国際通貨になるための条件
中国が人民元の国際通貨化を意気込んでいる。が、なにかと問題を抱える国である。人民元は国際通貨たり得るのか、そもそも国際通貨になるとはなにを意味するのか。
国際為替市場では、中心に取り扱われる通貨のことをキーカレンシー(基軸通貨)と呼ぶ。どの通貨が基軸通貨になるかは、その国の置かれている環境に依拠する。多くの人が取引に使うのであるから、その国が「大国」でなければいけない。
「大国」とは、軍事的にも経済的にも、である。軍事的大国とは、戦争があっても国がなくならないという意味だ。実際、世界で戦争があるかもしれないと思っただけで、人々はドルなら安全だとして、取引をする。
一方で、経済的大国とは、経済活動が盛んということで、まずはGDPの大きさで測れる。GDPが大きければ、貿易取引も大きくなり、基軸通貨を決済手段として使うことができる。
また、GDPが大きいと、実物経済を支える為替市場、金融資本市場も大規模になっているはずである。そうした金融資本市場が存在することはまた、基軸通貨の条件。そうした金融資本市場があるからこそ、安心して基軸通貨を保有しようとするわけだ。
なお、経済的な大国になるには、自由な貿易取引と自由な資本移動が必要だ。自由な取引が確保されないと、基軸通貨を持つインセンティブはなくなるからだ。
こうした軍事的・経済的な大国の通貨であれば、当然その価値は安定しているので、ますます基軸通貨としての地位は不動のものになる。
中国はすでに「大国」だが
さて、中国は軍事的にはもうすでに大国である。かつてのソ連に代わって、アメリカに次ぐ2番目の軍事大国であろう。
では経済的な大国かどうか。まずGDPはアメリカの次で、これも2番目である。それに伴って輸出と輸入を合わせた貿易量は世界一である。また、中国の株式市場は、上海、深圳を合わせれば、アメリカに次いで世界2位である。
こうした「量的」な項目を見る限り、中国はすでに大国の要件を満たしているが、経済的な大国にはどのように逆立ちしてもなれそうにない点もある。それは「質的」な面、要は自由な取引の確保である。特に、金融面では取引の自由度はまったく確保されていない。
例えば、為替制度について、先進国は完全な自由相場の変動相場制になっているが、中国では管理相場だ。8月中旬に、中国は人民元を切り下げたが、これは中国当局が為替を管理しているから「切り下げ」となった。変動相場制ならば政府の意図とは別に「相場が下がる」だけだ。
金融資本市場の金利や業務自由化もまったくできていない。巨大な株式市場はあるが、政府による管理相場である。さらに、内外の資本移動も政府によって管理されており、その自由度はない。
これから中国経済が発展していけば自ずと自由化されるという楽観論もあるが、中国の共産党による一党独裁体制では、政治的自由と表裏一体の経済的自由は達成できないだろう。資本移動・為替・金融市場の自由化は、一党独裁体制を揺るがす可能性があるからだ。
中国は民主化されない限り、真の意味での大国にはなれない。この意味で、人民元の国際通貨化は幻想である。
『週刊現代』
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