アリなのに刺すとはこれ如何に? と思うのですが、日本に多く生息するアリの仲間は毒針を持ちません。長い進化の過程で「不要」としたので退化したわけです。
そもそもアリはハチと同じハチ目で、スズメバチの仲間から分岐してできた種類(ハチ目、スズメバチ上科、アリ科)というわけで、針を持つモノがいても不思議ではないわけです。もちろん日本にもオオハリアリなどの、毒針を持った刺すアリがいるのですが、都心部ではあまり見かけることもない上、ヒアリに比べると温和なためそれほど問題とはなっていません。故に、ヒアリのニュースを「聞いて針があるアリ!!」と驚いた人も多いと思いますが、世界のアリとして見ると針のあるアリは多くはないものの珍しくありません。
すでに日本には、アルゼンチンアリなどの熱帯性のアリが山口、広島、徳島や大阪、太平洋側のあちこちの地域で定着していることから、熱帯性のヒアリも定着は不可能ではないとは言われています。
とはいえ、近年急激にヒアリが侵入してきたわけではなく、何年も前からヒアリが港で発見されたというニュースはあったのに、マスコミが取り上げなかっただけなので、急激にヒアリが日本侵略を開始したとかそういったフィクションじみた状況ではなく、あくまでそういう危険な虫が入ってくることがあるから、気をつけましょうね。以上の話ではないわけです。
「ヒアリが日本に来るから殺虫剤を買わないと!!」と、アリを見つけ次第殺しまくるのは、火を恐れるサルと同じわけで、ちゃんとした知識と冷静な対応が必要なわけです(有象無象のワイドショー番組を見ていなければ、そんな馬鹿騒ぎに乗せられることもないわけです)。
熱帯という環境は冬が無いため生物相がリセットされることがないので、逆に言えば生存競争が極めて過酷な世界です。故にアリも日本ののんびりとしたアリの暮らしではとても無理で、常に巣を壊す敵と戦い続けるために、凶暴化、毒も強化したものが生き残ったといえます。
実際に筆者も、熱帯での調査でツムギアリやハリアリの巣を刺激してしまったことがあり、ツムギアリはたいして攻撃力もないので舐めていたら、タワシ大のアリの塊が降ってきて全身にたかられて本当に恐ろしい目にあった覚えがあります。
Dinoponera gigantea「Youtube」より引用
ちなみにハリアリ最強のアリとしては、ディノポネラ属のDinoponera gigantea(ディノポネラ ギガンティア)という1匹のサイズが2.5cmの大型のハチと同じくらいのボリュームで、しかも毒針まであるという極悪な種がいます。幸いなことに、人工繁殖が難しい程度には日本に根付くことはまずありえません。ちなみに日本のスズメバチは世界的にハチとしては最強クラスの危険度で、アメリカでキラービー(アフリカミツバチとセイヨウミツバチのハイブリッドで極めて攻撃的)の駆除に使えるのではないかと、誰かが言い出したものの、キラービーよりキラーなハチを輸入してどないするねんという最大の問題に気付き、日本のスズメバチの生物農薬としての輸出はナシになったなんて話もあります。
逆に言えば、日本にもそれなりに危険な生き物はいて、きちんと知識をもって対策をするということが行われているわけですから、いかにちゃんとした知識を持って、冷静に対応するべきかが大事であるかということです。
■ヒアリの毒
大量のヒアリに刺され痛みにもだえる人「YouTube」より引用
ヒアリの毒は天然物なので、基本的にはいろいろなモノの混合物です。ただヒアリの毒の9割近くは「ピペリジンアルカロイド」という特徴があります。ピペリジンと見知らぬ言葉がくると理解を拒否したくなる気持ちも分かりますが、実はピペリジン化合物は非常に身近なところにあります。それが「ピペリン」です。聞いたことも無い? 黒こしょうの辛み成分といえば分かりやすいでしょうか。
ヒアリに刺された足「Wikipedia」より引用
コショウの辛み成分として知られるピペリンは、単体でも非常に強い辛さ刺激を持ちます。さらに同じ辛み成分であるトウガラシのカプサイシンの作用を増強することも知られており、防犯用の催涙スプレーなどの中には「ペッパースプレー」などとコショウの名を打ったものもあるくらいです。このピペリジンアルカロイドは感覚神経にあるイオンチャネル(TRPV1)(カプサイシン受容体)と反応します。実際に熱は発生していないのに熱感を持つわけです。濃度が高いと火傷のような痛みと焦熱感を与えるために、体の免疫反応として火もないのに火傷したような痛みが生じます。
さらに痛みを与える成分以外に、様々なペプチド様の発痛物質、多数のタンパク質がヒアリの毒には含まれており、1匹だけでは痛い程度でも、それが群れになって襲ってくる、わりとホラーな生き物といえます。
日本にヒアリが定着する可能性は高いとは言えませんが、それ以前に定着している地域や、それに類する攻撃的なアリがいる地域へ旅行される際は、是非ともそうした「刺す虫」の情報は事前に調べておくといいかもしれません。 トカナより
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