2018年4月26日木曜日

遺伝子治療を応用した「遺伝子ドーピング」とは

<遺伝子治療の研究がすすむにつれて、スポーツの分野に、遺伝子治療法を応用した「遺
伝子ドーピング」が広がるおそれが懸念されている>

アスリートが競技成績を向上させようと薬物などを使用して身体能力を強化するドーピングは、フェアプレイの精神に反するだけでなく、副作用によって選手の心身に悪影響を及ぼすこともあることから、オリンピックをはじめ、数多くの競技大会で厳しく禁止されてきた。

従来、筋肉増強作用のあるステロイドや興奮剤、骨格筋への酸素供給量を増加させる意図で輸血する「血液ドーピング」などがその代表例であったが、近年、遺伝子治療の研究がすすむにつれて、スポーツの分野にも、遺伝子治療法を応用した「遺伝子ドーピング」が広がるおそれが懸念されている。

特定の遺伝子を筋肉細胞に注入した「シュワルツェネッガー・マウス」

遺伝子ドーピングとは、遺伝子治療法により特定の遺伝子を筋肉細胞などに注入して、局所的なホルモン生成を可能とすることをいう。これが初めて話題となったのは、いわゆる「シュワルツェネッガー・マウス」だ。
 
1998年、米国のリー・スウィーニー博士らの研究チームは、筋肉増幅を制御する遺伝子「IGF-1」を筋肉に移植し、高齢マウスの筋力を27%向上させることに成功した。

世界規模で反ドーピング活動を推進する国際機関「世界アンチ・ドーピング機関
(WADA)」では、2002年3月、遺伝子ドーピングに関するワークショップを初めて開催し、2003年1月1日以降、WADAの禁止物質・禁止方法を列挙した「禁止表」に遺伝子ドーピングを含める措置を講じている。

また、2004年には、最先端の遺伝子治療法やドーピングの検出法などについて研究する「遺伝子ドーピング専門部会」を創設し、現在、スウィーニー博士もその一員として参加している。

検知することは難しい

しかし、遺伝子ドーピングを検出するのは、極めて難しいのが現状だ。たとえば、赤血球の産生を促進して酸素運搬能力を高める造血因子「エリスロポエチン(EPO)」の製剤を不正使用した場合、現在の検査技術でもこれを検知することは可能だが、体内でのEPOの生成を促す遺伝子を注入した場合、EPOそのものは体内で生成されたものであることから、ドーピングとして検知することは難しい。

このほか、DNAを除去したり変更することでヒトのゲノムの一部を編集する「CRISPR」や「CRISPR-Cas9」といった遺伝子編集技術も、遺伝子ドーピングの手法として応用される可能性が指摘されている。

オリンピック選手の遺伝子情報を集める可能性も

これに対し、WADAの役員を務めるオリヴィエ・ラビン博士は、米ニュース専門チャンネル「CNN」の取材で、血液などの生体試料から選手の遺伝子情報を集める可能性について言及。

雑誌「Wired」でも「WADAが、すべてのオリンピック選手に遺伝子コードのコピーの提出を求めることを検討している」と報じられている。

しかし、この方策は、選手のプライバシーに抵触する可能性があるばかりか、選手から提出される遺伝子コードが遺伝子改変される前のものであるという保証はないことから、懐疑的な見方も少なくない。
 
現時点において、遺伝子ドーピングを防止する効果的な指針やプランはまだ示されていない。遺伝子ドーピングが広がってしまう前に、まず、アスリートやその関係者を十分に教育し、遺伝子ドーピングにまつわる倫理的問題や健康リスクについての啓発活動を積極的にすすめていく必要はありそうだ。ニューズウィークより

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