同社は2017年11~12月、「電動化」に関連する説明会や記者会見を3度も東京都内で開いた。電動化とは、各国の環境規制を背景にエンジン車からEV、燃料電池車(FCV)、ハイブリッド車(HV)、プラグインハイブリッド車(PHV)といった電動車にシフトしていく動きのことだ。
まずは同年11月27日に説明会を開き、「プリウス」で同社が市場を切り開いたHVの技術が、他の電動車に応用できるとアピールした。駆動系技術を担当する「パワートレーンカンパニー」の安部静生常務理事が登壇し、「モーターやインバーター(モーターの回転速度を制御する装置)などのコア(核)技術があれば、さまざまなタイプの電動車をつくることができる」と胸を張った。
12月13日には、豊田章男社長がパナソニックの津賀一宏社長と共同で緊急記者会見を開き、EVなどの車載用電池で協業すると発表した。豊田氏は電動化について、「自動車業界は100年に一度の変革期を迎えた。もはや、これまでの延長線上に未来はない」と、危機感に背中を押されて協業強化を決めたと強調。30年に世界で販売する車の5割以上を電動車とする方針を示した。
同月18日にも説明会を開催。寺師茂樹副社長が、25年ごろに全車種に電動車モデルを設定すると発表。ガソリン車のみの車種を全廃するということになり、トヨタは電動化シフトへの強い意思を鮮明にした。
トヨタは、少なくとも「電動車」全体では全く出遅れていない。得意のHVはこれまでに累計1000万台超を販売し、PHVも11年に投入済み。FCVでも世界初の量産車「MIRAI」を14年に発売しており、電動車全体の世界シェアは43%と圧倒的な首位だ。ただ、EVに限ると、まだ本格的な市販車を投入していない。
中国では、政府が自動車メーカーに、販売台数の一定割合をEVやFCVにするよう義務づける方針。現地ではトヨタも20年に発売する計画だが、18年に投入するホンダや、20年までに40万台を販売する計画の独フォルクスワーゲン(VW)グループと比べて、「出遅れている」と指摘されても仕方がない状況だ。
今回、急にトヨタが電動化に関する施策や目標を次々と打ち出した背景に、販売台数の世界首位をめぐってデッドヒートを繰り広げてきたVWがEVで先行していることへの“焦り”を指摘する声もある。ディーゼルエンジン車での排ガス不正もあって電動化を加速しているVWは、18年からの5年間で約4兆5000億円という巨費を電動化を中心とする次世代技術に投じる方針を17年11月に発表した。
だが、12月18日のトヨタの説明会で寺師氏はVWへの対抗意識を否定した。「ずっと前から、われわれはEVに遅れていない、ちゃんとした技術があると言い続けてきた」と強調。一方で、「電池を乗り越えるストーリーが描けていなかった」。プリウスも電池を積んでいるが、電気を使うのは低速走行時のみで容量は小さく、日産自動車のEV「リーフ」の電池の50分の1に過ぎない。トヨタは今回、30年に100万台以上のEV、FCVを販売する計画を打ち出しており、新たに大容量の電池が大量に必要になるのだ。
パナソニックとの協業で「(パズルの)最後のピースがそろった」という。
高性能電池の安定調達に一定の目途がついたことが、トヨタの電動車シフトを加速させ、自信を持って対外的に公表できるようになった。寺師氏はそう説明した。
また、国内最大の製造業であるトヨタは、自社が「EVシフト」に踏み切ったときの影響の大きさを自覚しながら戦略を進めている節がある。寺師氏は「電動化を支える社会基盤整備にも力を入れていく」と強調。本格的なEV時代が到来し、電池の需要が急拡大すれば、寿命が切れた電池など産業廃棄物の増加や資源不足による電池価格の高騰につながる懸念もある。リチウムイオン電池には基本的に、レアメタル(希少金属)が使われており、トヨタはパナソニックとも協力し、資源の再利用やリサイクルの仕組みも構築していく考えだ。
HVで培ったモーターなどの技術と、パナソニックとの協業で調達する電池の組み合わせはインパクトが大きく、「出遅れていない」というトヨタの主張は説得力を持つ。死角があるとすれば、既にEVを販売しているメーカーに「一日の長」があることだ。
業界関係者は「実際にEVを売ってみないと分からないことは多い」と指摘する。実際の使用で電池の劣化がどのように進むか、充電の頻度を含めた利用者の「乗り方」などは、先行メーカーにノウハウとして蓄積されていくからだ。寺師氏も「『まだ(市販車が)出ていないじゃないか』という指摘は甘んじて受けたい」と謙虚に語る。
20年以降、日本、米国、欧州、中国、インドで10車種以上のEVを投入する計画のトヨタ。出遅れていたのか、やはり、そうではなかったのか。その答えは、今後本格化するEVの熾烈(しれつ)な販売競争の中で明らかになる。産経ニュースより
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