2018年12月9日日曜日

北方領土交渉 返還が「2島-α」に終わる可能性も

日露首脳が1956年の日ソ共同宣言を基礎にした平和条約交渉の加速化を決めた。今後は宣言が明記した歯舞(はぼまい)、色丹(しこたん)2島の引き渡しに焦点が移る。むろん難交渉が予想されるとはいえ、その現実味はどれほどあるのか。

この交渉によって、2島が上限となることで、「2島+α(プラスアルファ)」どころか、「2島-α(マイナスアルファ)」に終わる可能性もある。ロシアが主権を譲らない場合、日本は交渉を打ち切るなど毅然(きぜん)と対応すべきだ。

沖縄方式の交渉も

ゆえに、日露の平和条約協議機関では、2島引き渡し問題が最大の争点になろう。ロシアが四島領有の根拠の一つとしている1945年2月のヤルタ密約は、ソ連の対日参戦条件として「千島諸島はソ連に引き渡される」とし、英語では『hand over』、ロシア語では『ピリダーチャ』が使われている。56年宣言の表記も「引き渡し」だ。

ソ連はヤルタ密約に沿って千島の主権、水域などすべてを奪ったわけで、それに従えば、ロシアは歯舞、色丹の主権、水域をすべて返還しなければならない。日本側は交渉でこの点をつくべきだ。

そもそも、ソ連時代のフルシチョフ政権は56年宣言調印後、歯舞、色丹に入植した島民を国後(くなしり)島などに移住させ、返還準備に着手していた。60年の日米安保条約改定に反発し、「全外国軍隊の撤退」を引き渡しの条件にしたが、一時は2島をすぐにも返還する構えだった。

歯舞群島はその後も無人島だが、色丹には島民が戻り、現在も3千人近い島民が住む。筆者が購読している国後島の新聞『国境で』によれば、色丹では3つの水産加工場の近代化計画が進み、中国の技術者が10月に島を視察した。今後5年間で飛行場や体育館、ゴミ処理施設を建設し、島民の生活改善を図るという。

国後、択捉(えとろふ)と違って色丹にはロシア軍は駐留しないが、国境警備隊の大型基地があり、数百人の部隊が展開するといわれる。色丹の警備隊はロシア海軍の太平洋への出口となる国後、択捉間の国後水道の警備が任務に含まれるもようだ。米露関係悪化でオホーツク海の戦略的重要性は高まっており、当然ながら軍や連邦保安局などの実力組織が島の割譲には抵抗するだろう。

領土割譲はリスク

プーチン大統領は返還後の島に米軍基地を設置しないことを日米首脳が文書で確約するよう要求したとの情報もある。これも日米地位協定と絡んで難題となろう。さらにロシア側は、引き渡しに際して経済協力、安全保障、島民への補償など多くの条件闘争を挑むとみられる。

そもそも支持率が低下しているプーチン大統領にとって、領土割譲はリスクがある。大統領が自ら高揚させた民族愛国主義が、引き渡しの障害になりかねない。保守派の歴史学者、アナトリー・コシキン氏は「2島返還の時機は逸し、現実的に不可能だ」とコメントした。

こうした中で、90年代初期に対日政策を担当したゲオルギー・クナーゼ元外務次官は、モスクワのラジオ局座談会で、「日本の四島返還論には相当の根拠があり、ロシアは歯舞、色丹を返還し、国後、択捉の帰属協議に応じるべきだ」と発言した。

クナーゼ氏は在任中の92年3月、外相とともに同様の提案を打診したが、日本側は「四島返還ではない」として却下した。クナーゼ提案に沿って交渉していれば、当時の日露の圧倒的な国力格差から見て国後を含む「3島+α」の解決が十分可能だったろう。

政府は当時の外交失敗が今日の状況につながったことを念頭に、2島の主権確保に全力を挙げるべきだ。

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