今回、現在の光ファイバと同じ細さの国際規格に準拠したガラス直径(125 µm)※2を採用したことにより、既存の光ファイバ製造技術や、光ファイバ同士を接続する光コネクタなど既存の周辺技術が活用できると同時に、複数メーカーの要素技術を組み合わせて長距離かつ大容量のマルチコア伝送システムが構築できることを実証しました。この研究で、マルチコア光ファイバを活用した光通信システムの実用化に向け大きく前進したと言えます。
今後、本光ファイバ技術を2020年代前半に実用化することをめざすとともに、将来の多様なデータ通信需要に対応可能な光伝送基盤の実現に貢献していきます。
今回の成果は7月31日~8月4日にシンガポールのSands Expo and Convention Centreで開催された光通信技術に関する国際会議(OECC2017)のポストデッドライン論文※3として報告されました。
なお、本研究開発の一部は、国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)の委託研究成果を用いています。
図1 今回のマルチコア光ファイバの特長
研究の背景
携帯端末や多様な通信サービスの普及に伴い、データ通信容量は年率10%を上回る勢いで世界的に増大し続けており、2020年代の後半には現在使用している光ファイバの伝送容量限界が顕在化すると予測されています。また、光ファイバの普及とデータ通信容量の増加に伴い、サービスプロバイダが保有するビル内やデータセンタ内における光ファイバ設備量の肥大化と光ファイバ配線の輻輳も深刻化しつつあります。
このため、既存光ファイバの伝送容量限界の打破や、光ファイバ設備の高密度化・省スペース化の実現に向け、1本の光ファイバ内に複数の光の通り道(コア)を有するマルチコア光ファイバの研究開発が世界的に推進されており、1本の光ファイバに10個以上のコアを配置したマルチコア光ファイバで伝送容量を劇的に増やす研究開発も行われてきました※4。
しかし、このようなコア数の多いマルチコア光ファイバでは、ガラスの直径が既存の光ファイバよりも太くなるため、製造技術の飛躍的な向上と周辺技術の更なる研究開発が不可欠で、実用化には10年程度を要すると言われてきました。
そこで、NTT、KDDI総合研究所、住友電工、フジクラ、古河電工、NEC、千葉工大は、マルチコア光ファイバ技術の早期活用に向け、1本の光ファイバに配置するコア数は4~5個にとどめるものの、現在使用されている光ファイバと同じ国際規格に準拠した細さで、既存技術が活用しやすいマルチコア光ファイバの研究開発を進めてきました。
今回の研究概要とその成果
今回の研究では、
「既存光ファイバと同じ細さで国際規格に準拠した標準外径マルチコア光ファイバの設計指針の明確化」
「複数のメーカーが共通仕様で作製した標準外径マルチコア光ファイバを相互接続した伝送路の実現」
「標準外径マルチコア光伝送路を用いた100テラ・ビット超伝送の実証」
を行い、以下の3点を成し遂げました。
を行い、以下の3点を成し遂げました。
- <1>1>既存の光ファイバと同じ細さであるガラス直径125 µmの光ファイバに、既存の光ファイバと同等の品質を有する4~5個のコアを配列できることを明らかにしました。
- <2>2>異なるメーカーが作製した標準外径マルチコア光ファイバ(4コア)を相互接続し、平均損失0.21 dB/km※5、全長316 kmの低損失なマルチコア伝送路を実現しました。
- <3>3>標準外径マルチコア光ファイバとマルチコア光増幅技術、既存の光コネクタ技術を用いたマルチコア光伝送システムを構築し、標準外径の光ファイバで世界最大となる毎秒118.5テラ・ビット伝送を実現しました。
以上の結果により、現在利用されている光ファイバの国際規格に準拠したマルチコア光ファイバによる伝送容量の拡張性と、既存技術との親和性の高さを明らかにすることができました。
研究の詳細
1.設計指針
光ファイバは直径が数cm~10 cm程度の母材と呼ばれる比較的大きなガラス棒を作製し、これを相似形に溶融・延伸していくことで実現されています。仮に同じサイズの母材を用いるとして、光ファイバの直径を通常の125 µmから2倍の250 µmにすると、製造できる光ファイバの長さは4分の1に減少します。マルチコア光ファイバのガラス直径の増大は、光ファイバの製造性に直接的に影響します。また、今日の光通信では、1260 nm~1625 nmの広波長域で使用可能で、コアの直径が約10 µm程度の単一モード光ファイバ(SMF:Single-Mode Fiber)が最も汎用的に利用されています。
