概要
将来の国産戦闘機に適用できる先進的な要素技術を実証するために開発されたステルス研究機である。X-2はアメリカのXプレーンと同様の実験機であり、ステルス技術の研究・開発を通じてノウハウを蓄積することを目的としている。その性格上、平均的な現世代の戦
闘機と比べて機体は大幅に小型で、運用寿命も数百時間と短い。また、エンジン1基あたりの推力も現代の作戦機用途としては小さく、機体にも武器の搭載能力はない。本機および今回のプロジェクトで得た技術を元にして2030年代にステルス戦闘機を国産実用化する可能性はあるが、それはまた別のプロジェクトになり、X-2自体が制式採用され、量産・武装・実戦配備されるといったことはない。
防衛省は「将来の戦闘機に関する研究開発ビジョン」において、コンセプトモデルとして第5世代ジェット戦闘機のさらに次世代となるi3 FIGHTERを提唱し、F-2戦闘機の後継に国産戦闘機を用いることを選択肢の一つとしている。防衛省は、将来の国産戦闘機を実現するにあたり先進軍事技術を研究開発する必要性があると提言しており、本機の開発はその研究開発の一部の要素技術を実証する役割を担う。平成27年度概算要求では「F-2の退役時期までに、開発を選択肢として考慮できるよう、国内において戦闘機関連技術の蓄積・高度化を図る」ものとしている。
本機の開発においては、実物大模型のRCS試験や5分の1縮小サイズ無人モデルの飛行テストの後に、2009年(平成21年)度から実機の開発が、2012年(平成24年)3月28日から愛知県飛島村の三菱重工業・飛島工場で実機の組み立てが開始され、2016年(平成28年)1月28日に実機の報道公開と型式発表が行われた。同年2月11日に初の地上走行試験を行った。
4月22日8時47分に県営名古屋空港から初飛行し、9時13分航空自衛隊岐阜基地に着陸した。上昇、下降、旋回などの基本特性、操縦性などの試験結果は良好であった今後、防衛装備庁に引き渡し、2016年度内に飛行試験を複数回行いステルス性や機動性を調べていく予定である。
本機の約2年間の試験により、将来の国産戦闘機開発に繋がる先進的な要素技術の妥当性が実証され、その後も国産戦闘機開発に対する政治的・財政的・軍事的・技術的妥当性が認められれば、2018年(平成30年)度頃に政府により国産戦闘機の開発開始が決定され、2030年代の実用化を目指して開発されることになる。また、防衛省は、こうして開発した国産戦闘機を土台に、将来的な国際共同開発につなげたいとの構想もある。
開発経緯
米・露・中といった、軍事における先進諸国の主力戦闘機の開発と配備は、ステルス性と高運動性能を備えた第5世代戦闘機に移っている。これまでにF-117攻撃機やB-2戦略爆撃機といったステルス機を開発し運用してきたアメリカでは、本格的な第5世代機であるF-22戦闘機を実戦配備し、F-35戦闘機の飛行試験もしている。またロシアではPAK FAを開発中であり、戦闘機開発能力を持つその他の国でも第5世代機に関する研究が行われている。
このような状況を受け、日本も将来の国産戦闘機開発を視野に入れた要素技術の研究開発に着手しており、それらの技術を実証するために飛行試験用の実証機を製作する事になった。実証機の開発により、航空自衛隊の防空用レーダーなどにステルス機が実際どのように映るかを独自に解明し、高度な探知能力とステルス性と運動性を持つ将来国産戦闘機の実現を目指すものである。
第5世代戦闘機では多方向からの多様な脅威に対処する能力が必要となっており、従来より性能向上したレーダーや赤外線センサーなどの電子機器が搭載されるが、機内容積の制約上、搭載する電子機器は大きさ、消費電力、冷却能力が制約される。デジタル技術の発達速度は今後も維持されると期待され、例えば米国製のF-22やF-35といった機体では、将来実現される技術の発展に伴って容易に搭載機器の性能向上が行えるようにモジュール方式で搭載されており、日本でも様々な研究試作が行われている。
開発の詳細と各部特徴
機体
本機は双発機であり、低RCS(Radar Cross Section、レーダー反射断面積)を実現する為に、機体側面にチャイン(ストレーキ)を持ち、2つの垂直尾翼を外傾させ、機体表面は電波を吸収するセラミックや炭化ケイ素の新複合材料で覆われている。ただしキャノピー表面を除き機体表面にステルスコーティングは施されていない[22]。
主翼と尾翼は富士重工業が、制御機器はナブテスコが、電波吸収剤は宇部興産が製造した。複雑に屈曲させたエンジンの吸気ダクトなどもあいまって、RCSは数十キロ先のカブトムシ程度とされる。
