2017年7月8日土曜日

カリブ海にぽっかり「青い穴」

 
      カリブ海にぽっかり開いた世界遺産のブルーホール
 
ライトブルーの海にくっきりと描かれた濃紺の円。なぜこれほどきれいな円が海の真ん中に突然現れるのか、見れば見るほど不思議な気分になる。中米の小国ベリーズの近海になる「グレート・ブルーホール」。カリブ海の宝石、怪物の寝床。この円の呼び名はいくつかあるが、楽しみ方もいろいろある。小型飛行機で遊覧するもよし、ダイビングやシュノーケリングで体感するもよし。あまり日本人にはなじみがないが、ベリーズは今、リゾート開発が徐々に進み、観光客が増えつつある注目のスポットだ。この夏おすすめのベリーズの旅を紹介しよう。
 
 
ベリーズはメキシコの東側にあり、人口は35.9万人。国土は四国より少し大きいくらいだ。平均気温は1年を通して20度を下回らず、夏でも最高気温は30度前後と過ごしやすい。いわゆる常夏の国だ。成田から米国経由で14時間半ほどかけてベリーズ最大の都市・ベリーズシティに降り立つと、むわっとした空気に包まれた。湿度は常に85%前後あるらしい。
 
近海はダイビングスポットとして有名だ。世界第2位のサンゴ礁があり、「バリア・リーフ保護区」は世界遺産になっている。ブルーホールはその保護区の中にある。
 
「泳ぐのもいいですが、小型飛行機での遊覧も人気ですよ」。現地を案内してくれたベリーズコンシェルジュエキセレント代表のソリス麻子さんが教えてくれた。ブルーホールはベリーズから約100キロメートル東の沖にあり、飛行時間は1時間ほどだという。確かに上から見たほうが丸さがよく分かりそうだ。まずは遊覧飛行を体験した。
 
バリアリーフに停泊する漁船。複数の小舟に乗り換え、ロブスターなどを捕る
 
6人乗りの飛行機はベリーズシティの空港を出発した。プロペラの爆音に包まれながら離陸すると、すぐに美しい景色が広がった。エメラルドブルーやコバルトブルーが入り交じる海と、ところどころにサンゴ礁の小島も見える。
 
20分ほど飛ぶと、現地パイロットのチャールズ・ウェルチさんが海の一点を指さした。下を見ると、海の中にひょこっと濃紺の円がある。ブルーホールだ。ウェルチさんが親指を立ててこちらに笑顔を向けた。爆音で聞こえないが「どうだい、すごいだろう?」と言っているような笑顔だ。
 
ブルーホールは約1万年以上前、海上に隆起したサンゴの死骸などでできた石灰岩層の陸地のうち、中心部が地下水などに浸食されて陥没し、その後、海面上昇で陸地が海の中に沈んだことでできたとされる。穴の深さは約130メートル、直径は約300メートルだという。
 
ブルーホールの奥の白い部分がバリアリーフの端
 
上から見ると本当にまんまるだ。周囲を白いサンゴ礁が縁取っていて、まるで誰かに見せるためにケースをしつらえた宝石のようにも見える。自然の神秘に感動せずにはいられない。近くにはバリアリーフにぶつかった白波の線が果てしなく延び、ブルーホールの濃紺、海の水色、波の白色が美しいコントラストを描いていた。ウェルチさんは10分ほど上空を旋回してくれた。
 
上から見た後はやはり実際に泳いでみたい。ブルーホールへのルートはいくつかあるが、ベリーズシティからボートで向かった。外海に出ると高い波でかなりボートが弾む。船酔いはしなかったが、波に乗り上げて海にたたきつけられる衝撃がつらい。衝撃に耐えること約3時間でブルーホールに到着。シュノーケリングの道具を身につけ、海に飛び込んだ。
 
海中は周囲のサンゴ礁から中心に向かって海底が落ち込むすり鉢のような形で、中心部は深い穴になっていた。この穴がブルーホールなのだが、中は真っ暗で水面付近からは全く見通せない。ふいに「怪物の寝床」という呼び名が頭をよぎった。穴の中から突然、化け物みたいな魚やイカが出てくる絵を想像とすると少しぞっとした。
 
ベリーズ観光局によると2016年の観光宿泊客は38.5万人で、この20年で最多になった。美しい自然が目当ての観光客はもともと来ていたが、現在は北部のサン・ペドロなどでリゾートの開発が進んでいることも影響しているようだ。
 
サン・ペドロの街をゴルフカートで移動する観光客
 
サン・ペドロに渡ってみた。ベリーズシティから国内線で30分ほど。島内は商店が立ち並び、観光客が乗ったゴルフカートが所狭しと走り回っている。未舗装の道路が多い本土に比べ、かなり観光地化されていた。別荘やプライベートビーチも多く、客室が205あるホテルやヴィラを備えた「マホガニーベイビレッジ」というリゾートも開発されていた。
 
