2017年8月3日木曜日

田中角栄どころの逸材じゃない! 有為の人

「小泉進次郎氏は平成の角栄になれるか」 
このテーマに、一言で答えれば「優になれる」といっていいだろう。総理になったあと田中角栄氏は超インフレで土木事業をストップされたあと、全く無為の人だった。彼の頭には思想がなかった。自らの国家像を抱いていないことは明らかだった。その無思想がロッキード資金程度で打ちのめされた原因だろう。生き伸びるために「自民党周辺居住者」として140人の派閥を作った。角栄氏が内心、失敗したと思ったら、もっと潔い辞め方ができたに違いない。政治の場をもっと汚さずに旅立ったはずだが、角栄氏は道路や鉄道だけを残した、ただの土建屋として終わった。
 
私は、角栄氏が幹事長、首相の役にある時、毎日接触し、声をかけて貰ったが、とても偉い人とは思えなかった。

これに比べて進次郎氏の政治手腕は角栄の上をいくと思う。ただどのような政治思想をもっているかが、まだ不明なので「人間として角栄氏の上」と評価を下すのは尚早だと思う。

水田を視察した小泉進次郎氏=6月29日、福島県天栄村
水田を視察した小泉進次郎氏=6月29日、福島県天栄村
 
小泉進次郎氏はまだ当選3回。昨年10月から要職の自民党農林部会長に坐っている。進次郎氏は人気抜群なのに出しゃばらない。こと更、目立つようなことはしないという生き方は立派なものだ。こういう生き方をしているからこそ、発言した時に特に注目を集める。

私などは紙面やテレビに映る“発言”を拾って判断するのだが、進次郎氏は口を開く時は問題の本質をえぐる発言をする。その的確さと鋭さは問題を知る者にとってはギョッとするほどのものである。「もっといいたいのだろうな」と思うのだが、その部分は腹の中に飲み込んで、相手の立つ瀬を残す。

進次郎氏がいま取り組んでいる対象は全国農業協同組合連合会(JA全農)で、この上にJA全中という巨大権力をもった組織が、去年までは存在した。その全中はすでに半分解体されて実力を失くした。次にJA全農に手をかけているわけだが、巨大組織を潰す時、「改善」と称して手をかけ、実は相手がいうことをきかなければ潰すというのが進次郎式といっていいだろう。反発は出るのだが、進次郎氏の戦略の正しさが、いつも勝ちを呼び込む。

農業は戦後、ずっと農協組織に抱えられ、農協の利益とともに生きてきた。農協も儲かる。農民も儲かる二人三脚でやってきた。

第1次安倍内閣で安倍首相は「減反廃止」を宣言した。減反というのは生産制限をして食用のコメの価格を高値に据え置く政策である。制限をされた農家はコメを作るより損をする立場におかれる。損をしない作物を選べといわれても、現実には麦を作っても豆を作ってもコメ作りよりは損をする。
 
そこでどういうことが行われたか。農水官僚と農協、農水族の三者が談合して「全員コメを作ってよし」としたのである。エサ用でも主食用でも同じ値段で買うというのだ。10アール当たり10.5万円ということになっているが、主食用に買う場合は10.5万円。エサ用も同じだが、エサの場合は畜産農家が1~2万円で買う。するとエサ用に売った農家は10.5万円プラスして1~2万円の収入がある。誰でもエサ用に売る方を選ぶに決まっているのだが、こうなると主食用分が少なくなって主食米が減る。これを「減反」と呼ぶのは詐欺そのものだろう。主食以上に高いエサを牛豚に食わせているのだ。

進次郎氏は三者談合の一角に自分が座り、官僚のトップに改革派の次官を据えた。こうなると三者談合は成り立たない。

自民党の小泉進次郎農林部会長(左)と全国農業協同組合中央会の奥野長衛会長=9月5日、東京都千代田区
自民党の小泉進次郎農林部会長(左)と全国農業協同組合中央会の奥野長衛会長=9月5日、東京都千代田区
 
今年3月30日、自民党本部で農林族の幹部だけで非公開のインナーが開かれた。この場で進次郎氏が「農薬の農協別の価格を公表したい」と述べた時にはその場が凍りついたという。農水族が「発表はやめた方がいい」と押えにかかった。進次郎氏が委細かまわず発表した数字は同じ薬品が青森では1621円。山形では860円。また同じ殺虫剤でも農協別の価格差は最大2倍。農業機械に至ってはエアコンやステレオのついた「レクサス農機」と呼ばれるものがある。補助金がつくから高いものが売れるという。

農産物、肥料などの価格を監査するのがJA全中の役割だったが、全中は「外部から買うな」という監督をしていたとも指摘されていた。このため監査する機能に民間監査法人も参加させることで骨抜きにした。

監査に民間人を加える。農薬などの価格差を発表するなどは当然のように思えるが、その当然のことが行われなかったのが農業界だ。「農協に手を出すな」という雰囲気の中、進次郎氏は「農林中金の融資で、農業関係が数%しかないというのなら農業金融はいらないのではないか」とご本尊を切って捨てる構えをみせた。

高知県安芸市で農家が作ったナスを出荷しようとしたところ、農協が「他の業者に売った場合は農協の選果場などを使わせない」と妨害した。こういうケースはあらゆる品目で自在に行われていたが、公取委は高知のナスのケースについて「圧力排除命令」を出した。“進次郎改革”がすでに効き始めたのではないか。私は25年ほど前に「農業革命」という本を書いたことがあるが、進次郎氏は攻め方の順番を踏んで、はずすことがない。勇気がある。難解と目された農政改革は解決の方向に向かって歩み出している。

角栄氏にはこういう“大戦略”を感ずることがなかった。所詮、人を金で動かしていただけだったのではないか。  iRONNAより

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