2017年7月17日月曜日

インターネット上で見ると死ぬと噂される

心理的リアクタンス

人はなぜ、禁じられたものに魅力に感じるのだろうか。「見てはいけない」と言われたら、どうしても見たくなる。そういった欲求を心理的リアクタンスという。

私たちは常に自分の行動を、自分の意志で選択したいと考えている。束縛されると強いストレスを感じ、早く開放されたいという心理が働く。つまり禁止されるとストレスが生じ、どうしても実行してしたくなってしまうのだ。

ビジネスの世界でも、この心理を応用した手法がある。『関心のない人は読まないで下さい』などと否定的な文言で、興味を抱かせるやり方である。
 
私は『放送禁止』という映像作品を作ってきた。「放送が禁じられたドキュメンタリーを関係者の承諾を得て公開する」という体裁のフェイク(疑似)ドキュメンタリードラマである。『出版禁止』(新潮文庫)という長編小説も書いた。こちらも「出版が禁じられたルポルタージュ」というミステリー小説だ。両方とも「心理的リアクタンス」効果をドラマや小説などフィクションの手法に応用したものである。

そして、私が初めて書いたノンフィクション『検索禁止』(新潮新書)は、禁止シリーズのリアル版なのだ。この本は、インターネット上で噂されている検索禁止の言葉について検証した本である。さらには、『放送禁止』や『出版禁止』など、作品を創作する過程で調査した、現実に起こった事件や出来事、さらには、これから調べたいと思っていた恐ろしい事象や、日本の風習についても書かせてもらった。

①「トミノの地獄」
「トミノの地獄」という検索禁止の言葉がある。「トミノの地獄」とは、大正から昭和にかけて活躍した詩人の西條八十が、26歳の時に発表した詩なのだが、インターネットでは「決して検索してはいけない」と恐れられている。なぜこの詩が検索禁止なのかというと「声を出して読むと死ぬ、もしくはとんでもない凶事が起きる」と言われているからだ。

寺山修司全歌集 (講談社学術文庫)

トミノという主人公の地獄巡りを描いた謎に満ちた詩なのだが、1970年代の劇作家寺山修司が死亡した原因は、「トミノの地獄」を音読したのではないかという噂がある。『寺内貫太郎一家』などで知られるドラマ演出家の久世光彦も、亡くなる前に何度も、エッセイでこの詩の魅力を熱く語っていた。もしかしたら久世も、この詩を口ずさんだのではないか。

寺山修司と久世光彦。2人のカリスマを魅了した「トミノの地獄」。実は私も、『検索禁止』の原稿を書いている時、「トミノの地獄」を、途中まで声を出して読んでしまった。もちろん意識的にではない。気がつくと、詩の一節を口にしていたのだ。『検索禁止』には「トミノの地獄」の全文が収録されている。皆様には十分御注意願いたい。

②「エレナ~究極のラブストーリー」

「エレナ~究極のラブストーリー」も検索禁止とされている言葉である。こちらは1930年代のアメリカで実際に起きた事件で、私が『出版禁止』を執筆する時のモチーフにもなった。

フロリダ州に住む医師のカール・フォン・コーゼルは、美しい人妻のエレナ・オヨスという患者に恋をした。エレナは結核で死亡するのだが、コーゼルは愛しさのあまり、遺体を墓から掘り返し、家に持ち帰ったのである。こうして死せる花嫁との生活が始まる。


photo by iStock

腐敗が始まると、コーゼルは防腐処理を施したり、皮膚を蝋で塗り固めるなどして、生前の面影を保ったという。さらにエレナの家族に見つからぬよう、遺体とともに何度も家を移り住み、そんな生活は9年も続いた。

だがある日、コーゼルとエレナの生活に、終止符が打たれる時がやってくる。エレナの妹が、コーゼルに疑念を抱き、彼の家に現れたのだ。9年ぶりに、姉と対面するエレナの妹。そこで彼女が見たものは、毒々しい化粧と蝋で塗り固められた、ガラス目玉のつぎはぎ細工の化け物だった。

その後、コーゼルは死体遺棄容疑で裁判にかけられた。しかし、陪審員は彼の行為は「究極の愛」であると評し、罪に問われることはなかったという。現在インターネットでは、「エレナ~究極のラブストーリー」と検索すると、実際のエレナのおぞましい遺体写真が現れる。よってこの言葉は「検索してはならない」とされているのだ。

③「おじろくおばさ」

検索禁止』には、私がかねてから詳しく知りたいと思っていた、封印された日本の風習についても書いた。信州のある貧しい村で行われていた「おじろくおばさ」という風習である。

「おじろくおばさ」とは、かつて日本に実際にあった家族制度で、その家に生まれた、長男以外の子供のことを示す。「おじろく」は男、「おばさ」は女である。

彼らは、その家の長男に隷属し、生涯を農作業と雑用に従事して終える。戸籍もなく外界との交流も禁じられ、結婚も許されない。読み書きを習うこともなく、家の中の地位は長男の妻子より低い。食事は最低限の粗末なもので、寝床は納屋や物置である。そんな奴隷の如き生活により、次第に感情も失われてしまうようだ。人生の喜びや悲しみ、娯楽も持たず、命果てるまで機械のように働き続けるのだ。

