2017年7月18日火曜日

「ニッポンは衰退しました」中国ネット上に危険信号

GDPが日本を追い抜き、国際経済や国際政治の場において明らかに日本よりも主要な地位を占めるようになった中国。近年は都市部でスマホを利用したキャッシュレス社会の進展や、「シェアサイクル」「シェア傘」などスマートシェアリング文化の普及が見られ、気の早い日本のメディアには「日本よりも進んでいる」といった論調の記事も見られるようになった。
そんな中国において、今年5月からネットQ&Aサイト大手『知乎』に下記のような質問が登場して話題を集めた。日本人としてはツッコミどころもなくはない内容だが、下記に翻訳して引用しよう。
【タイトル】
日本は本当に三流国家に落ちぶれたのか?

【本文】
「現在の世界で一流国はアメリカしかなく、二流国は中・露・仏・英・独であり、往年は強大だった日本はいまや三流国と言うしかない。露・仏・英はいずれも政治大国であり核保有国、ドイツはEUのリーダーで経済力があり政治も悪くない」「いっぽうで日本は、核もろくに開発できない。政治においては小国にすぎないと言うしかない。周辺国とも協調できない。(略)」「他の二流国がロシアに対する態度を見ても(日本が二流の水準にも達していないことが)分かる。英仏独はいずれもロシアに厳しい姿勢だが、日本はそれができないではないか」と、先生が言っていました。日本は五大国やドイツと比べて本当にそんなに弱いのでしょうか? 
Q&Aサイトに回答を投稿した共青団中央のアカウント。日本で言えば自民党青年部の公式アカウントが『Yahoo! 知恵袋』に回答をよせるようなものだろうか。拡大画像表示
中国共産党の青年組織「共青団中央」が本気で回答

これだけならネット上に浮かんでは消えるつまらない投稿だ。しかし、ここで注目すべきは、なんと上記の質問に対して中国共産党傘下の青年組織「共青団中央」の公式アカウントが6月26日付けで長文の回答を投稿したことである。
この回答は今月初めから『中国網』『新華網』など政府系通信社のウェブ版記事にも要約版が盛んに転載されており、中国当局の「準・公式見解」だと考えてもいい。その冒頭はこんな一文ではじまる(太字は原文ママ、以下同じ)。

<お答えします。サイトのルールにしたがって先に結論を書きましょう。日本はさまざまな問題に直面しており、また(私たち中国からは日本の)前途はとても危ういように見えますが、しかし日本がすでに「三流国」に落ちぶれた状態にあるとはさらさら言えません。>
 
なんだか引っかかる言い方だが、そういうことらしい。共青団中央は引き続き、日本を三流国であると断じた質問者の投稿内容を「中国国内の若者の間ではかなり受け入れられている意見だろうが」と書いた上で、「根本的にありえない」と否定する。その後、共青団中央は国家の一流・二流は軍事力や政治力のみで判断すべきではないと主張。日本でささまざまな問題を起こしている在日米軍の駐留を許している日本は「正常な国家と言うには程遠い」とクサしつつも以下のように述べていく。

<しかし、現代の日本は本当になにひとつ取り柄のない国家なのでしょうか?

日本の1人あたりGDPは3万2480ドルで世界25位、日本の可処分所得は平均換算で8万6000人民元に相当する(ママ)ほか、平均寿命や新生児死亡率の数字から日本を見てください(略)。

もちろん、一部の中国人が言う「日本人は民度が高い」などといったあいまいな噂を真面目に取り合うべきではありません。日本がこれまで多くのノーベル賞受賞者を出してきたという話についても、目下の中国の科学技術分野の爆発的な発展からすればそう遠くない未来に中国は日本に追いつくでしょう。言うまでもなく、どこかの誰かがプレゼンしているハイテクと「日本第一」(の科学力)といった話は相手にする必要もありません。ただ、一般市民の生活レベルを示すありのままの数字を虚心に見たうえで、私たちが現代の日本を本当に「三流国」と呼んで大丈夫なのか自分の心に聞いてみてほしいのです。>

文章は引き続き、「中華民族の偉大なる復興の道を前進する」中国の「偉大なる成果」について説明していく。こんにち、中国のGDPが世界2位に位置していること、中国製品が世界で用いられ、世界一の高速鉄道の輸出国となっていること、といった話である。ここから先がいよいよ結論部分だ。
日本は「前途の希望がまったくない」国

<しかし、それ(=現在の成果)だけでよしとすべきなのでしょうか?

