(2017年9月22日に掲載した【経済インサイド】を再掲載しています)
「同盟の中核をなすFTAを破棄してはならない」
米議会上下院の幹部は5日、米韓FTA破棄に反対する共同声明を発表した。
朝鮮半島の緊張が高まる中で米韓が“通商戦争”を起こせば、北朝鮮を利するだけでなく、後見役として金正恩体制を支える中国やロシアに対し日米韓が結束して厳しい経済制裁を求めることも難しくなる。
ロイター通信によると、トランプ氏はこうした国内の声に配慮し、破棄の判断を先送りしたもようだ。
ただし、火種は残る。米韓FTAは2012年3月に発効したが、米通商代表部(USTR)は米国が16年に韓国とのモノの貿易で約276億ドル(約3兆円)の赤字を計上し、発効前の11年より赤字額が2倍超に増えたと主張。トランプ氏は米韓FTAを「おぞましい取引」と非難する。
8月にはソウルでFTAの扱いをめぐる初の特別会合が開かれたものの、米側が求める再交渉を韓国側が拒否し物別れに終わった。今後、トランプ氏が北朝鮮問題の推移を見つつ、どこまで強硬な手を打ってくるかに注目が集まっている。
なぜトランプ氏や米通商代表部(USTR)は米韓FTAにこだわるのか。通商筋は「韓国の約束破りに米国の議会や業界団体の不信感が高まっているためだ」と説明する。
米国はこれまで、韓国がFTAで約束した薬価の決定過程や公正取引委員会による調査の透明性確保、政府機関による海賊版ソフトウエアの使用禁止など、複数の分野で「協定が十分履行されていない」と批判してきた。韓国側は「約束は果たした」と反論するが、意見は食い違っている。
自由貿易交渉では双方の国益をかけて激しい議論が交わされるのが常だ。ただ、一度結んだ協定を順守せず、関税撤廃など市場開放の果実だけを得ようとすれば批判はまぬがれない。
鬱積した不満の上にトランプ政権が優先課題で掲げる「貿易赤字の削減」が重なり、韓国とのFTAが標的になったもようだ。既に米国の通商政策における米韓FTAへの関心度は「北米自由協定(NAFTA)再交渉や、中国の過剰生産問題に次ぐ3番目」(経済官庁幹部)まで高まっているとの指摘もある。
トランプ政権発足後、日本政府が身構えた日米FTAの優先順位はどうか。
ライトハイザーUSTR代表は今年6月、日米経済対話が「ある時点でFTAにつながるかもしれない」と指摘しつつ、「日本は交渉の準備ができていないので今すぐFTAに動く必要はない」と説明していた。
政府関係者は「米国が日本にFTA交渉を迫ってくるといまだに考えている人は、霞が関にはもうほとんどいない」と指摘する。
トランプ政権が通商政策で強硬姿勢を示すのは、内政課題で目立った成果が上がらない中、来年11月の中間選挙までに米国の国力を前面に出した通商交渉で手っ取り早く得点を稼ぎたい思惑が強い。数年間の協議が必要なFTAの新規締結は時間がかかり過ぎる。
米国が中国に迫った「100日計画」のような短期決戦の通商交渉を求めてくる可能性は残る。ただ、日本は米国産シェールガス由来の液化天然ガス(LNG)を東南アジアなどに売りさばく“水先案内人”を買って出るなどトランプ氏の顔を立てる経済協力を仕込んでおり、経済対話は穏便に済むのではないかとの期待感も広がっている。
とはいえ、いくら日本が抜け目なく動いても、米韓の通商戦争が勃発すれば北朝鮮のさらなる増長で日本にも被害が及びかねない。
慰安婦問題をめぐる日韓合意をほごにし、日韓請求権協定で既に解決した戦時中の徴用工問題を蒸し返すなど、約束破りはもはや韓国の“お家芸”と言っても過言ではない。国際社会の常識が通じない困った隣人の存在は、さまざまな形で日本を悩まし続けている。(経済本部 田辺裕晶)
米韓自由貿易協定(FTA) 米国と韓国が、工業品や農産物などの関税撤廃や規制緩和を通じ自由な貿易を行うための協定。2007年6月にいったん署名したが、牛肉や自動車分野の非関税障壁などで対立して追加交渉が行われ、12年3月に発効した。発効5年以内に双方が乗用車を含む90%以上の貿易品目の関税を撤廃する内容。トランプ米大統領は、米国人の雇用を奪うなどとして否定的な立場を示していた。産経ニュースより
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