2018年9月2日日曜日

日本は台湾のTPP加盟を強力に後押しすべき

久方ぶりに台湾へ出かけた。出発前「台南の慰安婦像の取材?」と聞かれたが、今回の目的は台北市にある国立大学と私立大学での講演である。しかも、折しも先週末、台湾中部から南部を連日豪雨が襲い、死者7人と100人以上のけが人が出た。そのため、現地台南は慰安婦像どころの状況ではなく、一昨日の台北での慰安婦像に絡む市議選候補のパフォーマンスにも市民の関心は薄かった。
 
台北も雨模様のなか、集まってくれた両大学の学生さんの年齢は、上は何と80代から下は20代、大学院で学ぶ社会人が少なくなかった。テーマが日本の政治関連だったにもかかわらず、女性聴講者が目立ったことに驚いたが、総統が女性というお国柄を考えれば当然なのかもしれない。

だが、そんな聴講者の間でも、蔡英文氏、2年前の総統選では圧倒的な支持を集めて当選した女性総統の評判は、いまひとつパッとしなかった。

受講者の中には台湾衛生福利部(=日本の厚生労働省に近い)の現役官僚もいた。職業柄、日本の年金制度などに関心を寄せていたが、この人の質問を皮切りに、他の受講者からも日本の年金について質問が相次いだ。

「2004~06年ごろ、日本で年金納付率低下が問題になったはずだが、現状どうか」「当時、日本国民の年金不信が強かったはずだが、最近は聞かれない。どうやって克服したのか」

こうした質問の背景には、蔡英文政権誕生以来、「年金制度改革」が台湾での最大の政治論争のテーマだという事情がある。旧来の退職者向け制度は、極端な「軍、公、教(=軍人、公務員、教師)」厚遇。公金で支給される高額退職金に加え、その退職金を金融機関に預けると18%もの利息が付くという仰天の優遇もあった。馬英九前政権時から、この制度を改めなければ国家財政は破綻すると言われてきた。

民間企業の勤め人、自営業者からの反発の声は当然高く、蔡氏は格差是正の制度改革に踏み込んだが、かなりの反発を受けた。元軍人や公務員、教員ら既得権層が反発する一方、総統選で蔡氏を強く支持した若者やリベラル層からは「改革が手ぬるい」との不満も出ている。

「手ぬるさ」の別の一例には、民進党が党公約とした同性婚容認を、蔡政権が棚上げしていることなどもある。理由は「支持団体であるキリスト教勢力への配慮」などと言われる。

そして、もう1つ、これが最大の問題だが、「景気が良くならない」と多くの人が感じ、その理由を「中国との関係が厳しくなったせい」と考えていることである。

実際の経済指標ほどに、国民の景況感が良くない裏には、台湾メディアによるミスリードも多分にあると思える。だが、日本と同様、台湾が成長期のような「好景気」を味わうことは今後難しく、そこへ少子高齢化が影を落とし、漠たる将来不安につながっていると見える。

日本と台湾は安全保障に加え、内政でも類似の悩みを抱えている。であれば今こそ、協力して新たな経済成長の軌道を描き直す策に出てはどうか。

その第一歩として、日本が事実上の事務局役を務めるTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)、ここへの台湾の加盟を日本が強く後押しすることから始めてはいかがか。

■有本香(ありもと・かおり) ジャーナリスト。1962年、奈良市生まれ。東京外国語大学卒業。旅行雑誌の編集長や企業広報を経て独立。国際関係や、日本の政治をテーマに取材・執筆活動を行う。著書・共著に『中国の「日本買収」計画』(ワック)、『リベラルの中国認識が日本を滅ぼす』(産経新聞出版)、『「小池劇場」の真実』(幻冬舎文庫)など多数。夕刊フジより

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