バブル絶頂期だった1990年から、リーマンショック直前の2005年までの25年間は、日本社会にさまざまな面で“変化”を生み出しました。そのひとつが「健康格差」です。
先週、「この25年間で日本の平均寿命が4.2歳延びるなど健康状態は全国で向上したが、都道府県別に見ると格差が拡大していることがわかった」という内容の記事が、大手メディア各社で報じられました。調査を行ったのは、東京大学の渋谷健司教授(国際保健政策学)らのチームです。
研究では厚生労働省などのデータを分析。その結果、
- 平均寿命は、79.0歳⇒ 83.2歳まで4.2歳上昇。
- 1990年の平均寿命トップ県は長野(80.2歳)、短い県は青森(77.7歳)。その差は2.5歳。
- 2015年の平均寿命トップ県は滋賀(84.7歳)、短い県は青森(81.6歳)。その差は3.1歳。
- 25年間で、平均寿命の地域間格差は、0.6歳(3.1ー2.5)まで拡大した
「え? たった0.6歳でしょ?」そう思われた方もいるかもしれませんね。でも、これは「統計的に有意だった差」。つまり、「たった0.6歳」ではなく、「確実に違いがある」ってことが確認されたのです。住んでいる地域によって長生きできたりできなかったり、寿命に格差(=健康格差)が生じていることが明かになって“しまった”のです。
実はこれ、“しまった”としたとおり、結構な問題でして。欧米では1980年代から「健康格差」が社会問題になっていたのですが、日本では格差はなかった。というか、正確には「ない」と考えられていました。
「日本ってさ~、結構平等でしょ? 所得や学歴の違いもあんまりないしね~」という幻想(?)が根強く、今回のように「政策に生かそうぜ!」とする国をあげての大規模調査が行われていなかったのです。
一方、欧米ではさまざまな健康指標との関連(=健康格差)を検討した調査結果がたくさんある。
例えば、「所得の低い人は、所得の高い人より7倍もうつ傾向になりやすい」とか、「学歴年数が短いほど、高齢になってからうつや閉じこもりになりやすい」とか、「低所得の人ほど、学歴の低い人ほど、多くの健康問題を抱えてる」なんてことがわかっているのです。
今回の東大チームらの調査では、「1人当たりの医療費や人口当たりの医師数などのほか、生活習慣などのリスク要因との関係を分析したが、関係性は見いだせなかった」とのこと。
つまり、保健システムや、喫煙、食生活の違いではなく、所得、学歴、結びつきなどの社会的な要因の違いが、地域の健康格差を生み出している可能性が示唆されたのです。
でも、これってよくよく考えると「変な事」だと思いませんか? だって、健康って個人の問題だと私たちは無意識に理解しているから、「タバコは身体に毒です! 辞めないと早死にしますよ!」と警告されればタバコを辞め、「そんな油モンばっか食べてたら、デブって病気になりますよ!」と怒られるから野菜を必死で食べ、「運動しないと、ボケるの早いらしいよ」と脅されるから歩く。とにかく歩く。毎日、ちょっとでも歩こうと努力するのです。日本中どこを見ても、「健康生活。がんばってます!」って人たちで溢れている。
ところが、「あなたがどんなにがんばっても、あなたの意志や行動とは関係なく、あなたの身体を蝕むものがあります」「遺伝ですよね? それだったら仕方ないです。うち、短命な家系ですし」「いいえ、そうじゃないんです。遺伝とか家系じゃないです」「じゃ、運とか?」「いいえ、そうじゃないんです。アナタの住んでいる地域の問題なんです!」
「えええ?? どういうことですか??」「長生きしたいんですよね? だったら引っ越しましょう! ○○県で暮らせば長生きできます!さ、引っ越しましょう!」「えええ????? いややぁ~~~ん」というのが、地域間健康格差問題であり、自分ではどーすることもできないものがあるのはわかっているけど、「健康までコントロールされてしまうんかい?」というのが、いま議論されている健康格差問題なのです。
ま、それも人生、と思えばそれまでなのですが、最後にちょっとだけおもしろい結果をお話します。
これは米国で最近注目を浴びている研究です。経済格差や学歴格差が、健康格差につながることはさまざまな研究からエビデンスが得られているのですが、「ごちゃまぜに住めば、大丈夫!」てなことがわかった。
ニューヨークやサンフランシスコのように、富裕層と低所得者層で生活居住地域が明確に区別されている地域では、「所得の低い人、学歴の低い人は、高い人たちに比べ、健康状態が悪い」のですが、居住区域が区別されていない地域では「所得や学歴による健康度の違い」が認められなかったです。
つまり、ごちゃまぜに住むと、低所得でも健康でいられるし、学歴が低くても元気!。こんなおもしろい調査結果が出ているのです。
その理由はいくつか考えられるのですが、ひとつには「区別がなくなることで、低所得な人でも高所得な人が利用する健康増進機関や健康情報にアクセスしやすくなる」というもの。
さらに「高所得者の税金が、低所得者の社会保障費に首尾よく回されることで、手厚い保護を受けられる」などが指摘されています。
なにはともあれ、ごちゃまぜがいちばん!
ダイバーシティとか、かっこいい言葉じゃなく、“ごちゃまぜ”こそが、これからのトレンドなのです! MAG2NEWSより
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