2017年7月1日土曜日

欺瞞に満ちた韓国番組「独島100年の時間」 嘘八百の主張を打ち崩すには

【竹島を考える】下條正男・拓殖大教授
 
内閣官房の「領土・主権対策企画調整室」は5月12日、『尖閣諸島及び竹島に関する資料調査報告書』(以下、報告書)をネット上に公開した。韓国側の反応は、共同通信の報道を複数のメディアが翻訳して伝えた程度で、「(この資料は)日本の主張を重ねて立証するもの」とした松本純担当相の発言は無視された。

YTN(韓国のニュース専門テレビ局)の電子版は、「報告書に収められた独島(竹島の韓国側呼称)関連の資料は、日本がこれまでの間、『独島は日本の領土』とする偽りの主張をしながら、提起してきた根拠と差がない」と報じたが、これが全てを物語っている。松本担当相は、「日本らしく丁寧に、客観的なエビデンスを内外に発信していく」そうだが、現実は甘くない。

説得力ある韓国側の主張

報告書が公開される10日前、韓国の国策研究機関「東北アジア歴史財団」(独島研究所)のホームページには、昨年8月にYTNが放映した「『YTNスペシャル』大韓民国独島100年の時間」(約100分)が掲載され、その1週間前には、東北アジア歴史財団制作の「独島広報映像」(約7分)が公開された。

「独島広報映像」は、「日本の独島領有権主張の虚構性を客観的な事実を根拠に説明する」ために制作され、その欺瞞(ぎまん)に満ちた主張には説得力がある。

『YTNスペシャル』大韓民国独島100年の時間」も、東北アジア歴史財団の協力で制作され、「6世紀から韓国領だった竹島が、日露戦争の最中の1905年、日本に侵奪された」とする“歴史認識”で一貫している。

この詐欺まがいの韓国側の広報に対して、資料を羅列しただけの報告書では、歯が立たない。

主張論破され、新たな論理開発に走る韓国

今日、竹島問題は、韓国側が主張する理不尽な歴史認識を糺(ただ)す段階にある。竹島問題は、島根県竹島問題研究会が2014年に刊行した『竹島問題100問100答』で、ほぼ決着がついているからだ。

島根県の竹島研究では、竹島を韓国領とする文献や古地図に対して、韓国側の文献解釈の誤りを指摘したが、韓国側ではそれに対する反証ができずにいる。

そこで韓国側は主張が批判されると、「独島を韓国領とする論理を開発しなければならない」と強調するようになった。論破された事実を認める代わりに、争点を移して、新たな「論理を開発」することにしたのである。

その「論理を開発」した結果が、慶尚北道独島史料研究会の『「竹島問題100問100答」批判』や、韓国側の論理をそのまま使った名古屋大学の池内敏教授の『竹島-もうひとつの日韓関係史』(中公新書)である。

だが、韓国領でないものを韓国領とするのは、無理がある。逆に、独島が韓国領でなかった事実を立証し、墓穴を掘ってしまったといえる。日本側としては韓国側のオウンゴールを誘い、挑発を続ければよいのである。

文献や古地図を集めるだけでは無意味

『YTNスペシャル』大韓民国独島100年の時間」には、韓国側と協同し、「竹島の日」条例を撤廃させようと法廷闘争を挑んだ『「竹島の日」を考え直す会』の久保井規夫氏が登場する。

その中で久保井氏は、江戸時代の地理学者・長久保赤水の『日本輿地路程全図』に関し、「竹島と鬱陵(うつりょう)島に彩色がなされていないのは、長久保赤水が朝鮮領としていた証拠だ」とする主旨の発言をしている。

この主張は、韓国の研究者、崔書勉(チェ・ソミョン)氏が最初に唱えたように記憶しているが、長久保赤水は、『大日本史』の中で、竹島と鬱陵島を日本の版図としている。彩色の有無は、領有の意思とは関係がないのである。

史料批判もせずに、古地図や文献を恣意的に解釈するのは、学問とは無縁のプロパガンダである。残念なことに韓国側には、文献や古地図を曲解して、声高に叫ぶ傾向がある。それも竹島問題と歴史教科書問題や日本海呼称問題などに結び付けては、国際社会で日本批判をするのである。

