2017年7月6日木曜日

安倍首相は「金正恩包囲網」をトランプに助言した

ドナルド・トランプ米大統領は、「アメリカ・ファースト政策」を捨てた。「アメリカ・ファースト」は、米国の「孤立主義」を意味する言葉だ。大西洋横断飛行に成功したチャールズ・リンドバーグらが「アメリカ・ファースト委員会」を設立し、欧州やアジアでの参戦反対を訴えた。彼らは日本の真珠湾攻撃で尊敬と人生を失った。
 
トランプ大統領は、シリアへの巡航ミサイル攻撃と北朝鮮の核開発阻止で「孤立主義」を捨て、「干渉主義(国際主義)」に舵を切った。習近平主席に、北朝鮮の核開発阻止への協力を約束させた手腕はなかなかのものだ。
 
トランプ大統領は米中首脳会談の前後に安倍晋三首相と電話会談し、対北朝鮮政策について協議した。二人は、北朝鮮を核放棄に追い詰めるため「対北石油全面禁輸」が効果的と合意し、習主席に協力を求めた。
米フロリダ州パームビーチの高級別荘「マールアラーゴ」で中国の習近平国家主席(左)を歓迎するトランプ米大統領=4月6日(ロイター=共同)
米フロリダ州パームビーチの高級別荘「マールアラーゴ」で中国の習近平国家主席(左)を歓迎するトランプ米大統領=4月6日(ロイター=共同)
 
北朝鮮はアジアで最も石油のない国である。この問題の重要さに多くの人は気がついていない。北朝鮮の年間の石油輸入量は、最大でも70万トンである。この90%は中国が供給している。日本の自衛隊が年間消費する石油は年間150万トンに達する。その半分以下では全面戦争はできない。

石油の全面禁輸に踏み切れば、北朝鮮の軍隊は崩壊する。戦車は走らないし、戦闘機は飛ばないし、海軍艦艇も動かない。北朝鮮は軍隊が支える国家である。石油が切れれば、体制は崩壊に向かう。

だが米国と中国のメディアは、12日の米中首脳電話会談で「北朝鮮が核実験とミサイル実験に踏み切れば、中国は石油禁輸を実行する」意向を習主席が伝えたと報じた。画期的な政策転換だ。

トランプ大統領は「中国が問題を解決すれば最高だが、ダメなら中国抜きで問題を解決する」と明らかにしていた。このため、航空母艦や巡航ミサイルを発射する海軍艦艇を朝鮮半島周辺に配備した。

中国は、米中首脳会談の内容をすでに金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長に伝えた。北朝鮮はどう出るか。北朝鮮は、4月15日の金日成主席生誕105周年のお祝いムードに満ちている。この祭典に彩りを添えるには、「打ち上げ花火」のミサイル発射と、「仕掛け花火」の核実験は不可欠だ。米国と中国の圧力に屈して、実験を中止すれば指導者の権威と正統性が疑われる。金委員長は最大のジレンマに直面している。
 
米国は核施設とミサイル施設への限定攻撃について、「北朝鮮は米国に届く核とミサイルを保有している、と明言した」から、「米国への重大な脅威だ」と説明するだろう。しかも攻撃は潜水艦や空母などの艦船から行われ、在韓米軍基地や在日米軍基地は使わない。とすると、北朝鮮は韓国を攻撃する法的理由に欠ける。
 
金委員長が核実験に踏み切っても、トランプ大統領は限定攻撃できないと判断すれば、ミサイルと核の実験が行われる。どう判断するのか。米国が核施設を単独攻撃すれば、在韓米軍基地や在日米軍基地への報復が予想され、被害を無視できないとの指摘がある。その可能性は否定できない。ただ、70万トン程度の石油では全面戦争はできない。

北朝鮮が最も恐れるのは全面戦争だ。もし在韓米軍基地や在日米軍基地を報復攻撃すれば、米国は全面的攻撃を行う。限定攻撃の際には、北朝鮮の連絡網や指揮伝達の回線やコンピューターも使用不能になる。反撃は簡単でない。
 