そこで本検討では、ガラス直径と被覆直径を、現在の光ファイバの国際規格に準拠する125±0.7 µmと235~265 µmとして光ファイバ1本あたりの製造性を維持するとともに、1つ1つのコアが汎用SMFと同等の伝送品質を有するマルチコア光ファイバの実現を目的としました。マルチコア光ファイバでは隣り合うコア間の光信号の干渉※6を十分に低減する必要があり、NTTおよびKDDI総合研究所は125µmのガラス直径で4~5個のコアを配列できることを明らかにしました。
図2 ガラス直径の拡大による製造性低下のイメージと標準ガラス直径を用いたマルチコア光ファイバの試作例
2.相互接続伝送路
上述の設計指針に基づき、住友電工、フジクラ、および古河電工にて、長さ100 km以上のマルチコア光ファイバ(4コア)を各社で作製しました。いずれのマルチコア光ファイバも1260 nm~1625 nmの波長範囲で使用可能で、汎用SMFと同等の伝送特性を実現できました(波長1550 nmのモードフィールド径(MFD:Mode Field Diameter)※7が約9~10 µm)。
作製したマルチコア光ファイバを20~40 kmのピースに分割し、意図的に製造元が異なるマルチコア光ファイバを相互接続し、長さが104~107 kmの3つの伝送区間を構築しました。そして、汎用SMFと比べても遜色のない低損失なマルチコア伝送路を複数メーカーの光ファイバで実現できました。各区間の波長1550 nmにおける4コアの平均伝送損失は、マルチコア光ファイバ同士を溶かして接続(融着接続)した接続点の減衰量を含めても0.22 dB/km以下、3区間全長での平均損失は0.21 dB/kmでした。
これは、標準外径を採用し汎用SMFと同等の伝送特性(MFD特性)を実現したことにより、既存の製造技術とノウハウの活用を容易にし、マルチコア光ファイバの製造性が飛躍的に向上されたことの表れであると言えます。
図3 相互接続伝送路の構成と損失特性
3.毎秒100テラ・ビット超伝送
さらに、上述した3つの伝送区間をつなげてマルチコア伝送路を構築しました。各々の伝送区間の終端に、NEC、KDDI総合研究所、NTT、および古河電工が作製した、3台のマルチコア光増幅器を接続し、各区間の光の減衰を補償しました。マルチコア光増幅器には消費電力の低減が期待されるクラッド励起を適用し、今回の光増幅器では約16%の低減効果を確認しました※8。全長316 kmのマルチコア伝送路の毎秒100テラ・ビット超の伝送ポテンシャルを確認するため、116波長の16QAM信号※9を生成し、316 km伝送後の伝送品質を評価しました。
なお、マルチコア光ファイバの各コアとの入出力は、NTTおよび古河電工で作製したFan-In・Fan-Outデバイス※10を用いて実現しました。また、マルチコア伝送路の入出力端とFan-In・Fan-Outデバイスは、千葉工大とNTTで作製した既存のMU形およびSC形インタフェースを有する光コネクタ※11を用いて接続しました。本光コネクタはマルチコア光ファイバの4つの対向するコアが適切な対応で接続されるように、光ファイバの回転軸方向の調心を行う機能を有しており、マルチコア構造の低損失な光コネクタ接続を実現できます。
伝送実験の結果、全てのコア・全ての波長で伝送限界を上回る良好な伝送品質を確認し、標準外径の光ファイバを用いた伝送実験では世界最大となる毎秒118.5テラ・ビット※12の伝送容量を達成しました。これらの結果は、現在の光ファイバの伝送容量限界を上回る大容量伝送システムが、標準外径を有するマルチコア光ファイバを用いて実現できることを示したものと言えます。
図4 標準外径マルチコア光ファイバを用いた世界最大伝送容量の実現
今後の展望
今回の研究成果は、既存の光ファイバと同等の標準外径を有するマルチコア光ファイバを用いることで、光ファイバの製造性向上と既存の周辺技術の有効活用しながら、毎秒100テラ・ビット超の伝送容量が実現できることを示したものであり、マルチコア光ファイバ技術の早期実用化に向けた道を切り拓くものと位置づけられます。
今後も、本光ファイバの2020年代前半における実用化を目指すとともに、増大し続けるデータ通信需要に持続的に対応可能な光伝送基盤の実現に貢献していきます。
NTTより
0 件のコメント:
コメントを投稿