レストランも多い。昼食に「レインズ」という店で名物のロブスターを食べた。日本のエビに似た風味だがエビ特有の臭みは全くなく、肉厚でとても心地よい歯応えだ。
 
名物のロブスター(サン・ペドロ)
 
現地で1人の日本人に出会った。すし職人の辻本俊也さんで、マホガニーベイですしバーを開こうとしている。「ベリーズ北部にあるメキシコ・カンクンが最近寂れていて、次はベリーズに観光客が集まるとみています。それなら先回りして店を出そうと思いました」。辻本さんは出店理由をそう話してくれた。米カリフォルニアや欧州ですし職人として働き、ベリーズでも「欧米人の観光客の需要がある」とみているそうだ。
 
もう一つ、ベリーズの観光で欠かせないのが古代マヤ文明の史跡だ。マヤ文明はメキシコやグアテマラなどにまたがって紀元前から16世紀ごろまで繁栄したが、ベリーズにもいくつか遺跡がある。その中でも特に「秘境中の秘境にあるおすすめ」(ソリスさん)なのが同国西部にあるアクトゥン・チュニチル・ムクナル(ATM)遺跡である。
 
マヤ人が雨乞いの儀式に使ったとされる洞窟遺跡で、最奥にはいけにえになった子どもの骨が今も安置されている。ベリーズシティから洞窟の手前にある広場に着くまでには車で約3時間(うち約1時間は未舗装のデコボコ道)かかるのだが、そこからがまさに「冒険」だ。広場で最大8人の観光客とガイド1人のチームを作ったうえで、幅10メートルほどの川を泳いだり、ヘッドライトをつけて真っ暗な洞窟の中を進んだり数メートルの崖を登ったりする。映画「インディ・ジョーンズ」のような気分が味わえる。
 
古代マヤ文明時代から果汁を飲んでいたとされるカカオの実
 
洞窟内は写真撮影が禁止されている。ガイドのジャミエール・チュニゴさんは「以前、観光客がカメラを落として頭蓋骨を割ってしまったんだよ」と足元の穴の開いた人骨を見ながら説明した。そんなことがあったにもかかわらず、以前とほぼ変わりなく当時の状態を見ることができるとても貴重な遺跡だ。
 
マヤ文明は16世紀のスペイン人の入植を境に滅んだが、マヤの人々は今もいる。ベリーズ人の約1割はマヤ人だ。ソリスさんの案内で300~350人が暮らすマヤの村にも立ち寄った。取材に協力してくれたエローディア・ラッシュさんの家は屋根はコフンという細長い葉で作られ、壁は板、床は土間になっていた。鶏が放し飼いにされ、昔の日本の家のようなのどかな雰囲気だ。
 
カカオ豆をすりつぶして作るカカオドリンク
 
ラッシュさんは祖父の代からの農園でカカオを生産している。「結婚式などめでたい席で飲む」というカカオをすりつぶしてお湯で溶かし、ブラックペッパーなどを入れた「カカオドリンク」を飲ませてくれた。カカオはマヤ文明当時も飲んでいたとされる。飲むと体が芯からぽかぽかと温まってきた。
 
村まで案内してくれたマヤ人のアネリタ・ガルシアさんは「マヤの文化を知ってほしい」とマヤ村の観光に積極的に協力していると話してくれた。マヤにもいろんな部族があり、ラッシュさんの祖父母の代くらいまで部族同士の結婚すら許されなかったそうだが、今の若者は学校にも通うそうで、ガルシアさんのように社交的な人もいる。マヤという言葉には歴史的な響きを感じるが、現在を生きている姿を見て何とも不思議な気分になった。
 
少し野性的で自然と古代文明の神秘が味わえるベリーズ。この夏に出かけてみてはどうだろうか。
 
ベリーズ旅行の豆知識
ベリーズに行くには成田から米ダラス行きの飛行機で約11時間半、ベリーズシティ行きに乗り換えて約3時間。5~10月は雨期、11月~翌年4月は乾期にあたる。9、10月はハリケーンが多いので注意。ブルーホールなど海に出る場合は日差しが強烈なので日焼け対策は念入りに。「対策しないと皮膚が腫れ上がって病院に行くことになります」(ソリスさん)。通貨はベリーズドル(1ベリーズドル=0.5米ドルの固定レート)だが米ドルも使える。公用語は英語。1981年に独立するまで英国の植民地だった。今はコモンウェルス(英連邦加盟国・地域)の一員で、国家元首は英エリザベス女王となっている。人口の49%が先住民と欧州系の祖先を持つメスティソで、外務省によると日本人も52人いる。 
トラベルより

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