韓国の文在寅(ムン・ジェイン)政権は、もはやズタズタになった「所得主導成長」路線の固守を確認した。所得主導成長路線とは、国民にさまざまな交付金・補助金を与えることで、購買力を高め、好景気を持続するという“夢の経済政策”であり、最低賃金の大幅引き上げも、その一環だ。
ところが現実は、最低賃金層の解雇が大幅に増え、零細企業の廃業が増えた。この経済路線のためだけとは言えないが、半導体を除く産業は低迷している。
それなのに路線固守を確認したのは、左翼勢力にとって絶対の存在である「文在寅」という権威を傷つけないためだ。国民よりも権威者を守るための政策硬直、北も南も同じだ。
大統領府の政策担当者は「所得主導成長の効果は出る。待ってくれ」と国民に呼びかけた。年末にかけて、きっと効果は表れるだろう。政権には「統計の改竄(かいざん)」という絶対の切り札があるからだ。
もちろん、韓国政府がいま発表している各種統計が信じられるわけではない。
例えば、韓国紙には最低賃金が16・4%も上がった年初以来、「外食メニューの値上げ」「サービス料金の値上げ」といった記事がしばしば載る。最近はガソリンに加えて野菜・果実が異常高騰している。
ところが、政府発表の消費者物価指数はここ十数カ月、「前年同月比1%台」の上昇に留まっている。失業が大問題になっているのに、政府発表では6、7月とも失業率は3・7%。世界でも抜群の良好な数値だ。
そうした統計ではあれ、昨年まではおおむね30万人台を維持していた前年同月比の就業者増加数が、今年7月には5000人にまで下落したことが、19日の日曜日に大統領府・政府・与党緊急会議が開かれた理由だ。
保守系メディアはここぞとばかり、「所得主導成長」の廃棄を要求した。日和見の中央日報まで「雇用惨事の悲鳴、まだ聞こえないのか」との社説(2018年8月18日)を掲げたが、大統領府には聞こえなかった。何しろ大統領自身、違う立場にある人々の攻撃には「本当に何一つ動じることはない」と述べているのだから。
彼と、その核心スタッフの脳内は「財閥・大企業=絶対悪」とする意識で固まっている。
そうした意識からすれば、コンビニの店員が最低賃金の引き上げを理由に解雇されるのは、コンビニ本社が悪いからだ。コンビニ本社に、店主に対する搾取(加盟料)を緩めさせれば、おのずと解決する問題-となる。
ところが、「絶対悪=財閥・大企業」が依然として力を持っているので、所得主導成長路線が円滑に進んでいかないというわけだ。
政権の財閥・大企業に対する闘いは、一応、法治国家として法律があるから思うに任せない。が、いつまでも「待ってくれ」では済まない。文氏の権威を守るには、これまでとはレベルが違う統計の改竄の他にないだろう。
保守系紙が「現実との乖離(かいり)」を指摘したら無視して動じなければいいのさ。
■室谷克実(むろたに・かつみ) 1949年、東京都生まれ。慶応大学法学部卒。時事通信入社、政治部記者、ソウル特派員、「時事解説」編集長、外交知識普及会常務理事などを経て、評論活動に。著書・共著に『悪韓論』(新潮新書)、『崩韓論』(飛鳥新社)、『韓国リスク』(産経新聞出版)など多数。夕刊フジより
ぼちぼちと生きているので、焦らず、急がず、迷わず、自分の時計で生きていく、「ぼちぼち、やろか」というタイトルにしました。 記載事項は、個人の出来事や経験、本の感想、個人的に感じたことなど、また、インターネットや新聞等で気になるニュースなどからも引用させていただいています。判断は自己責任でお願いします。
2018年8月23日木曜日
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