そもそも「レーザー」とは、“輻射の誘導放出による光の増幅”の略称。
要するに“光を増幅して一定の方向に放出するもの”である。通常の光は光源から四方八方に広がるのに対し、レーザーは「指向性」が高いため、広がることなく真っすぐ進む。さらにスペクトル幅が一律である「単色性」、光の波同士の山と谷がそろっている「干渉性」、容易に変調をかけられる「制御性」という特徴がある。
すなわち、人為的に生み出した光だからこそ無駄がなく、コントロールしやすいことがメリット。さまざまな産業技術に利用するのに、うってつけの性質が備わっているともいえよう。
住村氏も、そんなレーザーの魅力にすっかり取りつかれた一人だ。
「昔から速いものが好きでした。宇宙で最も速いものっていったら、“光”なんです。アインシュタインも相対性理論を通して、光の速度こそこの世の物質の中で最速であるといっています。そもそも宇宙の始まりであるビッグバンも、その10ミリ(0.01)秒後の世界は光の海だったといわれています。光合成なくしては植物が育たないなど、光は生命の根源であるともいえます」
19世紀は「蒸気」の時代、20世紀は「電気」の時代、そして21世紀は「光」の時代だ。そんな「光」の中でも主役となるのが「レーザー」だと説明する。
- 自然光とレーザー光の比較。レーザーは単色性と干渉性が高いことから、レンズで集光することで物理的にこれ以上絞れない回折限界まで絞ることができ、鉄板を焼き切るほどにエネルギー密度を高くすることができる
画像提供:株式会社 光響
世界市場でのレーザーの年間売上高は、2013年の89.7億ドルから、2017年には110.9億ドルへと堅実な成長が予測されている。*
*出典:レーザ・マーケット・リサーチ社とストラテジーズ・アンリミテッド社
では、現在レーザー技術の普及・利用状況はどの程度か確認しておこう。
まず、金属加工や半導体製造、材料へのマーキングといった「ものづくり・加工分野」での利用が、レーザー市場の約1/3を占める。
製造以前の設計段階でも、レーザー3Dスキャナーが活躍しているが、ここ数年は金属3Dプリンターによる金型の製作など、ものづくりにレーザー加工技術は欠かせない存在となっている。高出力で極めて細かな加工も可能なレーザーは、これからも製造現場の主役となりそうだ。
そして、さらに約1/3が「通信」での利用である。
電気信号を変調器によって光信号に換え、光ファイバーによって遠隔地へ伝送する仕組み。地球の裏側へだってほとんど損失なく、文字通り“光の速さ”で情報を運ぶことができる。
残りの約1/3は「その他」ということになるが、ここが実に幅広い。
PC周りの機器を見渡してみると、レーザープリンター、レーザーマウス、光ストレージ(CD、 DVD、 BD/ブルーレイ ディスク)はよく知られているが、レーザーディスプレー、レーザーキーボードも登場。さらには光メモリーや光CPUまで含め、従来のあらゆる機器・部品がレーザーに代替できるという。
さらに、よく知られているのが「医療・美容分野」での利用だ。
レーザーメス、レーシックや白内障・緑内障といった目の手術、虫歯治療や歯石除去、永久脱毛、しわ取り、タトゥー除去など。驚くべきは、脱毛だけでなく育毛さえレーザーで行われつつあるということ。
「レーザーは、細胞レベルをピンポイントに当てることができ、患部を無駄なく切除できるため、医療では積極的に導入が進んでいます。また、出力を自在にコントロールできるため、細胞の活性化にもレーザーを活用することができるんです」
他にも、レーザーの活用事例をざっと列挙してみると
■ポインター
■照明装置
■軍事利用(赤外線防衛手段、指向性エネルギー兵器など)
■ウェハやマスクといった半導体検査
■水準器
■ジェスチャー認識
■バーコードリーダー
■ライトショー
■レーザープロジェクション
■動物用レーザーフェンス
など、幅広いジャンルで導入が進められている。
- 光響の取り扱い製品の一つファイバーレーザー金属マーカー。金属性のほとんどの素材に、ロゴや写真のような精緻なプリントが可能。金属だけでなくアクリルのカットなど、ものづくりの分野にレーザーはなくてはならない