機体サイズは約14mとなる見通しであるが、本機がF-22の全長18.92mに対して大幅に小型なのは、「研究実証機」という特性上、約8トンの離陸重量を実現する実証エンジンの搭載が予定されており、またこのエンジン出力に見合った機体規模で十分だからである。
本機では開発費を抑えるため、座席とキャノピーにT-4のもの(当初はF-1戦闘機用のキャノピー)を、主脚と前脚にT-2のものを流用している。
技術研究本部(技本)はRCS研究の一環として、実際に飛行することになる機体の形状と寸法で作られた、本機の実物大RCS試験模型を三菱重工で制作し、2005年(平成17年)にフランス国防装備庁の電波暗室で電波反射特性の試験を行った。この試験において、実物大RCS試験模型は、レーダー画面では中型の鳥より小さく、昆虫よりは大きく分析表示されるだけのステルス性を確保した。この実物大RCS試験模型の写真は、2006年5月に技本ホームページ(外部リンク参照)に掲載され、初めて本機の姿が披露された。尚この試験は当初、アメリカ空軍の施設にて行う予定であったが、アメリカ側の許可が下りなかった。この為止むを得ずにフランス国防装備庁へ依頼したという経緯がある。
2006年春には実物大RCS模型を5分の1に縮小した、無人モデル(炭素繊維強化プラスチック製・全長3m・全幅2m・重量45kgと想定される)が初飛行した。この機体は4機製作されており、飛行実験は北海道大樹町の多目的航空公園で2007年11月まで計40回行われ、遠隔操作や自律飛行などの実証検証が行われた。この飛翔実験で得られたデータは技本で解析され、X-2の実機開発に利用されていると推測される。
2006年11月9日・10日には東京都内において、平成18年度研究発表会が開催され、本機の32分の1スケール模型と「心神」の通称が発表された。マスメディアへの露出では、まず『航空ファン』2007年2月号が本機の特集記事を掲載し、次いで2007年8月11日付の中日新聞朝刊も1面トップ記事にて本機に関する報道を行った。テレビでは8月24日のFNNスーパーニュースが独占報道として、機体・エンジン・推力偏向装置・縮小模型をテレビ初公開した。5分の1縮小サイズ無人モデルの飛行実験は2007年(平成19年)9月11日に報道陣に公開された。
X-2は総額394億円をかける計画である。2009年(平成21年)度から2014年(平成26年)度まで研究試作を行い、2010年(平成22年)度から2016年(平成28年)度までに試験を実施し、X-2の開発を完了する予定である。当初、X-2の本開発は2008年(平成20年)度から開始する予定であったが予算計上は認められなかった。同年度予算では「高運動ステルス機技術のシステムインテグレーションの研究」として、概算要求の半額以下である70億400万円のみが認められ、2008年(平成20年)度から2010年(平成22年)度まで研究が行われた。翌年の2009年(平成21年)度防衛予算で本開発用の85億円の予算が認められた。そこで技本は「先進技術実証機(高運動ステルス機)」の名目で本開発を開始した。開発2年目の2010年(平成22年)度予算では228億円が認められている。
2013年9月11日、先進技術実証機(当時)の試験支援で米国空軍省と「先進技術実証機の試験準備支援(国外)」として1億1368万1520円の契約を結んだことが報道された[26]。
アビオニクス
X-2の実機開発に先立ち、技本技術開発官(航空機担当)付第3開発室は「高運動飛行制御システムの研究試作」を開始した。この研究は2000年(平成12年)度から2008年(平成20年)度まで行われ、参加企業には三菱重工が主契約者に選ばれた。この研究の内容は、優れた運動性能を備えると共に、レーダーに探知されにくい戦闘機の飛行制御等に関するものである。またこの研究では、ステルス性を高める為の低RCSな機体形状設計技術、通常の戦闘機では飛行不能な失速領域でも機体を制御し、高運動性を得るIFPC技術などの研究を行った。操縦系はフライ・バイ・ワイヤだが、前縁フラップ駆動系統にはフライ・バイ・ライトを採用している。
コックピット
コックピットは、2基の多機能ディスプレイとヘッドアップディスプレイで構成される。座席とキャノピーは川崎重工業が製造したT-4からの流用だが、キャノピーは電波の反射を防ぐためITOでコーティングされる。
エンジン
搭載エンジンは実証エンジンXF5-1である。本エンジンは技本がIHIを主契約企業に選定し、「実証エンジンの研究」によって開発されたものである。
