Googleが撤退する一方で、ソフトバンクグループは、Googleからロボット会社を複数買収するなどロボット開発のリーダーとなりつつある。莫大な開発費をカバーし、ロボットを本格的に社会に普及させるためには、民生用途で大きな市場を見つけ出す必要がある。
一時はロボット市場の多くを支配していた
Googleは2013年にロボット開発会社である米Boston Dynamicsを買収し、本格的にロボット開発市場に参入した。その後、二足歩行ロボットに強みを持つ東大発のロボットベンチャー、SCHAFTの買収にも成功。民間におけるロボット開発市場の大部分を支配するまでになった。
15年6月に米国防総省の傘下にある国防高等研究計画局(DARPA)の主催でロボット・コンテストが行われたが、このイベントは、Googleの市場支配を多くの人に認識させる結果となった。
このコンテストは、自動車の運転やドアの開閉など8つの作業で優劣を競うもので、原発事故のような人間が近づけない災害現場での作業を想定したものである。
事前の評判では大本命と言われていたGoogle傘下のSCHAFTが出場を辞退したことから、1位は韓国化学技術院のTeam KAISTとなった。だが、2位に入ったフロリダ大学のチームがBoston Dynamics製のロボットを採用するなど、フタを開けてみると上位入賞チームのうち7チームにGoogleがロボット本体を提供していた。
Googleのロボット開発を初期段階から率いてきた責任者が退社し、全体の方向性がはっきりしなくなった。これに加えてGoogleは持ち株会社の体制に移行し、主力の広告事業とその他の事業を分離。個別に業績を評価する体制に移行した。
ロボットはまだ開発途上であり、短期的に利益を追求するのは難しい。市場では、Googleのロボット部門売却のウワサが何度も流れるようになった。
最終的にGoogleは、Boston Dynamicsをソフトバンクグループへ売却することを17年6月に決定。ソフトバンクはSCHAFTについても買収する算段だったが、条件が合わず中止となっていた。今回の開発中止の決定で、Googleはほぼ完全にロボット市場から撤退することになる。
二足歩行ロボット(もしくは四足歩行ロボット)は、見た目のインパクトの大きさから世間の関心を集めているが、どの程度、事業機会があるのかという疑問の声は常に存在していた。
テクノロジーというのは、実際に製品やサービスが市場に出てこなければ、本当のニーズは顕在化しないので、開発時点の価値観で技術の是非を判断することは間違っている(従って、SCHAFTに見向きもしなかった産業革新機構の判断は正しいとは言えない)。
しかしながら、どこかのタイミングで巨大なニーズが生まれない限り、その技術が広く普及する可能性は低い。
ロボット開発の初期段階において、製品の最大の買い手として軍が想定されていたことはほぼ間違いない。Boston Dynamicsは国防総省から開発資金の提供を受けており、前述のロボット・コンテストも国防総省傘下の機関が主催していた。
ロボット開発企業はどこも情報公開に極めて消極的だったが、こうした状況と無縁ではないだろう。民生向けの技術を開発するテクノロジー企業は、開発が不十分な状況であっても、メディア向けにプレスリリースを何度も出し、メディアでの露出を高めたがるという状況と比較すれば一目瞭然である。
ソフトバンクは巨大市場を発掘できるか
Boston Dynamicsはその後、軍との契約を打ち切られたとされるが、その理由ははっきりしていない。Googleは軍事技術の開発に否定的な会社であり、Google側から辞退したというウワサもあるし、単純な契約満了の可能性もある。
いずれにせよGoogleはロボット開発に、当面、採算性を見いだすことができないと判断した可能性は高い。そうなってくると今後、ロボット市場のカギを握るのはソフトバンクということになる。
当面は限られた用途での活用になるだろうが、この市場だけで膨大な開発費を回収することは難しいだろう。これまで想像もしなかったようなボリュームゾーンでの用途を開拓できなければ、ソフトバンクもどこまで事業を継続できるのかは分からない。ロボット事業はひとつのヤマ場を迎えつつある。
加谷珪一(かや けいいち/経済評論家)
野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当。独立後は、中央省庁や政府系金融機関など対するコンサルティング業務に従事。現在は、経済、金融、ビジネス、ITなど多方面の分野で執筆活動を行っている。
著書に「AI時代に生き残る企業、淘汰される企業」(宝島社)、「お金持ちはなぜ「教養」を必死に学ぶのか」(朝日新聞出版)、「お金持ちの教科書」(CCCメディアハウス)、「億万長者の情報整理術」(朝日新聞出版)などがある。産経ニュースより
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