私たち中国人の1人あたりGDPと可処分所得は、中堅先進国の水準にまで届いているでしょうか。

私たちはまだ祖国統一の大業を完成しておらず、中華民族の偉大なる復興の道もまだ半ばにも達していません。「ふたつの百年」(※)の偉大なる目標にもまだ達していません。このようなときに、私たちは成功にあぐらをかいて惰眠をむさぼっていてよいものでしょうか? 経済も生活レベルも中国以上である世界第3位の経済大国である日本を「三流国」として軽々しくバカにしていてよいものでしょうか?

(※)ここでいう「ふたつの百年」とは、中国共産党成立100年の2021年まで国内総生産(GDP)と都市・農村部住民の所得を2010年比で倍増させること、中華人民共和国が成立100年を迎える2049年までに「社会主義現代国家の建設を達成」して中等先進国の水準に達することを掲げた、共産党政権の目標である。

少子化、高齢化、経済の停滞、在日米軍の駐留、右翼勢力(の活発化)など。日本は確かにさまざまな問題に直面しており、相対的に言って、私たち中国から見れば間違いなく「前途の希望がまったくない(国)」です。しかし、日本がそうであるからといって、これを私たちが自惚れていい気になる理由にしてよいものでしょうか?
 
愛国とは、自信満々になって「私、中国人でよかった」などとネット上で喚き、瞬間的な気持ちよさを覚えることだけではありません。私たちはこの土地に生まれた誇りを持ち、みずからが進む道への自信を持たねばならないことは確かでしょう。しかし、私たちのこの国、この土地への愛は、地に足の着いた弛まぬ努力を通じてこそ体現されなくてはなりません。あらゆる若い人たちが、常に冷静な心を持ち、まずは自分から、いまこの瞬間から、この国家をさらに少しでも美しくよいものにするため努力することを望みたいところです。

あらゆる愛国者のみなさん、ともに頑張っていきましょう。>


中国共産党内における共青団系の派閥は、その大親分であった1980年代の胡耀邦の時代以来、日本に対して比較的好意的で知日派も多いことで知られる。共青団は現在政権を握る習近平との折り合いも悪い。
共青団中央が今回、ネット上の愛国者に冷や水をかけるような文章を発表したのは、習近平政権が推し進める過度の愛国アピールに釘を刺す意図もあるのだろう。投稿の真意は、日本の国情を論じることにあるのではなく、中国国内の政治的な駆け引きにあるという意地悪な見方も可能である(事実、『新華網』など政府系メディアに転載された本文の要約版では、原文に記されていた日本についての具体的な話はほとんど削ぎ落とされ、中国人の心構えを説く部分ばかりがピックアップされている)。

45年ぶりに変化しつつある日本観

ただ、それでも読み取れることはある。現代の中国では従来のような「反日」ではなく、長年の停滞が続く日本をあざ笑う「侮日」の風潮がネット世論の一部で生まれはじめている点。また、そんな中国人の油断に警鐘を鳴らしたい共青団ですらも、国内の愛国者たちを説得するにあたって、日本に「前途の希望がない」(原文は「前途無亮」)ことを前提とした論理を当たり前のように用いている点などだ。

なにより今回の投稿文で衝撃的なのは、従来の中国人が日本を肯定的に論じる際に必ず口にしてきた「日本人は礼儀正しい」「日本の科学技術は先進的だ」「日本のものづくりはすごい」といった、漠然としたリスペクトがばっさり切り捨てられている点だろう。

1972年の日中国交正常化以来、中国人の日本へのイメージは、過去の戦争被害への憎しみと、アジア随一の経済力や科学技術の発展を実現させた先進国への羨望と、という愛憎入り交じるものだったのだが、それが本質的に変質し始めているようにも見える。
 
他にも、近年は中国国内のコラム記事の見出しや質問サイトなどで、日本の停滞を指摘する意見が見られることが少なくない。一例を紹介しておきたい。
 
もちろん、本稿冒頭で紹介した『知乎』の質問をはじめ、こうした投稿には「日本はまだまだ先進国だ」といった冷静な意見も数多く寄せられている。少なくとも現時点で、多数の中国人が日本を「中国以下の国」だと考えているとは言えないだろう。ただし中国は変化のスピードが極端に早い国なので、3年後や5年後に世論がどう変わるかは分からない。

かつてバブル期の日本でも、やがて日本がアメリカを追い抜くかのような威勢のいい意見が一世を風靡したことがある。現代の中国に生まれ始めた「侮日」論や「嘲日」論が、成金国家の人たちの一時的な身のほど知らずの勘違いに過ぎないのか、それとも今後の中国社会の新たなトレンドになっていくのか? 未来を想像するのがちょっと怖い気もしてくる話である。 ビジネス・ジャーナルより

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