2017年7月21日金曜日

「鉄砲玉」の勝手を中ロは許さない

先週は北朝鮮情勢をめぐって、プーチン・ロシア大統領のしたたかさとトランプ米大統領の手詰まりを指摘した。今週はその続きを書こう。朝鮮半島はどうなるのか。大胆に見通しを言えば、中国を加えた米中ロによる密謀が進む可能性がある。

先の大戦の後、旧ソ連の後押しで誕生した北朝鮮という国はそもそも、なぜこれまで生き延びられてきたのか。それは、米国の圧力にさらされたソ連や中国が、それぞれ自国の「緩衝材」として北朝鮮に利用価値を見出してきたからだ。
 
ソ連や中国が敵(たとえば米国)に攻められたとき、北朝鮮は身代わりの戦場となって敵の侵攻を食い止める。いざとなったら、北朝鮮が中ソの鉄砲玉となって突撃する。そんな役割である。

ところが、いま北朝鮮は中ロの制止を振り切って、核とミサイルの開発にまい進している。そんなふるまいは、中ロから見れば「子分が親分の言うことを聞かず、勝手に怖い飛び道具を手に入れようとしている」ようなものだ。

中ロにしてみれば、緩衝材に仕立てた国が「オレはもうお前の言いなりになる子分じゃない。自分の運命は自分で決める」と言い出したも同然なのだ。こんな北朝鮮を中ロは容認できるか。できない。なぜか。

核ミサイルを手にしたら、北の照準はソウルと東京、ワシントンに向くとは限らない。その気になれば、北京とモスクワだって狙えるのだ。大国は常に最悪の事態を想定して行動する。つまり、潜在的に北朝鮮は中ロにとっても脅威になる。

根拠もなしに「金正恩はオレを狙うことはない」などと信じるほど、プーチンや習近平は甘くない。彼らが北朝鮮の核とミサイル開発に反対してきたのは、それが最大の理由である。一方、米国が容認できないのは言うまでもない。

ちなみに、日本の左派リベラルの中には「北朝鮮が狙っているのは米国、なぜ日本にミサイルが落ちるのか、政府は説明なしに『危機に備えよ』と煽っている」などと言う向きもある(http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/ronsetu/CK2017071902000135.html)。あれほど日本海にミサイルが落ちても危機と思わないのだろうか。

この調子だと、日本の領土、領海にミサイルが撃ち込まれても、きっと「単なる手違い」とでも言うのだろう。朝日新聞の社説にそんな話があったらしい。まったくおめでたすぎて、話にならない。

「北朝鮮無害化」のシナリオ

本筋に戻す。いまの北朝鮮は米国はもとより、中国やロシアをも潜在的な敵に回している。中ロは表向き、北朝鮮を舞台裏で支援しているかのように見える。だが、実はいつ金正恩を裏切ってもおかしくない。

金正恩と核・ミサイルを除去、あるいは自分たちが完全に支配したうえで、北朝鮮を元の無害な緩衝材状態に戻す。それが中ロにとってベストシナリオではないか。

ロシアには、そもそも北朝鮮という国を金日成を使って建国したのは自分たちだ、という思いがある。中国だって、金日成は大口を叩いて朝鮮戦争を始めてみたものの、米国に押し返されて敗北寸前だったのを人民解放軍を派遣して救ったのはオレたちだ、と思っている。中国は当時、戦死者数十万人ともいわれる大変な犠牲を払った。

ロシアや中国は「金正恩がそんな恩義も忘れて、オレたちの言うことを聞かず、核ミサイルを手に入れようとするのは許せない」と内心、思っているはずだ。そうだとすれば、これから何が起きるか。
 
そこを考えるには、歴史が参考になる。

戦争の勝敗が決しようとするとき、優勢にある勝者の側は最後の一戦を交える前に、あらかじめ敗者の扱いを決めておく。先の大戦では1945年2月のヤルタ会談がそうだった。当時の米英ソ連の首脳がクリミア半島の避暑地、ヤルタに集まった会談である。

ルーズベルト米大統領とチャーチル英首相、スターリン・ソ連首相の3人は戦後の国連創設とともに、ドイツ降伏後3カ月以内のソ連による日本に対する参戦(秘密条項)、戦後ドイツの米英ソ仏4カ国による分割統治、ポーランドの扱いなどを決めた。

その結果、千島列島や南樺太のソ連帰属が決まり、ドイツは4つに分割された。一方、朝鮮半島については当面、連合国の信託統治とすることで3首脳が合意した。日本が降伏した後、同12月に開かれた米英ソ3国外相会談で中国を加えた4カ国が最長5年間、信託統治することが決まった。

