最初はマスカット。オマーンの首都は「湾岸の良心」である。人々が優しく、開放的なせいか、サウジなどアラブ隣国だけでなくイランとも関係が良好、外交もバランスが取れている。さすがは昔アラビア半島だけでなくアフリカ東岸からインド西岸、さらにはジャワ島の一部に植民したインド洋海洋帝国の末裔(まつえい)だ。
オマーンとチュニジア、どちらも筆者お気に入りのアラブ国家だが、これからアラブ首長国連邦の首都アブダビに入る。各地での仕事は日本の「アジア太平洋戦略」をアラブ人に説明すること。簡単なようで意外に難しい課題だ。
だが筆者にとって今回出張の本命はエジプトである。同地は40年前、アラビア語研修で2年間青春をささげた懐かしい場所。2011年の革命、13年の反革命を経てエジプトがどうなったかをこの目で確かめたかったのだ。
カイロ空港の新ターミナルは最新式で湾岸アラブと変わらないが、街中に近づくと案の定、大渋滞が始まった。あの喧噪(けんそう)、クラクションによる運転手同士の挨拶、独特の匂い。やはりカイロは変わらない。エジプトは永遠に母なるナイルのたまものである。
関係者によれば、日本の教育の特色は「学校で、学力に加えモラル、体力を含め子供たちの成長すべてを支える」ことだそうだ。暗記だけでなく自分で考える力、モラルの側面、特に協調性、相手を思いやる心、責任感、規則正しい生活など良き市民としての言動も学ばせたいらしい。
例えば、生徒全員で行う教室の掃除や毎日の日直当番を決めるなど、日本では当たり前だが、エジプトでは信じられないことらしい。もちろん、やりとりは全てアラビア語でエジプト人がエジプトの子供たちを教える。既に効果は出始めており、エジプトの子供たちが自発的に自分の部屋を掃除したり、率先して公共の活動をするようになったという。大統領は訪日し、こうした日本式教育にほれ込んだのだそうだ。なるほど、こういう手もあったか。
【プロフィル】宮家邦彦(みやけ・くにひこ) 昭和28(1953)年、神奈川県出身。栄光学園高、東京大学法学部卒。53年外務省入省。中東1課長、在中国大使館公使、中東アフリカ局参事官などを歴任し、平成17年退官。第1次安倍内閣では首相公邸連絡調整官を務めた。現在、立命館大学客員教授、キヤノングローバル戦略研究所研究主幹。産経ニュースより
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