2017年12月30日土曜日

北朝鮮の年間石油輸入量は日本の2日分

北朝鮮に対する制裁論議で焦点になってきているのが、北朝鮮への原油やガソリンなどの輸出である。2017年12月の安保理制裁決議2397は石油関連の制裁強化が目玉の一つで、ガソリンなど石油精製品の供給を年間50万バレルに制限することとした。2016年比で9割減だから厳しいのだろうとは思うのだが、単位が身近とは言えないこともあってか今一つピンとこない。そこで北朝鮮と石油について調べてみた。
 
バレルとリットル、トンが混在する分かりにくさ
 
北朝鮮は2016年に原油を400万バレル、ガソリンなどの石油精製品を450万バレル輸入したとみられている。原油については現状維持となっているが、北朝鮮が核実験や大陸間弾道ミサイル(ICBM)発射を続けるなら石油輸出のさらなる制限を行うという警告が制裁決議に盛り込まれている。

そもそも分かりにくいのが、石油に関してはバレルとリットル、トンという単位が並行して使われていることだ。原油価格のニュースなどではバレルをよく見るが、通関統計などではキロリットルが使われている。重量の単位であるトンが使われることがあるのは、液状とはいえないドロドロの石油精製品もあるためだという。ちなみに1バレルは159リットル。ドラム缶が1バレルかと思いきや、ドラム缶は200リットルである。

石油産業の業界団体である石油連盟によると、日本は2016年に1億9272万キロリットルの原油と3082万キロリットルの石油製品を輸入した。これ以外に、新潟県や北海道の油田から54万キロリットルの原油が生産されている。原油を精製すると量は5%程度減るそうだが、そこまで厳密に考えないことにして単純に合計すると2億2408万キロリットル。石油連盟のサイトで換算すると14億バレル強で、1日当たりだと384万バレルということになる。

備蓄と密輸で、当面は一定程度のカバー可能か
 
北朝鮮の輸入量は原油と石油精製品を合計しても年間850万バレルだ。北朝鮮経済の小ささを考えれば当然だろうが、日本の輸入量(と若干の国内生産合計)の2日分ちょっとになる。ちなみに日本が原油輸送に使うことの多いVLCCという超大型タンカーは30万キロリットル(189万バレル)程度を運べるものが多いそうだ。北朝鮮の年間輸入量は超大型タンカー5.5隻分とも言える。

このうち石油精製品400万バレルが減らされるというのが制裁の内容なので、制裁で減少する輸入量は日本の輸入量(同)の1日分程度ということになる。超大型タンカーなら2隻では少し足りない程度だろうか。

米国は2017年11月、北朝鮮の船が海上で別のタンカーに横付けし、積み荷を移し替えている様子をとらえた衛星写真を公開した。東シナ海などの公海上で石油精製品などを密輸していると考えられている。こうした密輸で国内需要をすべてまかなえるかは疑問だが、需要が少ないから1回でも密輸に成功すれば一息付けるのかもしれない。しかも洋上でのこうした密輸を発見するのは、それほど簡単なことではないのである。

北朝鮮は制裁強化を想定して備蓄を増やしてきた。さらに一定程度は密輸でカバーできる可能性がある。北朝鮮政府は消費量を減らすための引き締め強化を図るだろうから、そうなると需要はさらに減少する。経済活動が低調になるという効果はすぐに出てくるかもしれないが、北朝鮮を追いつめるほどの効果となると時間がかかりそうだ。
 
石油はエネルギー供給の5.8%だけ
 
さらにやっかいなのは、北朝鮮のエネルギー構造である。北朝鮮経済を専門とする三村光弘・環日本海経済研究所主任研究員は「1950年代に中東やアフリカに相次いで大油田が発見され、世界的にエネルギーの主役が石炭から石油へと移行した後も、北朝鮮は自国に豊富に存在する石炭を中心とするエネルギー体系を変えなかった」(『現代朝鮮経済』、2017年)と指摘する。

同書には、2012年の北朝鮮の一次エネルギー供給源(推計)が掲載されている。自給できる石炭が78.3%、水力が8.2%、再生可能エネルギーが7.6%で、石油は5.8%にすぎない。再生可能エネルギーは太陽光だと思われるが、近年は中国での太陽光発電パネルの価格下落を受けてさらに普及が進んでいる。

もちろんガソリンやジェット燃料がなければ、北朝鮮軍の戦車や戦闘機を動かすことができないし、ミサイルにしても移動式発射台車両を動かすにはガソリンが必要だ。民間部門でも、車両の運行などにガソリンは必須である。しかも北朝鮮は石油を輸入に頼るしかないから、石油関連の制裁は北朝鮮に大きな打撃を与えうるものだ。ただ、その効果の大きさや即効性は、日本に住む私たちが想像するのとは違う可能性がありそうだ。
yahooニュースより

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