だが「おじろくおばさ」について調べていて、最も驚いたのは、この制度が存在したのが、さほど遠い昔のことではないということだった。この制度は明治以降も続いており、明治5年には人口2000人の村に、190人もの「おじろく」と「おばさ」がいたという。
さらに調べてみると、昭和30年代にも「おじろくおばさ」は存命しており、彼らを研究した貴重な学術論文が現存していた。『検索禁止』では、その学術論文をもとに、封印された「おじろくおばさ」という制度の実態について、詳しく紹介した。

④「エド・ゲイン」

さらに、この本を執筆していて驚いたのは、「エド・ゲイン」のことである。エド・ゲインとは1950年代のアメリカに実在した殺人鬼であり、『サイコ』『悪魔のいけにえ』『羊たちの沈黙』などの名だたる恐怖映画の名作は、エド・ゲイン事件をモデルとして製作された。

だが私は、ヒッチコックの『サイコ』がエド・ゲイン事件をモデルにしたということに少し疑問があった。モデルというほど、『サイコ』とエド・ゲインの話はあまり似ていないと思っていたからである。だが今回調べてみると、その疑問が一気に氷解した。

アルフレッド・ヒッチコック監督『サイコ』

1957年、ウィスコンシン州の田舎町で、金物店の女主人が、血痕だけを遺して失踪するという事件が起こった。目撃証言からエド・ゲインという49歳の独身男が、容疑者に浮上する。

警官が彼の農場に急行すると、首を切り落とされ、逆さ吊りにされた女主人の全裸死体を発見した。あまりの残酷な遺体の姿を見て、警官は思わず吐きそうになったという。だが、それはまだ序の口にすぎなかった。さらに奥に進んで行くと、彼はまるで地獄絵図のような光景を目の当たりにする。

エド・ゲインの部屋は、無数の女性の遺体であふれていたのである。しかも遺体には、酸鼻極まる処置が施されていた。食器棚に並べられた女性の生首。頭蓋骨を半分に割ったスープ皿。女性の顔の皮を被せたランプシェード。壁には、乳房のついた生身のチョッキやベストや、皮膚を剝いで作ったマスクが、ずらりと飾られていたという。

一体なぜ彼は、悪魔のような所業を行ったのだろうか。厳格な母に育てられたエド・ゲインは、母が死んでからも呪縛から逃れることが出来ずにいた。やがて彼は、墓場から女性の遺体を盗み出すようになり、家に持ち帰るようになる。

警察の取調べでエド・ゲインは死体の皮を被って、夜の墓場を行脚することもあったと告白している。そして、死体を掘り返すだけでは飽き足らず、殺人まで犯すようになったというのだ。
 
この事件を新聞記事で知ったのが、当時ウィスコンシン州に住んでいた、作家のロバート・ブロックである。彼はこの事件に着想を得て、『サイコ』という小説を書き始めた。だが実は、あまりにも凄惨な出来事だったため、事件が起こった時はあまり詳しく報道されなかったらしい。

そのためブロックは、エド・ゲイン事件の詳細をあまり知らぬまま、『サイコ』を執筆したという。だから『サイコ』の舞台は、農場ではなく郊外のモーテルであるし、ストーリーや犯行の様相も、エド・ゲイン事件とは大きく違っているのだ。

その後、ブロックの小説をもとに、アルフレッド・ヒッチコック監督が『サイコ』(1960年)を映画化したのだが、『サイコ』とエド・ゲイン事件とあまり似ていないのは、このような理由があったからである。

それとは逆に、1975年に公開された『悪魔のいけにえ』は、エド・ゲインの所業を忠実に映像化したような映画である。舞台は田舎町の農場。吊し上げられる女性。死体の皮を被った男。

だが監督のトビ・フーパーは、エド・ゲイン事件を知らなかったというのだ。監督によると、この映画の発想の原点は、子供の頃に叔父から何度も聞かされた、恐ろしい都市伝説の記憶だという。それはウィスコンシン州に伝わる「女の皮を剥ぎ取りランプシェードを作る殺人鬼」の伝説。忌まわしい事件の記憶は都市伝説に姿を変え、アメリカ中に蔓延していたのだ。

悪魔のいけにえ』は、殺人鬼エド・ゲインの怨念が監督の深層意識に忍び込み、作らせた映画というわけなのである。

検索禁止』には、ほかにも古今東西の封印された出来事や、身も凍るような事件について記されている。「コトリバコ」「黒い日曜日」「ソニー・ビーン事件」「稲垣吾郎の『隠し妻』を名乗る女」「バニシェフスキー事件」「ストーカー人違いバラバラ殺人」。

真夏の夜に、リアルな恐怖を体感したいという方は、是非手にとっていただきたい。でも恐いものが苦手という人は、読まない方がいい。眠れなくなったり、気分が悪くなったりした方がいたら、申し訳ない。念のため。 現代ビジネスより

必ず死ぬ――そう言われても、ヒトは検索せずにはいられない。

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