2018年8月25日土曜日

韓国版ラストベルト、凋落の企業城下町を襲う失業と自殺

現代重工業で働くため、リー・ドンヒーさんが韓国南東部の港湾都市・蔚山(ウルサン)に移り住んだ5年前には、現代グループの企業城下町として栄えていた同地の造船所は昼夜を問わず稼働していた。

従業員も韓国平均給与の3倍を稼いでいたという。

だが、現在52歳のリーさんは今年1月解雇された。造船受注の急減によって、仕事を失った現代重工<009540 .ks="">の従業員や下請け企業関係者は2015年から2017年にかけて約2万7000人に上る。

リーさんの妻は家計を支えるため、現代自動車<005380 .ks="">の下請け企業で最低賃金の仕事に就いた。20歳の娘は、蔚山で就職することを希望して現代重工系列の大学に入学したが、今では違う土地での就職口を探している。

一家の境遇は、蔚山の衰退を映し出している。

かつての豊かな企業城下町は、中国との競争、人件費の上昇、そして現代グループへの過度な依存によって大きく揺らいでいる。現代グループは、韓国で大きな影響力を持つ「財閥」と呼ばれる同族経営のコングロマリットの1つだ。

リーさんのような現代グループの従業員は、数世代にわたり、朝鮮戦争(1950─53年)による惨禍からの復興と、製造業を中心とする工業大国への変貌を支えてきた。蔚山も2007年までには、韓国で最も富裕な都市になっていた。

だが、韓国の財閥は今や独りよがりで、リスク回避志向に陥っており、海外の競合他社に追いつけずにいる、と一部専門家は危惧している。

アジア第4位の経済大国である韓国が輸出を重視してきたことも、主要な貿易相手国における保護主義の台頭や外的ショックに対する自らの脆弱性を高めてしまった。

「現代は私にとって、すべてだった。もうお手上げだ」。現代自動車の工場から10キロ圏内で、同社従業員に人気の高層マンション群にある自宅で、リーさんは吐息を漏らした。

韓国統計局によれば、若者が職を求めて流出しているため、蔚山は現在、国内で最も急速に高齢化が進んでいる。同市の人口は1970年以降4倍に膨れあがり110万人に達したが、2016年には、他地域では増加しているにもかかわらず、初めて人口が減少に転じた。

<韓国版「ラストベルト」>

蔚山が直面している課題は、多くの点で1970─80年代に米国中西部の都市が直面した状況とよく似ている。かつて繁栄した産業中心地から、大量の雇用と人口が失われた時期だ。

世界的な造船大手の本拠地であり、自動車関連産業が集まる主要拠点でもある蔚山は、今まさに韓国版「ラストベルト(赤さび地帯)」になりつつある、と一部の専門家と業界幹部は警告している。

「状況はもっと悪くなる可能性がある、現代とその下請けに頼りきりだからだ」と、ソウルにある延世大学のモ・ヨンリン教授(国際政治経済学)は語る。「他に支えるものが何もない」

伝説的な起業家だった鄭周永(チュン・ジュヨン)氏が、1967年に蔚山で現代自動車を創立。6年後には現代重工も立ち上げ、捕鯨で知られていた小さな漁村は、巨大な企業城下町へと変貌した。

数十年にわたってこの街には、高賃金や企業の補助付き住宅、潤沢な手当に魅せられた求職者が集まった。

現代グループの影響力は今も鮮烈に感じられる。現代のグレーの制服を着た従業員が現代製のクルマを運転し、現代百貨店でショッピングを楽しみ、社宅のマンションで暮らし、系列の病院で診察を受けている。子どもたちは現代系列の学校や大学に通っている。

業績低迷の影響に苦しむ現代重工は、英BPや米エクソン・モービルといった顧客企業の社員らのために使っていた、外国人向け大規模地域施設や社員寮などの売却を進めている。

関係者によれば、こうした施設には、集合住宅やゴルフコース、プールや学校なども含まれる。

現代重工の広報担当者は、同社は「企業としての正常化」に向けて最大限の努力をしており、職不足と余剰労働力に対処するために労働組合とも協力していると強調した。

<自殺率が国内で最悪に>

現代グループの経営不振による影響は、蔚山全体に広がっている。

現代重工本社から数ブロック離れた、昔ながらの市場では、平日にもかかわらず市場は閑散としており、造船所の労働者向けの十数軒の飲食店や作業服店は閉店していた。

「われわれのような商売にとっても、すべては現代次第だ。今は現代の経営が悪化しているから、こちらもやりくりに苦労している」と、この市場にある小さなそば屋を営むEom Soon-uiさんは語った。

