2017年7月27日木曜日

ロシアは北朝鮮をどうしたいのか

金正恩の暴走がとまらない。

北朝鮮は7月4日、大陸間弾道ミサイル(ICBM)の発射実験を成功させた。北のICBMは、既にアラスカやハワイを攻撃することが可能といわれる。「あと5年もすると、北は米国全

土を核攻撃する能力を獲得する」と分析する専門家も多い。

ICBM発射は、「レッドライン」と思われていたが、米国は、事実上どうすることもできないでいる。日本、韓国と共に軍事的圧力を強めながら、北朝鮮貿易の90%を占める中国に「もっと圧力を」と要求するのが精一杯だ。

ところで、この地域のもう一つの「主要プレイヤー」であるはずのロシアの動きが見えてこない。剛腕プーチンは今、北朝鮮について、何を考えているのだろうか?
 
いまだ「戦争中」という世界観

北朝鮮の話をする前に、プーチンが今の世界とロシアをどのように見ているのかを、整理しておこう。

プーチンは、1952年生まれ。1975年にレニングラード大学を卒業し、KGBに入った。そして、1998年には、KGBの後継組織FSBの長官になっている。つまり、プーチンは、「諜報機関のトップまで昇りつめた男」なのだ。


「10月革命」65周年、1982年に撮影されたKGB本部 〔PHOTO〕gettyimages

そんなプーチンが生まれてから39年間存在していたソビエト連邦とは、どのような国だったのか?

ソ連は、1917年のロシア革命によって誕生した、マルクスの「共産主義」をベースにつくられた国だ。共産主義の世界観は、「悪い資本家が、世界を支配している。労働者は、資本家階級をぶちのめし、万民平等の世界をつくろう」というものだった。

ソ連は、「労働者の利益を代表する国」であり、主要な敵は、「資本主義の総本山」米国であった。

したがってソ連では、徹底した「反米教育」が行われた。CIAと戦うKGBの反米教育は、さらに厳しいものだっただろう。そんなわけで、プーチン及びロシアの指導層にとって、米国は「最大の敵」なのだ。

問題は、ソ連崩壊後だ。

ソ連が崩壊した後、ロシアの「米国観」は変わったのか? 残念ながら、あまり変わっていない。

ロシアの支配層によると、米国はソ連崩壊後、新生ロシアに“わざと”間違った経済改革を実施させた。本当に「わざと」かどうか、真相はわからない。しかし、新生ロシアが、米国やIMFの勧める経済改革を実施した結果、1992~98年、GDPが43%も減少してしまったことは事実である。

安全保障面を「ロシア側」から見ると、さらに危機感は深まる。

今ではほとんど忘れられてしまったが、冷戦時代、欧州には2つの軍事ブロックが存在していた。米国を中心とするNATOと、ソ連を中心とするワルシャワ条約機構だ。

当時、「米国・西欧」と「ソ連・東欧」は、きわどい均衡を保ちながら、対峙していた。西と東の境界は、東西に分断されたドイツだった。

しかし、1985年、ゴルバチョフがソ連の書記長になると、状況は変わっていく。

1989年、東西分断の象徴であった「ベルリンの壁」が崩壊。
1990年、東西ドイツが統一された。

これは当然、ソ連の許可なしには、成立し得なかった。

ゴルバチョフは、ドイツ統一を容認するにあたって、米国にある条件を出した。それは、「NATOを東方に拡大しないこと」である。

米国は、この提案を快諾。ゴルバチョフは満足し、翌1991年7月、ワルシャワ条約機構は解散となる。


握手するブッシュ大統領とゴルバチョフ書記長。1991年7月、モスクワにて〔PHOTO〕gettyimages

ところが、いざソ連が崩壊すると、米国はあっさりと約束を破ってしまった。NATOは1999年、東欧のポーランド、ハンガリー、チェコを加盟させた。

ロシアにとって、東欧は、かつての「実質支配地域」である。

さらに、NATOは2004年、東欧4か国と、バルト3国を加盟させた。

ロシアとって、旧ソ連のバルト3国がNATOに加わった衝撃は大きい。ロシアの支配層からみると、「かつて自国の一部だった地域が敵の手に落ちた」という認識だろう。

(ロシア側からみた)米国の「侵略」は、とどまるところを知らない。現在も、旧ソ連圏の隣国、ウクライナ、モルドバ、ジョージアなどをNATOに加えようと画策している。

このように、米国はソ連崩壊後、「反ロシア軍事ブロック」であるNATOの拡大を続けた。広大な国土の西側で、ロシアは現在、29ヵ国からなる「反ロシア軍事ブロック」と対峙しているのだ。
 
