2017年8月3日木曜日

小泉進次郎が自民党批判を繰り返す理由

小泉進次郎衆議院議員と田中角栄元首相。二人の名前からすぐにイメージする言葉は「大衆」である。「大衆」とは社会で大部分を占める勤労者など一般の人たち、政治学の分野では指導層に対する一般の人々とされる。

“角栄”と言えば、庶民宰相として、その生い立ちから、風貌、演説、地方に分け入った政策まであらゆる要素が「大衆」にマッチし、「大衆」の中で大きな支持を得た政治家である。
それに対して進次郎氏は、一見まったくイマ風の青年、世襲議員でもあり自民党のスターだ。いかにも「大衆」とはかけ離れた政治のエリート舞台にいそうな雰囲気だが内実はまったく違うと私は思うのだ。むしろ、いまの自民党の中でも、「大衆」を知り尽くした数少ない政治家ではないか。
 
実は、進次郎氏は自民党の中でも選挙応援要請がトップクラスだ。全国を飛び回り、街宣車をあっという間に1000人規模の聴衆が囲み、黄色い声援も飛ぶ。人だかりに入ると握手攻め。
 
一見、その姿は華やかで凱旋の光景だが大事な視点を見落としている。それは、彼が応援に呼ばれる選挙というのは、実は逆にどれも自民党候補が厳しい選挙なのである。「負けているから彼が呼ばれる」(自民党選対幹部)のだ。言い換えれば、進次郎氏は応援に入る選挙区で、自民党の誰よりも「自民党への批判やいまの逆風」と「大衆の声」を実感するのである。

かつて、一時代、同じように自民党の選挙応援弁士として引っ張りだこだった故橋本龍太郎氏。番記者をしていた私にこんなことを言った。
 
「全国から呼ばれて人気者でいいですねとか思ってるんだろうけど実は違うんだよ。俺が呼ばれるのは厳しい選挙ばかり。応援に行くと、いま自民党のどこが悪いか批判の風が読める。街宣車の前の方は動員の人たちだから声援もある。でも俺は、演説しながらずーっと遠くを歩いている人が足を止めるのかを注意深く見るんだ。メシを食いにお店に入ったら店員さんを捕まえて自民党はどうかとか聞く。そして、東京に戻ったら『これはやっちゃいけない、こうしたほうがいい』と幹事長や総理に必ず報告するんだ」

最近では全国から応援要請が来る石破茂前地方創生相なども進次郎氏と同じだろう。なるほど、「大衆」のいまの声を誰よりも全国を行脚し肌で感じているから、進次郎氏も石破氏も、よく永田町では自民党執行部批判などを口にする。「いま解散すべきじゃない」「自民党は感じ悪い」等々。これらは何も目立ちたいからと非主流派を装っているわけではないのだ。誰よりも「大衆」に近いからこそ口をついて出る批判なのだ。
 
また、政治家・進次郎氏を作り上げているものに、2011年の東日本大震災の強烈で貴重な経験がある。進次郎氏は直後にひとりで、自分でかき集めた灯油を積んだ車で被災地に入ったのだった。そこで直面した惨状と被災者は進次郎氏の政治家としての信念になった。
有権者と笑顔で握手を交わす小泉進次郎氏=6月29日、福島県本宮市
「復興は自分のライフワーク。政治っていうのは簡単なことなんです。困っている人を助ける。それが政治なんですね」 有権者と笑顔で握手を交わす小泉進次郎氏=6月29日、福島県本宮市
 
進次郎氏が筆者に語った言葉だ。たった一人で被災地の崩壊した事務所の片づけを手伝いながら話を聞き失業手当問題改善に先鞭をつけたり、党青年局長としても被災地に通い詰め、内閣改造では安倍首相の要請を断ってでも復興政務官を希望してその任に就いてやってきた。永田町では、東日本大震災を口にする議員も少なくなった。そんな中で進次郎氏は、被災地の一人ひとりの元に通い続け「大衆」に分け入った。

実はここにも、“角栄”との共通点を見る。

選挙区を細かく回れ、そしてひとりひとりと握手しろ―。選挙の神様でもあった“角栄”は口を酸っぱくして若手議員らに言ったという。これを聞いた議員たちは「何十か所回った」「何百人と握手した」と数字を自慢した。

だが、この言葉は、単に選挙に勝つための手段ではなく、“角栄”は民主主義の原点を教えようとしたのである。この真理を、進次郎氏は被災地から自分の力で学びとったのだ。震災発生から1年ほど経って進次郎氏は私にこう言った。

「被災地に何度も足を運んでやってきました。そして、ひとりひとりと握手して、手を握って、ひとりひとりと話をしてきた。そういうことをどんどんやってきたんですが、みんな違うんですよ。ひとりひとり、言いたいことも、望んでいることも。全部くくって解決できない。でも、ひとつひとつを解決して行かなければならないのが政治なんです」

そして、もはや被災地の活動は、自分の選挙区での政治姿勢そのものを変えたとまで言い切った。

「たとえば自分の選挙区で小さなお祭りや集会、餅つきとかね、あるでしょ。もちろんそういうところに足繁く通って。でもね、どこか選挙のためという気持ちがあったんでしょうね。でも被災地に通って変わった。ただ単に票集めのために回っているんじゃなくて、ひとりひとりの声を聞くために回るんだと。政治家がひとりひとりと話して握手するというのは、政治の原点なんですよ。そしてそれを実現する。それが政治家なんですね。震災以来、自分の選挙区でも被災地と同じように、ひとりひとりのところを回って話をするようになりました。被災地が教えてくれたことは、私にとって、ものすごく大きいんです」

進次郎氏の「2021年決起説」がいま永田町で囁かれている。
 
この年は東京五輪が終わった翌年だが、進次郎氏自身「五輪後に日本は人口減や景気後退で大変なことになる。甘くない。自分たちの世代の出番」と話しており、仲間とともに政権構想も練っているとされる。突発的な政変がなければ2021年は自民党総裁選の年。決起とは、そこで旗を掲げて名乗り出ることを意味する。

一方で、進次郎氏は必ずしも自民党にこだわらないかもしれないという見方もある。
 
「進次郎氏は、そもそも今の成長戦略は少子高齢化やなどを考えればそれに合っていないと思っているし、本音は脱原発。自民党とは方向感が違う。党を飛び出してでも『この指とまれ』で新しい政治勢力を作る可能性はある」(自民党若手議員)

かつての“角栄”と同じ首相という頂上に、自民党からのぼり詰めるのか、それとも他の道をのぼっていくのか。ただ、いずれにしても、常に「大衆」を足元に意識しながらの道に間違いはないだろう。  iRONNAより

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