近年、測距の分野でも特にレーザーに注目が集まっている。
それが、ぐるり360度を一気に測距できる「ライダー(LIDAR)」と呼ばれる装置だ。
「ライダーは、例えば自動車に搭載して、自動運転に活用することが可能です。ドローンに搭載すれば、地震や火山噴火といった災害時に、地形がどう変わっているかなどを無人でくまなく調査ができてしまいます」
さらには、大気中のCO2濃度、PM2.5の検出といった調査にも、ライダーの技術が有効だ。
レーザー光の波長は従来のレーダーよりもはるかに短いため、雲の粒子といった細かいものも検出できる。リアルタイムでの観測がモノを言う気象分野にも、うってつけの技術だ。
- バックパック型のLIDAR「LiBackpack」も登場。GPSが不要で、背負って歩くだけで周辺の地形や建造物を3Dマッピングできる
画像提供:株式会社 光響
従来のプロジェクターは大型で、スクリーンに焦点が合うよう固定して投影する必要があるのに対し、光量が強く指向性のあるレーザーなら非常にコンパクトにでき、どこへ投影しても簡単に像を結ぶので気軽に持ち歩いて、PCやスマホから好きなところで投影可能なのだ。
- 韓国製のコンパクトなレーザープロジェクター「PicoBit」。レーザー製品の一般流通には、日本国内での規制緩和などまだまだ環境整備が必要という
高出力のレーザー光は、目に直接入ると危険なので、据え置き型以外の機器は日本では規制の対象になってしまうのだ。
「でも、実はこの製品の基盤技術は、ソニー製の部品で実現されているんです。レーザーに関する論文や特許も、日本からたくさん出されている状況ですし、レーザーの国際学会CLEOでも、多数の日本人がチェアマンを務めています。研究・開発分野では、日本は先行しているほうなんです」
小回りが利き、スピード感のあるベンチャー企業の登場が期待されるが、住村氏はこの「スピード」こそ、エネルギーの根源だと認識する。
「100年前にレーザーを予言したアインシュタイン。彼の提唱した特殊相対性理論では、『E=mc2』(エネルギーは質量×光速度の2乗となる)という式があります。c、すなわち光の速さはエネルギーなんですよ。速ければ速いほど、強いエネルギーが生まれる。光の速さで進むレーザーは、私にとってエネルギーそのもの。仕事にかけるエネルギーに関しても、PDCAを思いっきり速く回すことができるベンチャーこそ、レーザーを追求する私のスタイルに合っているのかなと思っています」
もともと同志社大学工学部、日本原子力研究開発機構(現 量子科学技術研究開発機構)、大阪大学大学院と、一貫してレーザーに携わってきた根っからの研究者でありながら、レーザー技術のさらなる発展を目指すために起業する道を選んだ。
自ら研究者や技術者として生きるのではなく、それらレーザーに携わる人々を手助けする役割を買って出た形だ。
急成長を遂げる技術分野では、研究者や技術者、技術を使用するメーカーや商社、エンドユーザーまで、円滑に交通整理を行う役割が必要。そのプラットフォーマーであり旗振り役として、これ以上の適任者はいないだろう。
住村氏は2040年をイメージしたビジョンを説明してくれた。
どれも実現すれば各業界にとって革命的な進歩をもたらしそう。住村氏の言う「スピードこそエネルギー」という言葉通り、光の速さを持つレーザーは、エネルギッシュに世の中を変えていく。
- 2040年の社会をイメージしたビジョン。上空で太陽光発電を行って地表へ送る「レーザーエネルギー伝送」、深海に光を伝送して行う「レーザー養殖」、水を使わない「レーザー洗濯機」、雷の莫大なエネルギーを利用する「レーザー誘雷」など、業界の先端情報が集まってくる住村氏ならではのビジョンだ(なお、右下に描かれているのは光響のマスコットキャラクター『魔光少女 プリズム☆響』)
画像提供:株式会社 光響 EMIRAより
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