研究成果のポイント
・1400℃という超高温度まで高強度を維持する、これまでにない新材料を創成
・これまで、特定方向で強度、靱性が大きく低下することが課題だったが、Cr(クロム)とIr(イリジウム)という元素を微量添加することで、多方向への高強度化を可能とした
・火力発電所、ジェットエンジン等で使用されるタービンブレード用材料として適応することで大幅に熱効率を上昇、環境へのC02排出量の大幅削減に期待
概要
大阪大学大学院工学研究科の萩原幸司准教授、中野貴由教授らの研究グループは、1400℃以上の超高温での使用に耐えるタービンブレード用材料として開発中の、遷移金属とシリコンを組み合わせた遷移金属シリサイド※1であるNbSi2(ニオブダイシリサイド)/MoSi2(モリブデンダイシリサイド)を組み合わせた複相シリサイド合金について、実用化における大きな問題点であった室温靱性(靱性:割れにくさの尺度)、ならびに高温強度(クリープ強度※2)の同時向上を、Cr(クロム)とIr(イリジウム)という元素の微量添加により世界で初めて実現しました。
これまで複相シリサイド合金は、C40-NbSi2、C11b-MoSi2相※3が板状にそれぞれ交互に並んだラメラ組織※4を有しており、優れた力学特性を示すものの、両相の界面がずれる方向などの特定の方向に力が負荷された際に、強度、靱性が低い値を示すことが、実用化に向けた大きな問題となっていました。
今回、萩原幸司准教授、中野貴由教授らの研究グループは、この複相シリサイド合金にCrとIrの2つの元素をそれぞれ0.5at.%※5という微量を同時添加することにより、ラメラ組織に加え、図1に示すような特徴的な「格子ラメラ組織(図1)※6」を発達させることに世界で初めて成功しました。この材料の力学特性を評価したところ、従来の複相シリサイド合金で見られた優れた力学特性を保持しつつ、かつ特定方向への強度・靱性低下を同時に抑制可能であることを初めて見出しました。
本材料は、1400℃という超高温度まで高強度を維持する、これまでにない新材料であり、飛行機ジェットエンジンのタービンブレード等にて現在使用されている耐熱合金であるNi(ニッケル)基超合金(耐容温度~1100℃)と置き換えることにより、大幅な熱効率の上昇を通じ、環境へのC02排出量の大幅削減を実現することが期待されます。
本研究成果は、英国科学誌「Scientific Reports」に、6月21日(水)18時(日本時間)に公開されました。
図1 NbSi2/MoSi2複相シリサイド合金に、Cr、Irを微量添加することで発達する特徴的な「格子ラメラ組織」(上図)と模式図(下図)
研究の背景
近年、エネルギー問題や地球温暖化抑制に向けたCO2排出量低減のために、発電所等にて1400℃以上での高温使用に耐え得る超高温構造材料の開発が早急に求められています。というのも、国内で排出するCO2の約30%が火力発電所に由来することを考慮すれば、発電用タービンエンジンなど燃焼システムの熱効率を1%向上させるだけでも、温室効果ガスの排出削減に対して非常に大きな効果が得られます。この実現のため、萩原准教授、中野教授らの研究グループは、軽量、高融点を有する遷移金属シリサイドであるNbSi2とMoSi2を組み合わせた「複相シリサイド合金」を2000年初頭に開発し、その研究開発を進めています。従来の複相シリサイド合金は、NbSi2とMoSi2両相が板状の形状を有し、それらが交互に積み重なった「ラメラ組織」を有しています。このラメラ組織に由来し、結晶方位の制御により、特定方向に延性(加工が可能な特性)を保持しつつ、かつ高い高温強度を示すという優れた特性を示すことから、次世代超高温構造材料の候補材として注目されています。
しかしながらこの「ラメラ組織」は、確かに各板状結晶粒と平行方向に荷重が負荷された際には高強度を示すものの、例えば各板状結晶粒が45度傾いた方向から荷重が負荷された際には、その界面に平行に変形が生じることにより、高温での強度(クリープ強度)が大きく低下します。またさらに、ひとたび界面に平行に割れ(crack)が生じた際には、即座に破壊に至るという実用化に向けた大きな問題点がありました。
研究の成果
萩原准教授らの研究グループは今回、Crと(クロム)とIr(イリジウム)元素の同時添加を提案しました。これまでの研究で、Crを添加することにより、両相の界面にCrが偏析する(界面にCr原子が集まる)ことでラメラ組織の安定化、高温強度上昇を実現し、また一方でIrを添加することによりラメラ組織を細かくすることで、室温靱性(靱性:割れにくさの尺度)の上昇を実現しました。しかし、両特性の同時向上はこれまで不可能でした。本研究においてこのIrとCrを同時に添加し、高温でのラメラ組織発達化熱処理を施したところ、両者の相互作用として、先の図1に示すような特徴的な「格子ラメラ組織」が形成されることを世界で初めて見出しました。本組織を発達させることにより、多方位で優れた力学特性を示す材料の創製に世界で初めて成功しました。
本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)
火力発電所のタービンブレード使用温度の向上は、熱効率を上昇させることで排出CO2量削減を実現するための非常に有効な方策です。今回の新材料開発により大幅な熱効率の上昇が実現されることは、低炭素社会の実現に向けた重要な一歩となります。
特記事項
