元兵士がメディアの取材を受けるのは韓国も含めて初めて。証言からは最高指導者への求心力の低下が潜在的に進む北朝鮮の姿が浮かび上がった。
脱北した元兵士は呉青成(オ・チョンソン)氏(25)。韓国入国後、別の氏名や生年月日を与えられているが、日本の公安当局は呉氏本人と確認している。越境した際に腹部や腕などを北朝鮮兵士らに撃たれたものの、今年2月に退院。現在はソウル市近郊から同市内に通勤する一方、治療を続けている。
昨年、北朝鮮は対外的に核・ミサイルの挑発で米国との対決姿勢を鮮明にしていた。呉氏は「北内部では若い世代を中心に他者や政治、指導者への無関心が広がり忠誠心もない。自分も正恩氏に関心がなかった」と指摘。その理由を「体制が国民を食わせていければ拍手をするが、何一つ施さないからだ」と強調した。
核・ミサイル開発問題をめぐって昨年に米朝関係が緊迫した際、「本当に米国と戦争すると感じた」と証言する一方で、「緊張感は上の方から与えられる面があり、実際には高まったり、緩んだりしていた」とも話した。
経済の悪化は指導者の求心力低下につながることから、首都平壌では繁栄を強調するためにマンションや娯楽施設などの建設が進むが、「基本的に生活は各自でどうにかする。取り締まり機関員など権力者は市民の違反を見逃して小遣いを得ていた」と語った。
脱北理由「飢え」半数
北朝鮮を逃れて韓国に住む脱北者は現在、3万人を超える。韓国メディアによると、北朝鮮の住民が越境する目的として、「飢え」を挙げた人が「単純な体制への不満」の約6倍に上るとの調査結果がある。
調査は韓国の情報機関・国家情報院が国会議員に開示したもので、過去10年間に北朝鮮から韓国に入った住民約1万7千人を対象に調べたところ、約50%が1日に1食も食べられない貧困からの脱出を挙げた。体制に対する嫌悪を挙げたのは約7・6%だった。
調査結果は、自国民に最低限の生活を保障せず、核・ミサイルの開発に巨費を投じてきた北朝鮮政権のゆがんだ統治観を浮かび上がらせる。また、北朝鮮に融和的な文在寅(ムン・ジェイン)政権の出現で、反北朝鮮の政治的活動をしてきた脱北者が圧力を感じたり、北朝鮮出身の記者が排除されたりするケースなども問題化している。
韓国で人材ビジネスを成功させた脱北者の男性は「仕事などで問題になることが面倒で政治的に無関心を装ったり、そもそも北朝鮮に関心を向けない脱北者も増えている」と指摘。南北の急激な融和で、脱北者社会は政治、経済的に揺さぶられ、困惑が広がる。
産経ニュースより
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