2017年7月2日日曜日

話題の「人魚の掛け軸」、直撃取材して新事実判明

佐賀市本庄町の東光寺に保管されている、いつ・どこで・誰が描いたのかすべてが謎の「人魚」の掛け軸について、佐賀新聞をはじめとする複数のメディアが取り上げ、大きな話題を呼んでいる。

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住職と掛け軸 画像は「佐賀新聞」より引用

■人々から恐れられる人魚の掛け軸

東光寺は山号を瑞泉山(ずいせんざん)とする曹洞宗の寺院で、国指定重要文化財の薬師如来座像が祀られている。寺伝によると、永享年間(1429~41)日高入道宗任本治が日高家累代の祈念仏である薬師如来座像を本尊として、隣町の鎮西町赤木に小庵東光寺を建立したのが創建とされる。そして天正20年(1592)、鎮西町赤木の退廃した東光寺を見かねた前越州珠呑大居士が、仲外正寅大和尚を拝請して寺号を現在の地へと移し、再建中興を果たしたという。

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東光寺の本堂 画像は「お寺めぐりの友」より引用

さて、問題の掛け軸に描かれた「人魚」は、胸から下が魚そのもので、肩口までうろこを纏っている。牙の間から真っ赤な舌がのぞき、目を見開きながら笑って振り返るその姿は、見る人によっては恐ろしくもあり、子どもは逃げ出すそうだ。そのため、掛け軸は現在では寺院の床下に保管されている。住職によると「勇気をふりしぼって見たい方はおっしゃってください」との事だ。

■東光寺に直撃取材で新事実判明!!

しかし、魔女である筆者はこの話を聞き、何やら違和感を抱いていた。掛け軸を見ても、報道にあるような「おどろおどろしい人魚」には感じられないのだ。ぽっちゃりとした女性の体型は、古来より土偶にも見られる母性や豊作の象徴である。それに顔も、牙はあっても実に穏やかな笑顔をしていて、とても人に襲いかかるようには見えない。

そこで筆者は、この掛け軸の実像を探るべく、東光寺に電話取材を試みた。すると担当者(女性)は、快く筆者の質問に答えてくれた。

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人魚の掛け軸 画像は「佐賀新聞」より引用
 
掛け軸はいつからあるものなのですか?
 
担当者  いつからあるのか、正確にはわかりませんが、私の祖母の代からありました。佐賀新聞に記載されている通り、現在の建物に寺を移した1953年にはすでに存在したそうです。
あの掛け軸に描かれているものの正体は何でしょう? 佐賀県に人魚伝説はあるのですか?
 
担当者  実は人魚伝説は聞いたことがございません。しかし、カッパに関する伝承ならば多数あります。この辺りでは河の博士、すなわち「河博」と書いてカッパと呼んでいるんですよ。河童はイタズラをして人を困らせますが、河博は河の守り神で、豊作の神様なんです。
 
では、あの掛け軸について、実は人魚ではなくカッパを描いたものである可能性もありますか?
 
担当者  はい、その可能性はあると思います。
 
なんと! これまで“人魚”と考えられてきた掛け軸が、実は「河博(カッパ)」である可能性が高いという衝撃の展開だ!

九州はカッパだらけ!?
 
たしかに、佐賀県では各地にカッパの伝承が数多く残されている。伊万里市の造り酒屋、松浦一酒造には「河伯(カッパ)」と呼ばれるミイラが保管されているが、その身長は幼児ほど、手の指は5本、足の指は3本ある。当家では代々女子しか産まれず、男子の養子をとってきたが、この河伯を奉るようになってから男子も産まれるようになったという。そのため、このミイラは“子宝の神様”として敬われることもある。

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松浦一酒造の“河伯” 画像は「松浦一酒造」より引用
 
江戸時代、造形師たちの手によってさまざまな動物の身体部位を組み合わせた“カッパのミイラ”が作り出されたため、松浦一酒造のミイラも造形ではないかという説もあるが、真相は歴史の闇に葬られている。
 
ちなみに、河伯とは中国の水神のことで、「西遊記」に登場する沙悟浄も河伯である。本来、河伯は白い竜の姿、もしくは白い竜に変身するといわれ、あるいは人頭魚体とも呼ばれる存在だ。そして日本では、「河童」と「河伯」が同一視されることも多い。
 
そして佐賀県のみならず、九州では各地にカッパ伝説が受け継がれている。かつて九州には「九千坊(くせんぼう)」と呼ばれる“河童の元締め”が存在し、九千匹の子分を持ち、球磨川・筑後川を本拠として西海道一円の河童を束ねていたという。九千坊の悪行に怒りを募らせた加藤清正が、九州中のサルを集めて退治したとも伝えられる。その他に、壇ノ浦の戦いに敗れた平家の武士たちが九州に逃れ、討ち滅ぼされた後に霊魂が河童となった、という伝承もあるようだ。

それにしても、東光寺の掛け軸が「河の守り神」「豊作の神様」の河博だとしたら、報道のようにおどろおどろしく語られ、人々から恐れられるのは、あまりにも失礼であるうえ可哀相ではないだろうか?同情を禁じ得ない。近辺を訪れる機会がある読者は、ぜひ一度、ありがたいものとして拝んでみてはいかがだろうか。 トカナより 

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