税関データによれば、韓国の昨年輸出総額に占める蔚山のシェアは12%。これは2000年以降の最低水準であり、ピーク時の19%を大きく下回っている。

またここでは自殺件数も増加している。韓国統計局のデータによれば、25─29歳の自殺率が国内最悪となっている。

現代重工が経営する蔚山大学病院の職員によれば、自殺を試みた事例は182件に上ったという。前年は約150件だった。

蔚山市内に最近竣工した橋では客を降ろさないよう、警察からタクシー運転手に指示が出ている。ここ1カ月で3人がその橋から投身自殺しだからだ。

「一生懸命働けば生活が楽になり、子どもたちが真面目に勉強すれば豊かな人生を送れる。そう皆が信じてきた」と蔚山の自殺予防センター職員パク・サムソンさんは語る。

「だが、違う現実に直面して、彼らの多くが希望を失ったようだ。中には、最悪の選択をしてしまう人もいる」

<国内では最強、海外では衰退>

造船部門で多数解雇されたことを受け、自動車部門の労働者は、次は自分たちの番ではないかと恐れている。

現代自動車はすでに一部の生産拠点を海外に移転しており、ロイターが閲覧した社内予測によれば、国内生産比率は、2004年の約80%から、今年は37%に下がると見込まれている。

国内での人件費高騰と強力な労働組合を考えれば、これは必要な変化だと企業幹部は指摘する。

だが労働者側は、現代グループが抱えている問題の多くは自業自得だと主張。主要市場・米国におけるスポーツタイプ多目的車(SUV)ブームを予測できなかったことや、電気自動車にシフトする業界の波に乗れなかったことなどを挙げた。

現代自動車はコメントしなかった。同社は今年に入り、今後5年で4万5000人をグループ全体で採用し、「ウェアラブル・ロボット」や人工知能などの新規事業に大きな投資を行うと約束している。

とはいえ、少数の強力な財閥への依存が、韓国経済の足を引っ張っていると一部の専門家は警鐘を鳴らしている。

財閥上位10グループが生み出す収益の総計は、2017年の韓国国民総生産(GDP)の66%に相当する。対照的に、フォーチュン誌の昨年調査によれば、米国では、上位500社による収益の総計が、同国GDPの65%に相当している状況だ。

「わが国の財閥は自己満足に陥っていた」と語るのは政府系金融機関である韓国産業銀行の李東傑(イ・ドンゴル)総裁だ。国内で享受しているほぼ独占的な環境によって、財閥グループはリスクを取ることを嫌がり、イノベーションが遅れたという。

海外主要市場での不振を背景に、韓国の輸出増加率は、昨年の15.8%から、今年5.3%に、そして来年には2.5%へとさらに減速することが見込まれている。

<消えた楽園>

これは、蔚山を筆頭とする同国の輸出拠点で、さらに苦痛が増すことを意味する。

文在寅(ムン・ジェイン)韓国大統領は5月、蔚山を含めたいくつかの都市を「産業危機地域」に指定。労働者・サプライヤーの支援と新規産業育成に向けて、今年1兆ウォン(約985億円)の予算を計上している。

文大統領は、財閥中心の経済政策は限界に達しており、持てる者と持たざる者の格差を拡大している、と指摘。

「革新的成長」を掲げた新政策の下、韓国政府は燃料電池や自動運転車、「スマート工場」、ドローン、さらには人工知能やIoT(モノのインターネット)、ビッグデータといった分野に向けた投資を推進している。

現代グループに勤務するベテラン社員たちは、こうした新政策の恩恵を感じていないと語る。

現代重工を解雇されたリーさんは、住宅内装の仕事に就くために塗装や成形の技術を学んでいるが、地元経済の不振は不動産セクターにも打撃を与えているため、再就職に苦戦している。

1982年に蔚山に来たHa M. H.さんは今月、36年間勤めた現代重工に別れを告げる。外国からの海上プラットフォーム受注が干上がっているからだ。

「古き良き時代にここで働いていた、スコットランドなどの国からきた外国人検査技師は、蔚山を楽園と呼んでいた」と彼は語った。「仲間は皆去っていった。私が最後の1人だった」大紀元日本より

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