この信託統治案は朝鮮人の間で激しい反対運動が起きて挫折してしまう。朝鮮半島は結局、45年から3年間の連合軍軍政期を経て、南北に分断したまま48年、韓国と北朝鮮が建国された。これが朝鮮半島の歴史である。

この例にならえば、金正恩を除去した後の北朝鮮をどうするか、について米中ロが合意できれば、金正恩や核とミサイルの除去が現実になるかもしれない。朝鮮半島に関して、米中ロによる現代版の「ヤルタ協定」が成立する可能性があるのだ。

私はそんな見通しをテレビの『そこまで言って委員会NP』や『ニュース女子』、ニッポン放送の『ザ・ボイス そこまで言うか』で、これまで何度か話してきた(たとえば、5月15日放送の『ザ・ボイス』、https://www.youtube.com/watch?v=kOlQSche6sA)。活字にするのは、これが初めてだ。

「金正恩除去」と「在韓米軍撤退」

なぜ、このタイミングで書くかと言えば、先週のコラムで書いたように、事態がいよいよ膠着状態に陥ってきた。それが1つ。トランプ政権は手詰まりになる一方、中国は躊躇し、ロシアが主導権を握りつつある。ほとんど金正恩の勝ちと言えるほどだ。

北朝鮮のような弱小国が核とミサイルを手にしつつあるからと言って、周辺の大国がそろって不満を募らせている状態が長続きするはずはない。いずれ均衡は崩れる。周辺大国が共通の利害を見極めて、不満があっても妥協の解決策が成立する可能性は高い。
 
加えて、中国やロシアにとっては、いまが事態を動かす絶好のチャンスでもある。

それというのも、韓国に親北容共の文在寅(ムン・ジェイン)政権が誕生した。中ロが北朝鮮を無難な緩衝材に戻すには、金正恩後の北朝鮮に自分たちに都合の良い政権を作らなければならない。それには文政権の下で韓国と北朝鮮が統一されるのが、もっとも望ましいのではないか。

1945年当時とは違って、いま中ロが露骨に朝鮮半島に介入して傀儡政権を作るわけにはいかない。そんな企てには米国も乗れない。だが、文政権による南北統一であれば民族自立の大義名分が立つ。

中ロが後ろ盾になって文政権による南北統一を目指す。米国も容認する。そんな合意ができれば、そのプロセスの前提として金正恩除去という選択肢も現実味を帯びてくるだろう。

米国は文政権による南北統一シナリオを容認できるだろうか。「核ミサイルの本土到達阻止」こそが米国の最優先事項である点を考えれば、金正恩と核・ミサイルさえ確実に除去できるのなら、米国が同意する可能性は小さくないと私は思う。

一方、中ロの長期的な戦略目標は東アジアにおける米国の影響力排除である。金正恩除去によって自国に対する潜在的脅威を取り除くとともに、それに乗じて米国の影響力も減らせれば言うことはない。具体的に言えば、韓国からの米軍撤退だ。

中ロは米国が金正恩と核・ミサイルの除去を求めるなら、この際、値段を釣り上げて、朝鮮半島からの米軍撤退を取引条件に言い出す可能性がある。

私は先週のコラムで文政権の韓国は「中ロの露払い役」と指摘した(http://gendai.ismedia.jp/articles/-/52283?page=2)。文政権の親・中ロ路線を考えれば、文政権が米軍撤退に傾く可能性がゼロとは言えない。韓国が中ロ側につくというのは、本質的にそういう話である。

日本は戦後最大の危機に陥る

基地を受け入れる側の韓国が米軍撤退を言い出せば、米国は同盟国とはいえ旗色が悪くなる。文政権は朝鮮半島を統一した民族の正統政権として、米軍撤退も掲げて装いも新たに一躍、東アジアのど真ん中に登場する形になる。

こんなシナリオは日本にとって、どんな意味を持つのか。核を持つ中ロと、核・ミサイルを廃棄したところで、開発能力を維持する韓国が日本海を挟んで日本に対峙するのだ。日本には、安全保障環境が一変する「戦後最大の危機」と言ってもいい。

習近平は秋の共産党大会を終えれば、フリーハンドを握る。プーチンのロシアは北朝鮮との定期航路を開設し、硬軟両用の構えを整えている。秋から事態は動き出す公算が高い。日本はお花畑の議論をしている場合ではない。

もっとも、最近の永田町はもっぱらモリとカケ問題ばかりで、安全保障論議はさっぱり聞かれなくなってしまったが。 現代ビジネスより

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