2017年8月6日日曜日

世界最大のヒルを育てた日本人・吉田一貴インタビュー 

古来より、人間は、ペットを飼う生き物である。日本では石器時代に犬の墓が存在したといわれているくらいで、人間が愛玩動物を飼うという行為は、極めて根源的な欲求なのかもしれない。しかし、我々の根源的な欲求とは、全く相反するようなペットを愛している男がいる。その人物、吉田一貴氏は、よりによって人間の生き血を啜る吸血生物=ヒルに心を鷲掴みにされ、その専門店「蠢くもの達」を始めてしまった人物なのである。

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吉田一貴氏
ヒル販売専門店「蠢くもの達」を始めたんですか?
吉田氏(以下、吉田)「今から2年前ですね。3年前に会社員を辞めて定職に就いていない時期があったんですけれど、その時期に40センチくらいのヒルを飼っていて、それが反響を呼んだんですね」

40センチ!?
吉田「はい」

ヒルってそんなに大きくなるものなんですか!?吉田「世界的にもなかなかない例だと思いますね。40センチというサイズ自体のものはいるんですが、それはだいたい細いものなので、僕が育てたように“横幅もあって重量感がありつつ40センチ”っていうのはなかなかいないんです。異様なサイズですよ、ちょっとこれを見てください」
(写真を見せる吉田氏)

うわぁああああああ! デカい!! 怖い!!!吉田「小道具にしか見えないですよね(笑)」

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画像はツイッターより@Twitter‪@petleechs
小道具っていうより、ツチノコですよね、これ。これはどれくらいでここまで成長したんですか?吉田「最初は5センチくらいのだったのが、1年半でこれくらいになりました」

えっ、そんな短期間で大きくなるものなんですね。 動画

https://www.youtube.com/watch?v=H8ZfTFr2TAA)をご覧になれば一瞬で理解できるだろうが、この衝撃には言葉も国境も関係ない。百聞は一見にしかず。吉田氏のこの《40センチヒル》の衝撃は世界中を駆け巡ったのだった。


吉田「最初は昆虫を好きな方がお店のブログで取り上げてくれたのがきっかけだったと思います。その後も僕の方ではヒルの成長記録を1年くらいTwitterに上げていたんですけれど、なぜか突然それがリツイートされだしまして、その1カ月後くらいにYouTubeに上げてた動画の再生回数が突然伸び出したんです。恐らく外国人に見つかったらしいんですね。そうしたら外国の動画を管理する会社から連絡があって、“著作権管理をさせてくれないか?”というオファーがきたので、“これはイケるんじゃないか!?”って思ったんですね」

ピコ太郎の動画をジャスティン・ビーバーが見出したように、「YouTubeが繋ぐサクセスストーリー」が、我々が知らない「ヒル界」にもあったということだろうか。ともあれ、そのタイミングを見計らって一念発起した吉田氏は「蠢くもの達」を開店。元々仙台のペット専門学校を卒業していたこともあり、まさしく《好きなことで、生きていく》

(YouTuberのアレ)ことを決意したのだった。

あの巨大ヒルの育て方っていうのは。吉田「1カ月に1回吸血させるんです」

ああ、やっぱり(笑)。ヒルには人間の血を吸わせるのが一番いいんですか?

吉田「ペット感を味わうのならやはり自分の血が一番ですけれど、それに抵抗があるなら金魚とかの小さな魚がいいでしょうね。ホームセンターで売っている小赤くらいが安くていいと思います

吸われたら金魚は死にますよね?

吉田「そうですね、鯉くらい大きければ死なない可能性もあるでしょうが、金魚は死ぬと思います」

複雑な
生命のやりとりですね。

吉田「見た目を重視するのであれば、ヒルを熱帯魚用の水槽に入れて魚と一緒に泳がせると、エサ兼用になっていいですね。安いグッピーとかアカヒレを泳がせればいいと思います。月に2回くらいしか食べないので、1カ月に1~2匹死んでいくくらい、いつの間にか死んでいくという感じですね」

ちなみに、ヒルのエサは1カ月に1回だけでいいのですか?

吉田「はい、エサはそれでも多いくらいなんです。ヒルという生物にとっては、1年に1回でも恐らく死なないレベルなんですね」

えらい燃費がいい生き物なんですね。ところでヒルは、なんていう動物の仲間なんでしょうか?

吉田「環形動物です。ミミズとかゴカイの仲間ですね。ヒルは雌雄同体ですから、二匹いれば交尾して卵を産みます。生態としては、けっこうアグレッシブに泳ぎますね。販売しているやつは魚を食べさせていますが、人間の血を与えた方が一度に吸える量が多いので、その分早くサイズが大きくなりますね。野生のヒルだと、やっぱり魚の血がメインなので、あまり大きくならないようです」

「蠢くもの達」ではどのようなヒルを扱っているんですか?

吉田「40センチにまでなったヒルは、『ネッタイチスイビル』といって、東南アジアに生息している品種ですね。日本の田んぼなんかに生息している『チスイビル』と一応は同じ科なんです。今日持ってきたのは、『チスイビル』、『ネッタイチスイビル』、それとこれがヨーロッパなんかに住んでいる『医療用ヒル』ですね。たとえば凍傷なんかの患者さんで指を切断しないといけないような時にヒルに血を吸わせると、そこの血管が再生されて切断しなくてもいいような状態に回復したりするんですね。他にも目の治療やリュウマチの治療にも使われています」

治療用のヒルは、ずっと繰り返し使えるのですか?

吉田「いや、『医療用ヒル』は注射針みたいなものなので、一度治療に使ったヒルは廃棄されるんです。注射の回し打ちと一緒で、医療の現場では“感染などの危険があってはいけない”ということですね。治療の際は5~6匹をまとめて患部に付けて、数時間でヒルが満腹になると自然に離れるので、それをアルコールで殺してまた新しいのを使うという感じです」

そりゃまた非道い扱いですね。ちなみに、“満腹になるまで”って、どれくらいの時間なんですか?


吉田「たとえば、先ほどお見せした40センチの『ネッタイチスイビル』なんかは、半日くらいはくっついていますね」

半日!? ずいぶんとまたスローフードですね。その間の痛みはどうなんですか?

吉田「小さいものだと痛くはないんですが、やっぱり『ネッタイチスイビル』くらいの大きさになると、刺される痛みはありますね」

そんな状態で12時間ずっと噛まれた状態でいるんですか? 勝手に離れるのを待つって、けっこう不便ですよね。急いで吸血を止めさせる方法はないんですか?

吉田「無理矢理離そうとするとヒルが傷んじゃいますから、ツメでゆっくりと剥がしていくしかないですね」

半日間血を吸われながらも、あくまでもヒル側のコンディションを優先する吉田氏。やはり考えることが違いすぎる。

ちなみに、吸血で貧血を起こしたりしないんですか?

吉田「やっぱり、40センチの時は多少そういう感じはありましたね。その時はたぶん献血と同じくらい、500ミリリットルとかそれくらいの量を吸われていたんだと思います」

大きさはどれくらいいくものなのですか?


吉田「チスイビルや医療用のヒルは大きくなって10センチくらい。伸びて15センチとかですね。『ネッタイチスイビル』だけが異様に大きくなる種類なんです」
 

ちなみに「蠢くもの達」での『ネッタイチスイビル』の販売価格は一番小さいサイズで3万円程度である。取材しておいていうのもなんだが、全然安くない値段なのである。果たして、何がそうまでして彼を惹きつけているのだろうか? このあたりで、ヒルと同じくらい不思議な吉田氏に、ヒルとの“なれそめ”を訊いてみることにした。   

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