日本科学未来館で2015年1月17日に行われた、サイエンティスト・トーク「原発のごみ、日本に埋める場所ありますか? ― 高レベル放射性廃棄物の地層処分」の全文書き起こしをお届けします。
日本ではこれまで原発を使用してきたことで核のごみである高レベル放射性廃棄物が大量に生まれていますが、その処分の手段を未だ持ち得ていません。本イベントでは地質学者の吉田英一氏を講師にお招きし、日本独自の地質現象を踏まえて、地層処分が可能な場所が日本にあるのかを科学的に見ていきます。
第2部は「地下環境とその機能」です。動画はページ内のプレイヤーでご覧いただけます(32分45秒~45分35秒)
吉田:はい。で、先ほど出てきたウラン鉱床なんですけど、細かいこと言ってもあれなので、だいたい大きさは実はこれが2キロ×2キロぐらいの、そういう大きさで、堆積岩の中にできています。そして、今から約2000万年前のものなので、先ほどのオクロ天然原子炉っていう20億年のものに比べると、ずっとずっと若いですが、それでも2000万年前という、それくらいのものが形成されて、現在もそこに残っているという状態があります。
あと、そこからどういったものが得られるかと、またこのスライドのあとにお見せしますが、そういうものと併せて実際の日本の地下環境がどうなっているかっていうのの研究も、近くの瑞浪超深地層研究所っていうところでも行われています。ここでは地表から地下500メーターぐらいのところまで穴を掘って、そこで例えばどういう割れ目とか、どういう岩石がどういうふうになっているかというような研究がなされているということです。
ここで、じゃあ、そういったもので言える地下と、地下っていうのは何か、地下環境とは何かというと、基本は岩石、鉱物と地下水のみです。で、岩石はいろいろ皆さん安山岩、花崗岩とか、いろいろ昔聞いたことがあると思うんですけど、基本3つしかないです。火成岩、変成岩、堆積岩ね。これですね。そして地下は地下水が流れますので、その水みちとして、水が流れるのはどこかっていうと断層と割れ目と、微細な空隙と。こういう岩石の周辺にある微細な空隙ということですね。これらを調べることによって、どれくらいこの周辺、あるいはこういったところに元素が吸着するかとか、そういったことを知ることができると。
ちなみにそれを実際のものとして写真で見せると、例えば断層。これは花崗岩の中にできた断層なんですが、皆さんは断層というイメージ、どういったように持っておられるかっていうのはあると思うんですけど、断層っていうとぱかっと開くわけではなくて、断層っていうのはすりつぶしますので、ここに入ってるのはこういう粘土鉱物、粘土状のすりつぶされたようなものが詰まります。一方、割れ目っていうのは、逆に言うとこちらのほうがぱかっと割れる状態のものがありますので、こういうところに割れ目があって、それが開いたりしていると。
ちなみにこれ、地下の800メートルから採取した実際の割れ目と周辺の岩石、これは花崗岩なんですけど、これをお見せしますが。さらにその周辺の部分を岩石のマトリクス、基質というんですが、そこにも微細な空隙があります。こういったところにも地下水は入り込んでいるということです。
そこを、例えば割れ目においては、じゃあ、その割れ目の周辺はどうなっているかというと、これは水が流れる割れ目なんですが、そこを見ると岩石の周辺からこういう、なんて言いましょう。のこぎり状の鉱物、結晶が成長しています。ただ、これが全て開口しているかというとそうではなくて、中にはシーリングされているものもちゃんとあります。こういった開口している、していないっていうのが、どれぐらいの割合であるのかっていうのもちゃんと調べる必要があると。
そういったものを先ほどの瑞浪の超深地層研究所では実際の坑道を逐一、もうつぶさに見て、で、全ての割れ目を引っ張り出して、そこからどれくらいの割れ目が広がっているかとか、そういった研究もなされています。
その成果ですけど、最近やっと分かってきたのは、透水性割れ目っていうのは、水を通す割れ目っていうのは約1割ぐらいだと。これ花崗岩の事例ですが、そういったことが分かってきました。こういうのは実際、この目的のために研究しないとそういう成果っていうのは得られないと。実際地下に、鉱床も何もないところに穴を掘って、それだけのお金をつぎ込んでやるっていうのは、今回初めてやられてきているということですね。ただ、この割れ目の1割ぐらいだっていうのは、実はほかの研究事例でも得られてはいるんですけど、今まではそれを具体的に提示したことはなかったということですけど、こういうのが初めて地下研究の事例からも分かってきているということです。
地下水とともに流れて拡散することが一番怖い
じゃあ、実際そういう割れ目の周辺からどういう物質、元素の移動が起こっているのかというものですけど、これは割れ目の周辺にこういう、おそらく皆さんも石材とかで見たことあると思うんですが、こういう染みになったようなもの。ここが割れ目があるんです。これは、ここから元素が岩石の基質のほうに移動しているっていうことが分かったもので、そこの部分の岩石の状態も、こういうふうに色が変わったりしています。
で、ここの部分を割れ目からどういうふうに元素が移動しているか、特に先ほどもお話をしました、ウランっていうものに着目してみると、割れ目から岩石の中に入るに従ってウランの濃度が高くなって、一番ウランが濃集しているのはこの赤い部分の先端の部分なんですね。
岩崎:先生、ちょっといいですか。ここに今、割れ目があって、さっき縦に割れ目が出ていましたよね。
吉田:ああ、そうですね。ちょっとこれを。
岩崎:で、ここ、さっき、前の写真で縦に割れ目があって、左右に色が変わった部分があって、ここで地下水が。
吉田:そうです。ここを地下水が流れていって、こっちからも浸透して。
岩崎:こう、浸透していっているという。皆さん、図、分かるでしょうかね。