本研究成果は、2017年6月21日 (水)18時(日本時間)に英国科学誌「Scientific Reports」(オンライン,nature publishing)に掲載されました。
タイトル:”Outstanding compressive creep strength in Cr/Ir-codoped (Mo0.85Nb0.15)Si2 crystals with the uniquecross-lamellar microstructure”
著者名:Koji Hagihara, Takaaki Ikenishi, Haruka Araki, Takayoshi Nakano
なお、本研究は、科学技術振興機構(JST)プロジェクト「先端的低炭素化技術開発(ALCA)」におけるプロジェクト「界面機能化に基づくMoSi2基Brittle/Brittle複相単結晶超耐熱材料の開発」、ならびに、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)SIPプロジェクト「革新的設計生産技術」の支援のもとで実施されました。
用語説明
※1 遷移金属シリサイド
元素周期表の第3族から11族に位置する遷移金属とSi(ケイ素)との化合物の総称。例えばMoSi2は高温ヒーター材料(カンタルスーパー)として現在も広く用いられている。一部の遷移金属シリサイドはSiの存在により、高温にさらされた際にSiO2保護被膜を形成するため高温耐酸化性に優れ、また軽量、高融点を有することから、高温構造材料としての適応が強く期待されている。
※2 クリープ強度
通常の状態では、金属材料に降伏応力(塑性変形が開始する応力)以下の応力を負荷しても、材料は変形しない。しかし高温下においては、物体に一定の応力を加え続けると、時間とともに物体がじわじわと変形していく。これをクリープ変形と呼び、高温構造材料としての使用を考える際には単純な高温強度に加え、このクリープ変形に対する抵抗(クリープ強度)の向上が重要である。
※3 C40-NbSi2、C11b-MoSi2相
C40、C11bとはそれぞれNbSi2(ニオブダイシリサイド)、MoSi2(モリブデンダイシリサイド)が示す原子配列(結晶構造)を示す科学用語(図2)。一見すると両者は互いに全く異なる結晶構造を持っているように見える。しかし、図中色を付けた原子面をみると、その面上だけでは互いに原子配列が似ていることがわかる。この結晶構造の類似性に着目し特定の処理を施すことで、「ラメラ組織」をもった複相シリサイド合金を開発した。
※4 ラメラ組織
NbSi2とMoSi2相が板状に互い違いに自発的に配列した構造(図3)。2000年初頭に中野教授らの研究グループにより、(Mo0.85Nb0.15)Si2合金(at.%※5)にて、その制御法を確立した。上述の化学組成を有する合金中では図3に示すように二相の界面は模式的に示したほど理想的に平滑でないが、これにCrを微量添加することで、両相がよりきれいに配列した完全な平滑ラメラ組織をとり、この結果ラメラ界面と平行に荷重を負荷した際に、より優れた高温力学特性を示すことをこれまでに見出した。
※5 at.%
アトミックパーセント、原子%。今回実施したCr、Irの0.5at.%添加とは、従来の(Mo0.85Nb0.15)Si2合金中の原子1000個のうちの5個ずつを各元素で入れ替えたことを示す。
※6 格子ラメラ組織
上述の(Mo0.85Nb0.15)Si2合金に0.5at.%ずつのCr、Irを同時添加した合金に対し、高温でのラメラ組織発達化熱処理を施したところ、本文図1に示すような、特異な「格子ラメラ組織」を発達させることに世界で初めて成功した。走査型・透過型電子顕微鏡を用い様々な方向から観察を行うことにより、格子ラメラ組織中では、ラメラ界面に対し直交方向に、横串のように棒状のC11b相が自発的に配列する特異な組織構造が発達していることが確認された。
図2 NbSi2、MoSi2が示すC40、C11b構造
図3 従来の(Mo0.85Nb0.15)Si2二相合金にて見られるラメラ組織
研究者のコメント
本材料の開発は、我々がこれからも継続的に地球に優しく豊かな生活を営む上で必要不可欠な、CO2排出量削減という、環境対策として最も重要な部分に貢献できるものと期待しています。
また、私個人の夢を語りますと、本材料開発が、我々が子供のころから持っていた「宇宙旅行の実現」に少しでもつながれば、と夢見ています。本材料の使用により、通常の飛行機のように、何度も宇宙を行ったり来たり出来るロケット(宇宙往還機)ができれば、海外旅行と同じ感覚で宇宙旅行できる時代がいつか来ると期待しており、それが私が元気に生きている間に実現すればいいな、と思っています。
参考URL
大阪大学大学院 工学研究科 知能・機能創成工学専攻 高機能構造材料創生研究室http://www.hfs.ams.eng.osaka-u.ac.jp/
ぼちぼちと生きているので、焦らず、急がず、迷わず、自分の時計で生きていく、「ぼちぼち、やろか」というタイトルにしました。 記載事項は、個人の出来事や経験、本の感想、個人的に感じたことなど、また、インターネットや新聞等で気になるニュースなどからも引用させていただいています。判断は自己責任でお願いします。
2017年7月4日火曜日
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