2018年6月10日日曜日

「極めて安定した運転」初号機を上回る

「ついに到着の日付が入った。いよいよ近づいてきた」。7日に開かれた宇宙航空研究開発機構(JAXA)の小惑星探査機「はやぶさ2」に関する記者説明会で、吉川真・はやぶさ2ミッションマネジャーは資料の説明をしながらこう切り出した。はやぶさ2は小惑星リュウグウに6月27日ごろ到着する。はやぶさ2をリュウグウ近傍まで導いた主エンジン「イオンエンジン」について、担当する西山和孝・JAXA准教授は「もはやイオンエンジンの実験ミッションではなく、与えられた計画通りにリュウグウへ到着することが求められていた。自画自賛になるが、初号機(はやぶさ)に比べると極めて安定した運転ができた」と語った。
 イオンエンジンは、電子レンジでおなじみのマイクロ波を使って燃料のキセノンガスを加熱し、イオンと呼ばれる電気を帯びた粒子にしたものを静電気の力ではじき飛ばして、その反動で進む仕組みだ。4台あるエンジンのうち3台動かしても1円玉3枚を動かせる程度の小さな力だが、摩擦も空気抵抗もない宇宙で噴き続けることによって加速が可能になる。はやぶさ2は2016年3月以降、3回の連続運転に挑み、計6515時間を計画通りに噴射できた。最後の3~4週間は、1台あたり10ミリニュートンというエンジンが出せる最大レベルの性能を達成でき、連続運転終了が予定された6月5日から2日前倒しになったという。
 
先代のはやぶさのイオンエンジンは、往復で当時世界最長となる2万5590時間の運転を達成したが、打ち上げ直後に4台あるエンジンのうち1台が故障。また、国内で初めて開発して宇宙へ打ち上げたイオンエンジンだったため、少しでも問題があれば運転が止まるようにエンジンにかかわる数値の基準を極めて厳格に設定した。その結果、自動停止は往復で68回に上り、常にイオンエンジンを見守っている状況だったという。さらに、地球への帰還直前には、運転に不可欠の装置が寿命を迎え、すべてのエンジンが動かなくなる絶体絶命の危機に陥った。はやぶさ2はそれらの経験を教訓とし、不具合が起きた装置の徹底した改良に取り組むとともに、基準に余裕を持たせて必要以上の停止を防ぐなど運転方法も効率化した。

 
はやぶさ2は、往路のイオンエンジンの自動停止は4回で済んだ。はやぶさは376時間に1回止まるペースだったが、はやぶさ2は1629時間に1回と、極めて安定した運転になっている。また、地上のアンテナで探査機を追う時間、つまり探査機を「見守る」時間も短くした。西山さんは「はやぶさの経験値が増え、順調な運転ができたと思う。プロジェクトチームの中でも評価された。また、はやぶさのエンジン運転中は毎日7~8時間かけて追跡していたが、はやぶさ2は週1回、8時間程度かけて1週間分の計画を登録し、それ以外の日は追跡を1日4時間の『半パス』とするなど、運用の時間短縮が可能になった」と説明した。
 
なお、はやぶさ2では、A~Dの4台のエンジンのうち接続できる電源が一つだけのA、Dの2台を優先して使い、さらに太陽から遠い側にあり運転性能がBよりも高いCを合わせた3台が往路の運転を担った。Bは打ち上げ直後に性能確認をしただけで、使用せずに温存されている。計画通りに往路を完走したことについて、西山さんは「Bを使う状況は困ったものなので、A、C、Dだけで地球帰還までやりきりたい。完走については、とても自信があった。『達成感がない』とまでは言わないが、『当然できるだろう』と冷静な気持ちだった」と振り返った。
 
プロジェクトチームは「はやぶさで不具合があったところは絶対に直す。地上でものを作るまでが勝負」との思いで開発に取り組み、特に、はやぶさで致命的なトラブルを招いた中和器と呼ばれる装置の耐久性に関しては、打ち上げまでにはやぶさ2が想定するイオンエンジンの運転時間(1万時間)の倍にあたる2万時間の耐久試験を終えた。耐久試験が4万8000時間を超えた現在も、問題は起きていない。西山さんは「根拠のない自信ではなく、抽出された課題に取り組み、その裏付けを取ったことが自信につながったといえる」。地球帰還についても西山さんは、「大丈夫だと思う」と断言した。
 
はやぶさ2は3日以降、リュウグウへ接近するため、カメラでリュウグウを撮影しながら化学エンジンで軌道を調節していく光学航法に移っている。6日には光学航法カメラでリュウグウの撮影に成功した。5月にリュウグウを撮影した際は5等級程度の明るさだったが、6日はマイナス5等級と非常に明るくなった。また、実際のリュウグウの軌道と計画上の軌道の誤差が、5月段階は約220キロもあったが、既に約70~80キロまで縮小しているとみられる。
 
6日に短い露光時間で撮影した写真を分析すると、リュウグウの大きさは直径1キロ程度とみられ、想定(直径900メートル)に近いとみられるという。一方、リュウグウの形や自転軸の向きはまだ分からない。このような撮影を連日続けて、探査機から見たリュウグウを確認しつつ、すでに軌道が分かっている背景の星々の位置と比較しながら接近していく。到着には、これからの精密な誘導が不可欠であり、リュウグウに衛星があると探査機の運用に大きな影響を及ぼすため、その観測にも力を入れるという。
 
吉川さんは「是が非でもちゃんとしたリュウグウを見たいので、プロジェクト一同、全力で進めていきたい」と力を込めたうえで、「いよいよミッションの本番を迎える。打ち上げから3年半の間に重要な運用はあったが、はやぶさ2の目的はリュウグウの探査だ。相手(の姿)によっては対応策を考えなければならず、緊張して運用を進めている」と話した。毎日新聞より

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