吉田:なんでこんなことをやっているかっていうと、将来、もし、放射性元素が溶けた地下水が岩石の中を流れるとなると、こういう割れ目を通るはずです。この割れ目を通りつつ、周辺にどれくらい拡散してって、この周辺がどれくらい放射性元素を吸着してくれるのかっていうことを知っておく必要がある。あるいは、もしこれを吸着する力がないんであれば、それは、やっぱりここを通る放射性元素がより遠くまで流れていってしまうことになると。
その辺の割合、量、それを働き、機能と私は言っているんですが、吸着量っていうのを岩石ごとにちゃんと認識しておく必要があるだろうと。それは最初の岩崎さんの質問じゃないですけど、果たして日本で処分することが可能なのかどうかということの、いわゆる1つの科学的データ、裏付けにもなる。
で、もしこういう吸着量がないんであれば、なかなかそれは地下では処分できないよねと。でも吸着ができるんであれば、それは岩石もそれだけのバリア機能っていうのをちゃんと持っているんだよねっていうことが理解できるということですね。
そういう意味で、これで見ると、この先端の部分では、先ほどの鉄酸化物、赤茶色い鉱物なんですけど、そういったところにウランが濃集している箇所というのが見受けられるということですね。そういう現象っていうのが、ちゃんと岩石の中にもありますので、もしこういうところをウランが流れてって、地下水とともに流れてって、広がった場合には、こういった酸化物とかがあれば、こういうところに吸着されることになると。
じゃあ、地下の中って酸素がないのに酸化物ってあるのかっていうことなんですけど、これらを放射性元素が流れる前に、もし放射性元素が流れるとなると、先ほど言っていた鉄のオーバーパックっていうのは溶けているはずですね。で、オーバーパックが溶けてどこを流れるかっていうと、オーバーパックもここを最初に流れているはずなので、そうするとこの流れている周辺には、鉄の酸化物も広がっている可能性があります。となると、鉄の酸化物が広がったあとに、地下水に溶け込んだウランとか放射性元素が流れることになりますので、こういった天然の事例は鉄酸化物があっても、それは吸着材として働くということを示してくれているということです。
で、堆積岩の中、これは先ほどの示したウラン鉱床の話ですが、これも白い部分、これが実は岩石の、これは堆積岩ですけど、白い部分の中にウランが濃集しています。どういったところにウランが濃集しているかっていうと、皆さんも知っていると思うんですけど、黒雲母っていう鉱物、黒い、薄く割れる鉱物の中にウランっていうのはより、あるいは放射性元素っていうのは、より吸着しやすいっていうことが分かってきています。
この黒雲母とかいう鉱物は岩石には非常に、普遍的に入るような鉱物です。今、回している岩石試料の黒い部分、そういったところが鉱物です。そういう意味でも、こういう鉱物があるから2000万年間もウランが堆積岩の中に保持されてきているっていうことが言えるということになります。
もう1つの、今度は地下水の話ですが、地下水は、じゃあ、地下は地下水として動くだろうということですけど、確かに地下水は動くんですが、実は地下水は最終的には海面のレベルに向かって地上から、いわゆる山の高いところから流れてくることになります。例えば2点間の部分を調べると、勾配が高ければ高いほど、角度があればあるほど地下水って流れやすくなりますね。ところが海面をゼロメーターで、基準で考えた場合に、それよりも深いところに地下坑道を造れば、地下水の流れっていうのは基本的に非常に遅くなることになります。ちょうどお風呂の中に入ってるような状態ですね。
そういう地下水の流れの動きを利用して、実は今、瀬戸内海の海底下には液体ガス、LPGっていう、例えばガスコンロで使うコンロのカートリッジですね。あれにはしゃかしゃかと振るとその液体が入ってますが、それを地下の岩盤の中、花崗岩の中にそのまま保存しようという仕組みがあります。この深さは海底下、瀬戸内海の海底下200メーターぐらいなんです。この上は瀬戸内海ですね。
で、岩盤の中に、大きさとしては400メーターで、高さが25メーターとか、40メーターというものですけど、これ、掘削途中のものですが、こういう状態。で、この周辺はコンクリートを若干吹き付けていますが、基本は花崗岩っていう岩盤の中に、地下水のある岩盤の中に気圧を高めることによって気体を液体にして保存すると、そういう仕組みがあります。
これも要は地下だから水が動きやすいから駄目だということではなくて、地下の海底下、あるいは地下の深いところであれば、水があっても、その水の流れっていうのは非常に遅くなって、その圧力でもっていろいろなものが保存できるような状態っていう働きっていいますか、物理的な状態も作れるということですね。実際、放射性廃棄物は個体でそこに廃棄体を入れますので液体とかいう状態ではありませんので、そういう地下には物性っていいますか、それが備わっているという事例として、ちょっとお知らせしました。
最後に皆さんがちょっと関心のあるところと思いますが、じゃあ、その処分の環境、場所はあるのかということについてお話をしようと思いますけど。
岩崎:はい。まずここまでで地下ってどういうところなのって、地下ってどういう機能が持っているのって、お話があったんですが、ちょっとあれですね。結構多くの内容が、ばっと詰め込まれていたので理解がなかなか追いつかないところもあるかもしれませんが、一番怖いのが地下水に触れて、それが地下水とともに流れて拡散していってしまうということが、地下のリスクとしてあって、ただ、流れる道にある岩石の種類とか、岩石の機能というものがあって、吸着する岩石の機能と、吸着したままそれを拡散させないようにしているというところもあるので、その岩石がどういう種類だとどういう性質を持っているか。それを日本の岩石で見ていくということが非常に重要だというお話だったかと思います。 infoseek newsより
0 件のコメント:
コメントを投稿