ティラーソン米国務長官は、12日にロシアを訪問しプーチン大統領とも会見したが、露首脳は北朝鮮への米国の限定軍事攻撃に、反対の立場を明らかにしなかった。習主席も電話会談で「平和的な解決」を求めたが、「軍事攻撃反対」とは言わなかった。習主席に近い人民大学国際関係学院の時殷弘教授が、昨年9月に「米国が核施設だけの攻撃で、金委員長に影響がなければ中国は黙認する」と述べたと、台湾の中国時報が伝えていた。金委員長に対する中国の冷たい雰囲気が反映されている。金委員長は習近平主席に何度も招待状を送ったが、全く返事がない。
 
「石油禁輸」は、安倍首相がトランプ大統領に強くアドバイスした戦略である。安倍首相は、北朝鮮への効果的な制裁策を聞かれ、「中国の対北石油全面禁輸」を伝えた。
2月10日、ワシントンのホワイトハウスでトランプ米大統領(左)の出迎えを受ける安倍首相(ロイター=共同)
2月10日、ワシントンのホワイトハウスでトランプ米大統領(左)の出迎えを受ける安倍首相(ロイター=共同)
 
実は、北朝鮮の対応はかなり弱気だ。米国のシリア攻撃直後には、外務省スポークスマン談話で米国を激しく非難し、「核武力強化は正しかった」と述べた。ところがその後は沈黙を守り、4月11日に10カ月ぶりに開かれた最高人民会議でも、米国非難はもとより日米韓三国に言及すらしなかった。
 
金日成主席生誕105周年の祝典を宣伝するため、北朝鮮は海外のテレビメディアと通信社を平壌に招いた。金委員長が、13日に行われた平壌目抜き通りの建設完成式典に登場し、海外のテレビ局に平穏な姿を報道させた。この式典で、朴奉珠(パク・ポンジュ)首相が脈絡のない演説で「(この建設完成は)何百発の核爆発よりも効果がある」と述べた。この言葉に、今回は核実験をしない北朝鮮の立場を米中に伝えたのではないかとの観測が出ている。
高層住宅団地の竣工式に到着した金正恩朝鮮労働党委員長(右)=4月13日、平壌(AP=共同)
高層住宅団地の竣工式に到着した金正恩朝鮮労働党委員長(右)=4月13日、平壌(AP=共同)
 
米国は単独攻撃の前に、在韓米軍兵士の家族を帰国させる必要がある。米国民の犠牲を避けるためだ。その動きがない限り、攻撃はない。

韓国もまたトランプ戦略に驚愕している。5月の大統領選で、当選確実と言われた左派の文在寅氏の支持率が急落し、中道左派の安哲秀氏に追いつかれている。文氏の陣営は混乱し政策の変更を行ったが、当選の見通しは一時より後退した。
 
トランプ大統領は朝鮮半島の危機を演出しながら、韓国の大統領代行とは電話会談もしない。韓国では「米大統領と話し合えない大統領は役に立たない」との空気が広がっている。
 
北朝鮮はどうするのか。米単独攻撃を阻止できる方策は、南北対話と米朝対話、日朝交渉しかない。米国の軍事攻撃が高まると、北朝鮮は過去にも対話戦略に切り替えた。今回も南北対話や米朝対話を模索するだろうが、韓国は次期大統領次第だ。米国は応じない。残るは日本だ。小泉純一郎首相との日朝首脳会談も、米大統領が「軍事攻撃を排除しない」と明言したから、実現した。

北朝鮮は、今年になって秘密警察の国家保衛省に対日担当の要員を増員し、新たな部局を設置した。これまでは2、3人しかいなかったのに、20人前後に拡大したという。かつての日朝首脳会談も、国家保衛省の担当だった。北朝鮮はトランプ大統領の単独軍事行動を避けるために、日朝首脳会談を模索せざるを得なくなる。 iRONNAより

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