日本政府が竹島問題を解決するには、文献や古地図が駒(資料)となるが、駒を集めるだけでは意味がない。その駒をいつ、どこで誰が使うのか、詰めが肝心である。

尖閣問題に一石投じた大清一統志

これは尖閣問題も同じである。領土・主権対策企画調整室が公開した報告書では、中国・清代の地誌『大清一統志(だいしんいっとうし)』(1744年)を新資料としているが、これは新資料というほどのものではない。

『大清一統志』では清は台湾の北東を境界とし、尖閣諸島はその外に位置している。つまり尖閣諸島は清の境界外にあったことになる。

こうした事実を報じたのは、2010年11月4日付の「産経新聞」が早い例である。中国漁船による海上保安庁の巡視船に対する衝突事件を機に、日中が尖閣諸島をめぐって対立していた時であり、当日の産経新聞1面は、中国漁船の衝突ビデオに関する記事で占められ、『大清一統志』の記事は2面に載った(台湾地図の写真はなかった)。

さらに2015年9月28日付の産経新聞は、『大清一統志』の台湾地図が、イエズス会の宣教師らが測量した『皇輿全覧図(こうよぜんらんず)』を基にしていたと報じた。この記事は、英国BBC(電子版)の中国語版でも伝えられ、尖閣問題に一石を投じることになった。

また、『正論』(2015年5月号)では、琉球冊封使(さくほうし)(中国の使節)の斉鯤(セイ・コン)が『東瀛(とうえい)百詠』の中で、台湾(鶏籠山)を「猶是中華界」《猶(なお)これ中華の界のごとし=中華(清朝)の境界》としていた事実を紹介し、その外側に位置する尖閣諸島が「無主の地」であったことを実証した。

これらはいずれも、尖閣諸島を歴史的に中国領であったとする中国側の主張を覆すことのできる古地図と文献である。

しかし、当時の民主党政権下では、尖閣問題が浮上すると「オスプレイ」の導入を図り、自民党政権下では「集団的自衛権」の容認に走って、軍国主義の台頭、右傾化といった日本批判の口実を内外に与えてしまった。

歴史的事実として、竹島と尖閣諸島は、日本の領土である。「オスプレイ」と「集団的自衛権」で、近隣諸国との関係を緊張させる前に、日本には使える駒(外交カード)があったのである。

だが、中韓を攻略できる外交カードがあっても、それを使う手順が分からなければ“猫に小判”である。前回のコラムも触れた「東海併記問題」をはじめ、「日韓漁業協定」や「日台漁業取り決め」などでの外交的敗北はその実例である。

報告書の公開に安住するな

今回、公開された報告書には、当面、必要のない駒も集められているが、これは領土の一部が侵奪され、侵略の危機に直面している時にする作業ではない。『大清一統志』を新資料とするなら、早速それを使うべきであった。『大清一統志』の場合は、報告書の7年前に報道されているが、攻略のタイミングが遅れれば、それだけ中韓が守りを固めていく。

日本政府がすべきことは、「東海併記問題」での外交的敗北を検証して、手持ちの駒で中韓に引導を渡し、止めを刺すことである。それを「客観的なエビデンス」などと報告書の公開に安住し、尖閣問題や竹島問題までも振り出しに戻すことは許されない。

だがそのためには、古い革袋に新しい葡萄(ぶどう)酒を入れてはならない。新しい革袋を準備し、時の政権の都合や省庁の思惑に左右されない「新しい葡萄酒」(研究機関)を入れることである。 イザより

0 件のコメント:

コメントを投稿

日産ケリー前代表取締役の保釈決定 保釈金7000万円 東京地裁

金融商品取引法違反の罪で起訴された日産自動車のグレッグ・ケリー前代表取締役について、東京地方裁判所は保釈を認める決定をしました。検察はこれを不服として準抗告するとみられますが、裁判所が退ければ、ケリー前代表取締役は早ければ25日にもおよそ1か月ぶりに保釈される見通しです。一方、...