XF5-1はアフターバーナーを備えたターボファン方式のジェットエンジンであり、推力重量比8程度、2基搭載時に推力合計約10t程度を発揮し、将来の国産戦闘機開発に繋げるものとしてF3エンジンの経験を基に開発された。1995年(平成7年)度から1999年(平成11年)度まで5回に分け、147億円の予算のもと、開発契約を結んで開発が開始された。研究試作期間は1995年(平成7年)度から2000年(平成12年)度までである。また所内試験期間は1997年(平成9年)から2008年(平成20年)度まで行われ、燃焼器などの性能の高さを証明して開発を終了した。技本へは1998年(平成10年)6月に初号機を納入、2001年(平成13年)3月までに計4基が引き渡された。XF5-1の研究成果の一部は、P-1用F7-10エンジンへ移転している。
XF5-1に設置される推力偏向機構とレーダーブロッカー等は、三菱重工を主契約とした「高運動飛行制御システムの研究試作」によって開発されたものである。高運動飛行制御システムは、通常の戦闘機では制御不可能な失速領域においても機動制御を維持し、かつ高運動性を確保するもので、XF5-1の噴射口に3枚の推力偏向パドルを取り付けている。この研究試作は2000年(平成12年)度から2007年(平成19年)度まで、所内試験は2002年(平成14年)度から2008年(平成20年)度まで行われ開発を終了した。この開発スケジュールの中で、2003年(平成15年)度に試作品が製作され、2007年(平成19年)3月9日の完成審査において技本により妥当の判断が下された。同年秋より浜松基地の航空自衛隊第1術科学校にて試験が行われた。
初飛行予定の移り変わり
2015年(平成27年)1月6日、当初の2014年(平成26年)度内の本機の初飛行予定を、2015年4月以降に先送りすることが報道された。原因はエンジンの出力を制御するためのレバーの位置を認識する装置が正常に作動せずソフトウェアの改修が必要になったこと、空中でエンジンが止まったときに自動で再始動させる「オート・スプールダウン再始動機能」を新たに装備する変更が加えられたことに起因するとされている。防衛省は試験飛行延期による長期的なスケジュールへの影響はないとしている。さらに同年2月15日には初飛行が8月に先送りされることが報道され、10月には初飛行が2016年1月以降に先送りされることが報道された。2016年4月22日初飛行した。
国産戦闘機を実現するためのX-2以外の研究開発
「将来戦闘機関連事業」として、2015年(平成27年)度防衛予算では、下記の「戦闘機用エンジンシステムの研究(スリムで高推力な戦闘機用エンジンシステムの研究)」や「ステルス戦闘機用レドームに関する研究(複雑形状・電波特性に優れたレドームの研究)」を盛り込んだ。金額は342億円となる。
機体
防衛省技術研究本部は将来戦闘機の3次元デジタルモックアップ(DMU)を作成して初歩的な概念設計を行っている。2011年(平成23年)度から2013年(平成25年)度までに設計された3機のデジタルモックアップの概要は公開されており、平成23年度の23DMUは中距離空対空ミサイルを並列配置して内装化し、曲がりダクトで前方RCSを低減させており、24DMUでは中距離空対空ミサイルを2本づつ縦列配置、ストレートダクトでありながらレーダブロッカを配置して前方RCSの低減に配慮しつつ機体を扁平形状にして23DMUより側方RCS低減を重視している。25DMUはミサイルを並列配置に戻し、水平尾翼を下方に傾斜させ、行動半径の拡大と内装ミサイル数の増加を狙って24DMUから機体を大型化させている。26DMU以降のデジタルモックアップは非公開となっている。
センサー
将来の国産戦闘機には、機体に張り付ける薄いレーダーであるスマートスキンセンサーが採用される予定である。これに関して、1998年(平成10年)度から2003年(平成15年)度まで「コンフォーマル・レーダ・システムの研究」が行われた。この研究成果を基に2006年(平成18年)度から2010年(平成22年)度まで、軽量・高強度な新複合材の胴体構造への適用に関する「将来小型航空機への適用技術に関する研究(スマートスキン機体構造の研究試作)」が行われた。
機首に装備するセンサーの開発研究においては、2002年(平成14年)度から2010年(平成22年)度まで「多機能(スマート)RFセンサの研究」が行われた。さらにこれを発展させてIRST機能を付加した「先進統合センサ・システムに関する研究」が2010年(平成22年)度から2016年(平成28年)度まで行われている。レドームについては2015年(平成27年)度から2019年(平成31年)度にかけて「ステルス戦闘機用レドームに関する研究(複雑形状・電波特性に優れたレドームの研究)」を実施する。
敵ミサイルや航空機からの電波を妨害するためのESMを開発するにあたって、シミュレーションが必要であることから、2013年度(平成25年度)から2018年度(平成30年度)まで「先進RFシミュレーションの研究」を行う。
