未知の深海底
この大会は月面探査レースを開催したことでも知られる米国の非営利組織「Xプライズ財団」が主催。賞金総額700万ドル(約8億円)を懸け、無人ロボットで深海底の地形図を作製する技術を競う。
それに比べ、深海の大部分では詳しい地図が作製されておらず、千メートルの粗さでしか分からない場所もある。資源探査や大陸間の通信ケーブル設置、地殻変動の研究などで詳細な海底地形図を求める声が高まっており、競技を通じて技術革新を後押しする。
欧米など世界から32チームが参戦する中、日本の「チーム・クロシオ」は書類審査と、基本的な技術を評価する予選を突破し、決勝に臨む8チームに残った。海洋研究開発機構を中心に大学や企業など8機関から約30人が結集し、それぞれが本業で培った得意技術を生かす。
短時間で広範囲
海底探査には、人が乗り込んで操縦する有人潜水艇や、船上から遠隔操作する有線の水中ロボットのほか、あらかじめ設定したプログラムに沿って自動的に行動する自律型ロボットを使う方法などがある。
そこで大会では、人は海に行かず、ロボットが自律的に探査するルールを採用し、コスト低減と高速化の技術目標に挑む。チーム・クロシオ共同代表の大木健氏は「海という予測不能な自然を、人間は何千年も相手にしてきた。これを機械に置き換える非常に難しい競技だ」と話す。
競技では最低でも水平方向で5メートル、垂直方向で50センチの細かさで、250平方キロ以上の海底地形図を24時間以内に作る。日本の海底探査は主に鉱物資源を探すため限られた範囲を細かく見る技術を開発してきた。それと比べると精度は低いが、かなり広い範囲を素早く調べることが求められる。
原油やガスの探査を念頭に置いているためで、こうした方向性が次世代の海底開発の主軸となる可能性もあり、日本の国際競争力を向上させる点でも大会に参加する意義は大きい。
チーム・クロシオの戦略はこうだ。海洋機構と東京大が開発した魚雷のような形の自律型ロボット2台を使い、海底に音波を発射して地形を探る。これらを調査海域まで運んで監視し、通信の中継を担う洋上中継器も無人で動く。通信衛星を介して、人は陸からロボットを見守る。
通信技術に強いKDDI総合研究所、海底探査機の運用で知見を蓄積する日本海洋事業(神奈川県横須賀市)、国際レース参加のノウハウを持つヤマハ発動機などが手を組んだ総合力が日本チームの強みだ。
決勝は11~12月にギリシャ南部カラマタ沖でチームごとに行われ、来年3月に結果が発表される。クロシオは12月中旬に出番を迎える。「カラマタ沖は起伏の激しい地形で流れが激しく、ロボットの電力を消耗しやすい。省エネルギーで動ける探査ルートの検討を進めている」(大木氏)。地中海は日本近海に比べて塩分濃度が高いため、ロボットの浮力調整も必要だ。
目指すのは優勝だが、チームにとって大会は挑戦の始まりに過ぎない。リーダーの中谷武志氏は「ロボットが全自動で調査し、すぐデータが納品されるような将来像を描いている」と語る。注文すると即日で商品が届くネットショッピングのように、手軽でスピード感のある海底探査の実現を目指す。産経ニュースより
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