この工場は習近平が2回見学に来た」などの情報を株の売買の判断基準にしているような状態ですから。

田村 そもそも08年9月のリーマン・ショック後、中国人民銀行(中央銀行)は、党中央の指令を受けて国有商業銀行を通じ、国有企業などに巨額の融資を行ってきましたね。それを可能にしたのはFRBによる量と金利両面での史上空前の超金融緩和政策でした。

海外にあふれ出たドル資金の多くが中国に向かい、人民銀行はそれを吸い上げて人民元に置き換えたわけです。人民銀行による資金発行量は米日欧を上回る。人民銀行資金は国有商業銀行を通じて国有企業や地方政府に融資されて回り出す。不動産や生産を刺激して、何倍にも増殖して現預金となる。その膨張率は半端ではなく、やはり米日欧を圧倒するのです。

そのようにして、企業と地方政府は借り入れては生産設備や不動産に投資し、供給能力を肥大化させてきましたが、13年から14年にかけて不動産バブルがはじけたわけですね。私はそれをモノ版チャイナリスクと呼んでいます。

宮崎 中国の地方政府が不動産開発を次々と行い、すでにそれらははじけ、ゴーストタウンになっていることは報じられて久しい。典型例は、私も五年前に見に行きましたが、内モンゴル自治区オルドス市カンバシ新区で、100万人規模の幽霊都市をつくっちゃった。

渡邉 なぜか中国政府に不都合な話は日本のメディアにほとんど載らないから、それを知らない日本人も多いのだと思います。それで騙された日本の企業や投資家がたくさんいると思うのですよ。まぁ、投資は自己責任ですけど…。

外貨準備高が激減している

渡邉 中国の土地バブルが崩壊したこともあり、行き場を失った資金は、株式市場に流れ込みました。また、中国政府が金融緩和を繰り返し、「株投資奨励策」ともいえる規制緩和を行ったことにより、さらに株高気分が生まれ、大量の個人投資家が株式市場に向かった。そして、15年の上海株の暴落へとつながっていきます。

宮崎 中国株(上海総合指数)は、15年6月中旬のピークから7月の初旬までに35%前後も下落して、時価総額3兆ドル(約370兆円)が消えた。

渡邉 それまでの中国市場の株式総額の伸びは異常でした。株式市場の市場規模は、14年からの1年で、4兆ドルから中国のGDPと同レベルの10兆ドル程度までに拡大。この拡大資金は、先に述べたように不採算に陥った不動産市場や債券市場から流れ込んだカネと、「信用取引」などにより膨れ上がった「フェイクマネー」だったと考えられます。

宮崎 上海株の暴落を食い止めるために、中国政府はなりふり構わぬ防衛策を採った。取引停止や「空売り」の禁止、上場企業の経営陣と大株主に対しては「今後6カ月の株式売却を禁止」。さらに、中国人民銀行は有力証券会社21社へ特融(特別融資、つぶれそうな社に資金を供給すること)を断行すると会見、債券市場での資金調達も許可しました。

渡邉 それでも15年7月27日に株価は約8・5%下落しました。セカンドショックといわれる現象です。

さらに、実体経済の悪化を踏まえたサードショックが訪れました。株式市場のみならず、資源市場に波及したのです。WTI原油先物(国際的な原油価格指標、経済指標)は40ドルを割り込みました。中国勢が退場することは資源市場の総資金量の減少を意味し、これが世界に波及して資源価格のバブルも崩壊させました。

15年7月に始まった中国のバブル崩壊、それに続いた資源価格のバブル崩壊で、世界のマーケットから約5兆ドル(約570兆円)が失われたということになります。そして、さらにフォースショックがありました。

宮崎 15年8月20日、またも上海株の急落。25日には1日で7・6%安。

渡邉 株安は日米欧、アジア諸国へと伝播し、世界同時株安を引き起こしました。

宮崎 防衛策が効かず、にっちもさっちもいかなくなった中国は、7%株価が暴落した時点で取引停止にするという「サーキットブレーカー」なる新ルールをつくったわけですが。

渡邉 2016年の年明けとともに株式市場で導入された「7%のサーキットブレーカー」は、制度開始からわずか4日で運用停止になりました。1月7日は開始後わずか30分で取引停止となりましたが、これについては、15年7月8日の株価暴落の際に決められた「5%以上保有する大株主と経営陣の半年間の株式売却禁止処置」の期限が1月8日に切れることを見越した売りであったと言われています。この事態を受けて、中国当局は株式売却禁止処置の半年間延期を決めました。しかし、一度下落を始めた市場は簡単には回復せず、今も不安定な状況が続いています。