アビオニクス
レーダーや赤外線センサー等の複数異種センサの動作制御と情報の統合処理、これに関わるマンマシンインタフェースには、技本が三菱電機を主契約として2002年(平成14年)より開始した「将来アビオニクスシステム研究試作」が反映される。研究試作は2002年(平成14年)から2010年(平成22年)にかけて行われ、2005年(平成17年)から2011年(平成23年)まで防衛技術研究所の所内試験を実施した。
コックピットは海人社『世界の艦船』2007年5月号の航空装備研究所の紹介記事において、「将来の航空機用マンマシンインターフェースを戦術環境で評価できるパイロットインザループ・シミュレータ」という「コックピット評価装置」のイメージが掲載されており、母体になると見られている。特徴としてはF-35と同様に大型液晶ディスプレイが採用されており、同じくヘッドマウントディスプレイの採用を前提に開発しているためかHUDを装備していない。これに関連して「将来HMDシステムに関する研究」を実施予定である。研究予定のHMDはアイトラックやカラー表示ができることを特徴とし、従来のHMDより広視野角かつ軽量であることを目指している。これについては、27年度予算においては認められなかった。
2015年度(平成27年)からは、従来使用されてきたアクチュエータを電動モーターで代替し重量と整備性の改善を目的とする「電動アクチュエーション技術の研究」を開始予定であったが、査定の結果認められなかった。一部については既に研究が実施済みである。
2012年(平成24年)度から「戦闘機用統合火器管制技術の研究」を開始した。この研究は、航空機に搭載した秘匿高速データリンクを介し、離隔した僚機のセンサーや火器、地上レーダーと連接するものである。特徴はF-35でも実用化されていない対ステルス機戦闘能力の向上を目指すもので、この連携により射撃機会と射撃効率の増大を果たし、将来の数的劣勢下における対ステルス機戦闘に勝利することを目指す。この「戦闘機用統合火器管制システム」は2012年(平成24年)より2016年(平成28年)までの計画で研究試作を行い、 2015年(平成27年)から2017年(平成29年)まで所内試験を行う計画となっている。
エンジン
XF5-1の開発成果を基に、X-2の次の段階である「次世代の小型航空機」用エンジンの実現を目指して、2010年(平成22年)度から「次世代エンジン主要構成要素の研究」が始まっており、エンジンコア部(高温化燃焼器、高温化高圧タービン、軽量圧縮機)の研究が始まっている。研究終了は2015年(平成27年)度を目指している。2013年(平成25年)度からは「戦闘機用エンジン要素の研究」が始められており、エンジンコア部に加えてファンと低圧タービンの研究を行う。研究終了は2017年(平成29年)度を目指している。2017年 (平成29年) 6月には「戦闘機用エンジン要素(その2)の研究試作 (コアエンジン)」として、コアエンジンの試作品がIHIから防衛装備庁に納入された。2018年 (平成30年) 6月までにコアエンジンにファン・低圧タービン・アフターバーナーを統合した、軸長4.8m、入口直径1m、アフターバーナー推力15トン以上、高圧タービン平均入口温度1800℃級のプロトタイプエンジンXF9-1を試作する予定である。2015年(平成27年)度からは「戦闘機用エンジンシステムの研究(スリムで高推力な戦闘機用エンジンシステムの研究)」が始められ、研究終了は2019年(平成31年)度を予定している。これらの成果を元に最終的に2025年度以降に推力15トン級以上の「次世代ハイパワー・スリムエンジン」の実現を目指す予定である。
ウェポンシステム
2010年(平成22年)度から2014年度(平成26年)度まで「ウェポン内装化空力技術の研究」が行われる。母機のウェポンベイからウェポンを射出するときの空力特性を縮尺模型と風洞を使って研究する。これに続いて2013年度(平成25年度)から2017年度(平成29年度)まで「ウェポンリリース・ステルス化の研究」が行われ、ウェポンベイランチャーの研究を行う。
主要諸元
実機
ぼちぼちと生きているので、焦らず、急がず、迷わず、自分の時計で生きていく、「ぼちぼち、やろか」というタイトルにしました。 記載事項は、個人の出来事や経験、本の感想、個人的に感じたことなど、また、インターネットや新聞等で気になるニュースなどからも引用させていただいています。判断は自己責任でお願いします。
2017年7月30日日曜日
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