火星15の発射についても、トランプ政権が8年ぶりに北朝鮮をテロ支援国家に再指定したことに対する反発との見方が出ているが、それは誤りであろう。トランプ政権が北朝鮮をテロ支援国家に再指定したのは、象徴的な動きではあるが、米国がさらに中国企業などへの独自の二次的制裁を強化し、他国にも同様の措置を求める目的がある。だが、北朝鮮は米本土を核攻撃できるICBM能力を手に入れることを当面の目標としており、どのような圧力にも屈せず、対話にも応じる見込みはない。トランプ大統領の強硬な発言や、テロ支援国家への再指定があろうとなかろうと、より信頼性のある核攻撃能力を獲得するため、粛々と技術開発を継続するだけであることが改めて確認されただけである。
ホワイトハウス内では強硬派が勢いを増している
トランプ大統領は、アジア歴訪に当たって北朝鮮に対する圧力の強化を地域各国に訴えた。特に、中国では習近平主席に北朝鮮への圧力強化を強く働きかけた。ホワイトハウス内では、中国が北朝鮮に対して効果的な影響力を行使することを期待する声はほとんど失われたが、訪中前にトランプ大統領自身はまだ諦めていなかった。トランプ大統領訪中後、習主席は特使を北朝鮮に派遣したが、金正恩委員長に会えず、核ミサイル開発をめぐって丁々発止のやり取りが繰り広げられたと伝えられている。これによってトランプ大統領自身も、習主席への期待を考え直すきっかけになるかもしれない。
また、ホワイトハウス内では、北朝鮮との対話についても否定的な考えが根強い。北朝鮮が米国との対話に関心を示していないため、外交を担当する米国務省は圧力の先にある対話をどのように構築するか難しい課題に直面している。国務省のユン北朝鮮担当特別代表は、「60日間挑発行為を自制することが米朝対話の条件になり得る」という考えを非公開の場で示していたことが報道された。しかし、ホワイトハウス関係者は、これは政権の意向を全く反映していないと言う。
代わりに、ホワイトハウス内では、強硬派が勢いを増しているとみられる。その代表格はポンペオCIA長官で、北朝鮮が来年にもICBM能力を完成させると見込まれる中「やるなら早いほうがいい」と主張していると伝えられている。その他の関係者も、軍事的衝突が近づいていると声をそろえる。対話を重視する発言を繰り返しながら実現できていないティラソン国務長官の辞任が近いと噂されているが、その後任の最右翼はポンペオ長官である。仮に強硬派の国務長官が誕生すれば、一気にホワイトハウスが攻撃モードに移る可能性も否定できない。10月の解散総選挙前後に、安倍首相や小野寺防衛相が、年末にかけて北朝鮮をめぐる緊張が高まる可能性を指摘していたが、このようなホワイトハウス内の動きを把握していたのかもしれない。
武力行使の可能性高まるも、課題は残ったまま
1つの注目点は、クリスマス前後における在韓米軍の家族の動きである。在韓米軍は元々家族の帯同を認められていなかったが、朝鮮半島情勢が緊迫する中、ソウル在住の米国市民と並んで武力行使の足かせになっている。一部には、クリスマス休暇中に家族を韓国から避難させることによって、武力行使のハードルを下げると同時に、北朝鮮にそのシグナルを送って圧力を強めるという考えが広がっている。米軍はソウル在中の米国市民の避難訓練を年に2回行っていることに加えて、日米の間で韓国にいる日本人の避難に関する協議が行われていることが断片的に報道されており、非戦闘員退避の取り組みも米国による武力行使のハードルを下げることにつながる。
米太平洋軍は、すでに複数の北朝鮮攻撃計画を大統領に提示したと伝えられる。もちろん、米国が武力行使をした場合に予想される北朝鮮の重火器やミサイルによる報復にどう備えるのか、武力行使の国際法上の根拠をどう担保するのか、米国の武力行使に中国がどのように反応するのか、武力行使後の朝鮮半島にどのようなビジョンを描くのかなど、たとえ限定攻撃であっても、米国による武力行使には多くの課題が残っている。
安倍首相は、軍事力行使も含めたすべての選択肢がテーブルの上にあるというトランプ大統領の方針を全面的に支持している。北朝鮮との過去の対話路線が失敗したことは明白であり、軍事力行使も含めたすべての選択肢を検討するのは正しいし、そうでなければ北朝鮮への抑止も有効ではなくなる。しかし、武力行使に関する課題を残したままでは、北朝鮮に足元を見られてしまうだけである。これらの課題について真剣かつ迅速な議論が求められている。WEDGE Infinityより
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