宮崎 16年1月7日、中国人民銀行は、公式に外貨準備高の減少を発表しましたね。2014年末の外貨準備高は3兆8400億ドル。2015年末の外貨準備高は3兆3300億ドル。マイナス5100億ドル(約61・5兆円)ですよ。これは「公式」数字なので、恐らく実態では、この倍は目減りしているでしょうね。中国人民銀行の為替操作が、もはや厳重に管理できず、実勢市場では機能しなくなって、外圧と逃亡資金のメカニズムが当局の意図とは異なる方向へ暴走を始めているからでしょう。ちなみに2016年2月末の外貨準備は3兆2023億ドルです。

元高でも元安でも地獄

田村 中国からの資金流出は止まらず、人民銀行は外貨準備を取り崩して元を買い支えざるを得ません。「元安容認」となると、資本逃避に加速がかかりますからね。

米FRBは、15年12月、ゼロ金利政策に区切りをつけました。さらに、小幅で緩やかながら利上げを継続していく考えのようで、16年にドル資金のUターンの流れはさらに強まると思われます。


ドル相場は現在、円、ユーロなど主要通貨に対して上昇基調にあります。一方、中国の人民元はドルにほぼ連動させる管理変動相場制を現在もとっている。人民銀行は、元の対ドル相場の変動を基準値の上下2%以内にとどめるよう市場介入し、わずかずつ元高に誘導してきました。資本逃避を防ぐためです。しかし、これを続けるとドル高=元高によるデフレ圧力がかかることになる。

現在、中国の企業は製品価格が下落を続けるデフレ病に冒されています。値下がり分をカウントした企業にとっての実質金利(名目金利から物価上昇率をさし引いた金利)は12%にもなり、債務返済できない。返済できないから、貸し手である金融機関にとっては不良債権がどんどん増えていくはずです。が、中国側の統計では不良債権は低水準のまま。それはなぜか。

要するに、党中央が企業と金融機関を支配している中国では、党幹部の指令でいくらでもカネが動きます。債務返済できなければ銀行が追加融資したり、返済繰り延べに応じる。国有企業大手は高利回りの「理財商品」と呼ばれる投資信託を通じて資金調達する。さらに株式市場で新規上場したり、増資してゼロコストの資金を調達する。こうして企業債務は雪だるま式に増長を続けます。今後、アメリカが追加利上げに踏み切ると、中国の債務不安はさらに深刻化する恐れがあります。

それを避けるためには、中国は元を切り下げる必要がありますが、するとワシントンから制裁を受ける恐れが高まります。共和党の大統領有力候補、ドナルド・トランプ氏は「中国は為替操作国」だとすでに非難しているし、大統領選と同時に行われる上下両院の選挙を控え、議員の多くが反発するでしょう。

また、先述のように、中国も、元切り下げをためらわざるを得ない事情を抱えています。元安となると、巨額の資本逃避が起きる恐れがあるからです。現に、15年8月に人民銀行が人民元切り下げに踏み切ると、大量の資金が流出しました。

渡邉 ところが、15年12月14日には対ドルで人民元は4年ぶりの安値をつけました。中国人民銀行が対ドル相場だけで人民元の価値を測るべきではないと指摘したことを受け、元安容認のサインという見方が広がったと報道された。

そして、中国人民元の価格はオンショア(国内)市場とオフショア(海外)市場との間で乖かい離りが拡大、中国政府の監視が利かない海外市場が主導する形で下落を続けた。中国の金融当局としては、海外市場での積極的な介入で通貨防衛していたようなのですが、売りが強すぎたのですね。

宮崎 16年1月8日時点で人民元は、前年末に比べてオフショア市場ではすでに36%も崩落している。人民元のオフショア市場は香港、シンガポール、ロンドン、台湾など。日本の株式市場やウォール街も、人民元安と上海株の暴落とに連鎖して下げました。

田村 中国企業の債務のうち外国に対する債務は、1・3兆ドル(約158兆円)に上ります。大半はドル建てだから、人民元の下落が続くと返済負担がさらに重くなります。16年もアメリカの利上げ、ドル高が続けば、いよいよ中国企業は追い込まれる。

渡邉 つまり、元高でも元安でも、もはや中国は地獄の様相というわけです。

田村 バブルが崩壊したあとは何が起きるか。日本の場合、慢性デフレによる「空白の20年」でした。北京は日本の二の舞を避けるため、後に詳しく話しますが、「国際通貨人民元」を武器に、対外攻勢を強めるしかないということになる。日本はそれこそを、警戒すべきです。
 産経ニュースより

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