2017年8月3日木曜日

「人間を完全に溶かす毒」の存在を徹底検証 後編

●酸ってなんじゃろ

まず、酸の強さについて少し話をしておきましょう。

海外メディアの酸の強さというのは、主に水素イオンの濃度の高さと言えますが、科学的な意味合いでは定義にもよります。水溶液なのか、それ以外の溶媒中での話かなのか、温度はどうなどか、などなど細かい設定によって、結果が変わってくるのです。なので、ちょっと乱暴な言い方になりますが、「分子から電子を奪うパワーの強さが酸の強さ」と考えてください。

また、「酸に溶けた」というものがどういうことを示すのかも、溶かすものによって定義が変わってきます。人間を含むタンパク質が「溶ける」という場合は、酸(ないしは塩基)によってタンパク質の加水分解が促進され、タンパク質はアミノ酸同士の繋がりですから、アミノ酸にまで分解されると、大半のアミノ酸は水溶性なので、酸性の液体には溶けるといえます。まぁ少なくとも組織がグズグズのドロドロになれば「溶けた」と表現してよいとしましょう。酸も塩基も強いものは、タンパク質を構成するアミノ酸同士の結合であるペプチド結合をゆるめて、水を入れて分解してしまうことができるということです。
 
しかし、骨や歯などは、リン酸カルシウムの密度が極めて高いため、ものによっては強固な膜を形成して、それ以上酸や塩基が入り込みにくい状態にしてしまうため、死体を薬品処理する犯罪者は「大きくて太い骨」の処分に困るわけです。

この「大きな骨」も溶かそうと思うと、熱エネルギーをさらに加えることが必要になります。つまり、煮込むとか、溶媒を変えるとか、そういう手段です。さらに、硫酸といった酸を越える超酸といわれるものの使用も視野に入ってきます。

超酸というのは、硫酸よりもさらに電子奪いパワー(雑)が上位の酸のことで、有名なものは「5フッ化アンチモン」と「フルオロ硫酸」の混合液です。ろうそくに代表される炭化水素の塊をこの中に入れると、瞬間的に溶けることから「マジック酸」などと言われていますね。では、これで人間が跡形も亡く消えるかというと何とも言えません(笑)
 
それ以前に、溶ける際に大量の猛毒のフッ化水素を出す上にガラスさえも溶かしてしまうので容器にも難アリです(笑) 他の超酸もありますが、死体処理費用がおそらくウン百万円では済まない値段になる上に今度は廃液が下水管をも溶かす可能性があって、中和処理も山盛りあるため、現実的とはいえません。
 
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画像は、「Thinkstock」より
 
となってくると、酸での死体隠滅を行う場合、「ホーロー製の巨大な容器で死体を硫酸で煮込む」しかありません。しかし硫酸(H2SO4)は加熱しても酸化力に限界があるので、さらに分解を促進するために過酸化水素水を居れて、過硫酸(H2SO5)にしてパワーアップさせる必要があります。そうすれば、ある程度骨も溶かすことができそうです。
 
とはいえ、人間ひとりを数十キロの肉の塊として考えると、それらを液体にするほどの硫酸は時間さえかければ同量程度で十分でしょうが、おそらく体重の3,4倍量は必要となり、同時に反応時に凄まじい水蒸気の湯気(飛沫は危険な希硫酸が大量に飛び散る)ということになるので、秘密裏に死体を静かに隠滅するというのは難しそうです。でも、不可能ではありません。
 
そんなわけで、フィクションにありがちな「触れるだけでドロドロに即座に溶けてしまう毒」は、死体隠滅には難しいものの、候補はいくつか絞れそうです。
 
例えば「熱濃硫酸」。硫酸は熱を帯びた状態では振る舞いが変わり、死体をも消すくらいのパワーを持ちます。また費用が安く運用が比較的簡単です。熱濃硫酸は通常の硫酸が緩く水飴状なのに対して、極めてさらさらした液状になり、濡れ性がアップします。つまり組織の奥深くに入り込みやすいということです。映画やゲームでビシャっとかかっていっきに溶けて死ぬ時に使われる毒の類いは熱濃硫酸が極めてイメージが近いといえます。
 
化学反応的には、高熱の濃硫酸は反応性が高くなっており、触れた体から速やかに水分を奪い、炭化させて組織破壊を起こします、濡れ性が高いとその空間にさらに入り込んで浸食をするので、絵的には煙を上げながら焼け溶ける感じになるでしょうから、極めてゲームにありそうな感じになります。他にも、タンパク質分解酵素を注入なども溶けますが時間がかかります。ハブの毒や、肉食のカメムシであるサシガメやタガメといった昆虫の毒液にも消化酵素が含まれており、触れた細胞をドロドロに分解消化していきます。  
トカナより

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