ドナルド・トランプ米大統領が仕掛けた米中貿易戦争によって、新局面が拓(ひら)かれた。
中国株は2年前の最低値に接近しつつあり、人民元は下落を続けている。対照的に米国株が上昇し、米国ドルが強くなった。原油相場は高値圏に突入した。米中の金利差が縮小したため、中国から外貨がウォール街に還流している。一方で、金価格が下落している。
市場は微妙なかたちで、世界情勢を反映するのである。
リベラルな欧米のメディアは相変わらずトランプ批判を続け、フィンランドの首都ヘルシンキにおける米露首脳会談(7月16日)は「大失敗だった」と興奮気味である。
筆者は、トランプ氏の戦略は、究極的に中国を追い込むことにあり、そのために「同盟関係の組み替え」を行っていると判断している。
北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長と会い、体制を保証する示唆を与え、「核実験・ミサイル発射実験の停止」を約束させて、完全非核化まで制裁を解除しないと言明した。北朝鮮の中国離れを引き起こすのが初回会談の目的だった。
そのことが分かっているからこそ、中国の習近平国家主席は、正恩氏を3回も呼びつけて、真意を執拗(しつよう)に確かめざるを得なかった。
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領との首脳会談も、長期的戦略で解釈すれば「ロシアの孤立を救い、対中封じ込め戦略の仲間に迎えよう」とする努力なのである。
カナダでのG7(先進7カ国)首脳会議で、「ロシアのG8復帰」と「制裁解除」をほのめかしていたように、トランプ氏はプーチン氏を次はホワイトハウスに招待すると持ち上げた。
しかも、ヘルシンキの米露首脳会談では、戦略的核兵器削減交渉の継続で合意している。
米国政府がもっとも懸念するのは、軍事技術の向上につながる知的財産権の守秘だ。中国による米国ハイテク企業への買収阻止にある。このトランプ氏の考え方は、ロシアにも伝播した。ドイツでも、親中派のメルケル政権のスタンス替えを引き起こした。
ドイツ政府は、中国煙台市台海集団が狙った、独精密機械メーカー「ライフェルト・メタル・スピニング」の買収を却下する見通しになった。
このような欧米の変化を、北京は見逃さなかった。
中国はあれほど激越だった米国批判を抑制し、異様な静けさである。あまつさえ、トランプ氏が批判した「中国製造2025」計画は口にも出さなくなった。「対米交渉のキーパーソン」の地位も、習氏の子飼いの部下、劉鶴副首相から取り上げる動きも表面化している。
■宮崎正弘(みやざき・まさひろ) 評論家、ジャーナリスト。1946年、金沢市生まれ。早大中退。「日本学生新聞」編集長、貿易会社社長を経て、論壇へ。国際政治、経済の舞台裏を独自の情報で解析する評論やルポルタージュに定評があり、同時に中国ウォッチャーの第一人者として健筆を振るう。著書に『アメリカの「反中」は本気だ!』(ビジネス社)、『習近平の死角』(扶桑社)など多数。夕刊フジより
ぼちぼちと生きているので、焦らず、急がず、迷わず、自分の時計で生きていく、「ぼちぼち、やろか」というタイトルにしました。 記載事項は、個人の出来事や経験、本の感想、個人的に感じたことなど、また、インターネットや新聞等で気になるニュースなどからも引用させていただいています。判断は自己責任でお願いします。
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