さて、ここまでの話に関連する、プーチンの言葉を紹介しよう(引用は、2014年3月18日の演説から)。

当時、何があったか? 2014年2月、ウクライナで革命があり、親欧米反ロ政権が誕生した。同年3月、ロシアはクリミアを併合し、世界を驚かせていた。

プーチンはこのとき、米国についてこう語っている(太線筆者)。

〈 我々は何度もだまされてきた。我々の見えないところで事が決められ、実行された。
例えばNATOの東方拡大やロシアの国境近くに軍事施設を設けることなどだ。彼らは同じことを繰り返してきた。

「それはあなた方に向けたものではありません」

信じられない。

(欧州)ミサイル防衛システムの展開もそうだ。我々にとっては脅威にもかかわらず、施設や装置は設置されている。〉


赤の広場で演説するプーチン大統領 〔PHOTO〕gettyimages

〈 我々は根拠を持って次のように推察する。

すなわちロシアを抑制しようとする悪名高い政策は、18世紀、19世紀、20世紀にわたって続いてきた。そして今も続いている。

我々は常に追い込まれている。〉

プーチンの、「生々しい」叫びである。

彼によると、米国は冷戦終結後も、「ロシアを抑制しようとする政策」を継続しており、ロシアは、「常に追い込まれている」のだ。

そう、彼の中では、ロシアと米国は、いまだに「戦争中」。しかも、「米国が攻め、ロシアが防戦している」という関係なのだ。ロシアの支配層は、このように世界を見ている。
 
「緩衝国家」としての北朝鮮

さて、これまで西側を見てきたが、にわかに緊張を増す東側に目をむけてみよう。

先述の通り、プーチンは、「米国は侵略政策を続けている」と考えている。そういう視点に立ってみると、日本のMDも、韓国のTHAADも全部、「対ロシア」に見えてしまうのだ。

ちなみにプーチンは、北方領土を日本に返せない理由の一つとして、「返還すれば、そこに米軍がやって来るから」としている。

そんな視点で北朝鮮を見ると、この国がロシアにとって、「米国の侵略を防ぐための重要な『緩衝国家』」になっていることがわかる。

確かにロシアは、「北朝鮮の核保有」には反対している。しかし、その反対の切実度は、日本、米国、韓国とは、比較にならないほど「軽い」ものだ。

なぜか? 北朝鮮がロシアを核攻撃することなどありえないからだ。

それではなぜ、ロシアは北の「核保有」に反対するのか?

もちろん、「核保有国グループの『寡占状態』を維持したい」とい意識もあるだろう(核拡散防止条約(NPT)によると、米国、英国、フランス、ロシア、中国が核兵器を保有するのは「合法」だが、その他の国は保有を「禁止」されている)。

しかし、より大きな理由は、「米国の同盟国である日本や韓国に、『核保有の口実』を与えない」ためであろう。

ロシアにとって、北朝鮮の核保有は、脅威ではない。しかし、米国の同盟国である日本や韓国の核保有は、「深刻な脅威」なのだ。

●北朝鮮は、米国の侵略を防いでくれる緩衝国家
●北朝鮮の核は、脅威ではない


この二つの事実から導かれる結論は、「北朝鮮は、現状のままでいい」である。結果、ロシアは、北朝鮮に関して、「二つの政策」を行う。

まずは、「米朝開戦に反対する」こと。

なぜか? 戦争になれば、米国の同盟国である韓国が、朝鮮半島を統一することになるかもしれない。それは、「緩衝国家」の消滅を意味し、ロシアの安全が脅かされる。だから、ロシアは、中国と共に「対話支持」なのだ。

もう一つは、「北朝鮮の現体制が崩壊しないよう支え続ける」ことだ。

現在、中国は、トランプ政権から対北朝鮮政策について強い圧力を受けている。そこで、プーチン・ロシアは、中国に代わって北への支援を増やしている。たとえば、石油の輸出を激増させている。
 
 《ロシア、今年の対北石油輸出が前年比200%以上増加=VOA》 WOW!Korea 7/11(火)11:14配信
アメリカの声(VOA)放送は11日、ロシア連邦税関資料を引用し、今年4月までのロシアの対北朝鮮石油輸出額が約230万ドル(約2億6000万円)を記録したと報道した。これは昨年同期(約74万ドル)より200%以上増えた金額だ
 
以上、「プーチンは今、北朝鮮をどう見ているか?」という問題について書いてきたが、要旨をまとめると、以下のようになる。

1)プーチンは、「ロシアと米国は戦争中」と認識している。
2)その証拠の一つは、米国が「反ロシア軍事ブロック」NATOを拡大させ続けていること。
3)ロシアにとって北朝鮮は、米国の侵略を防いでくれる重要な「緩衝国家」である。
4)そのため、ロシアは、「戦争反対!」「対話せよ!」と主張し続ける。
5)その一方で、ロシアは、北朝鮮への支援を継続していく。


ロシアの立場は、中国と共通するところが多い。そして、わがままな金正恩は、中国、ロシアという二つの大国から支援を受けている。だからこそ、「北朝鮮問題」は、米国にとって一筋縄ではいかないのである。  現代ビジネスより

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