■「政治と経済は別」
韓国の大手財閥ロッテが百貨店やモール、遊園地を置くソウル・蚕室(チャムシル)。その一角にあるロッテホテルの宴会場に、リクルートスーツを着た学生たちが押し寄せた。「日本就職博覧会」と題し、11月7日に行われた韓国人学生向けの面接会には日本企業112社が参加し、事前選考を通過した約2千人が面接を受けた。
「政治と経済は別だと思う。日韓は離れられない関係で、日本は人手不足だから、人材交流はもっと活発になる」。男子学生はこう話した。
《両国が過去の不幸な歴史を乗り越えて和解と善隣友好協力に基づいた未来志向的な関係を発展させるためにお互いに努力する》
1998年に交わされた「日韓共同宣言~21世紀に向けた新たな日韓パートナーシップ」の文言だ。宣言を機に、韓国で禁じられていた日本の大衆文化が開放され、宣言以降に育った若者は日本製品を消費し、映画などを見て、気軽に旅行する。
日本政府観光局によると、訪日韓国人は平成29(2017)年に過去最高の約714万人を記録。特に格安航空会社(LCC)の就航数が多い大阪は、全体の3割が訪れる人気観光地となった。
韓国の若者にとって、就職が当たり前になりつつある日本は、本当に「特別な国」ではなくなったのか。
■高学歴と高得点
就職先を日本に求める背景には、韓国の国内事情がある。面接会で多くの学生は「韓国の大企業は、SKY(スカイ)の学歴順に学生を採用する」と打ち明けた。
SKYは、韓国の大学トップ3とされるソウル大、高麗(コリョ)大、延世(ヨンセ)大の英語の頭文字。こうした高学歴と、外国語資格試験の高得点がなければ、会場となったロッテグループなど大企業への就職は難しい。英語能力を測るTOEICで満点をとる学生はざらにいる。
《両国間の関係を(中略)、幅広い分野において均衡のとれたより高次元の協力関係に発展させていく》
就職難を理由に日本を目指す韓国の優秀な人材。日韓宣言にうたわれた理念は、皮肉な形で現実になりつつある。
■異論を言えない社会
日本のIT企業への就職を目指すソウルの私立大4年の田守孝(ジョン・スヒョ、25)は、幼稚園から小学校1年まで、北海道にいる親類を頼って居酒屋を開業した父と暮らした。大学では日本語学科を選んだが、日本を訪れた経験がない友人たちの偏見に驚いた。
ある友人からは「第二次大戦を引き起こした人たちの子孫が今の自民党政権だ」と聞かされた。韓国の歴史教育は、日本による朝鮮半島統治時代が強調され、江戸時代の朝鮮通信使について大学で初めて知ったという友人もいた。田によると、自らのことを「親日的だ」と批判され、意見に聞く耳を持たれないこともあった。
韓国の財閥企業で日本駐在員だった父と中学生まで東京で暮らした仁川市内の私立大学4年、丁揮榮(チョン・フィヨン、26)は、父や、日本商社の韓国支社に勤める兄(32)にあこがれ、海外営業の道を目指している。
日本で外国人として働く苦労は覚悟している。東京の公立小学校に通っていたとき、同級生からいじめに遭った。いじめは自分で乗り越えたが、日本人の親が「韓国人の子だから」と陰口をたたいていることを知ったときには傷ついた。
丁は「韓国に日帝時代の被害者がいるのは事実だが、日本の立場でみるなら、国同士の約束が覆されたのも事実だ」と話した上で、こうため息をついた。
「韓国では歴史に異論を挟めない」(敬称略) 産経ニュースより
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