2018年3月21日水曜日

日本人が守ったミャンマーの“心” 国宝級など仏像301体を保護・寄贈

ミャンマー最大都市ヤンゴンの中心地から車で2時間の郊外、モビ郡区にあるアウンザブタイヤ寺院は、「ジャパン・パゴダ(日本寺)」の愛称で知られる。軍事政権時代に日本人がミャンマー各地から購入・保護した、301体の歴史的な仏像が寄贈されているためだ。週末には国内外から5万人の参拝客が訪れるが、日本人にはあまり知られていない。3月の平日に訪れると、テニスコートほどの広さの同寺講堂2階では、隣国タイからの約100人の参拝客が、所狭しと並んだ仏像に手を合わせていた。寄贈者の熊野活行さん(68)に話を聞いた。

仏塔修復の“お告げ”

〈熊野さんは、配管防錆装置の製造・販売「日本システム企画」(東京都渋谷区)を経営する一方、2002年に「日本ミャンマー友好交流協会」(昨年に一般財団法人化)を設立し、現地をほぼ毎月訪れ、教育支援などを行っている〉

来日したアジアの留学生を支援するうち、貧しかったモンゴルを助けようと、現地にモンゴル国際経済商科大学も創設しました。約10年間でモンゴル支援活動が一段落したころ、知人から声をかけられ、02年に初めてミャンマーを訪れました。モンゴル同様に多くの日本兵が亡くなった地であり、ミャンマー人にも日本人のように蒙古斑があると聞き親しみを持ちました。

〈05年にミャンマーの古都バガンで運転手が道に迷い、洞窟のようなところを見つけ入った。後から、それが崩れたパゴダ(仏塔)だと分かったが、中の暗がりで鬼の顔のような物ににらまれ逃げ出したという〉

帰国しても夢に出てきてうなされました。後から思うと、あれは中にあった仏像の顔だったんです。仏塔を修復するようにとのお告げだと理解しました。12年まで4期に分け、そのインワチャウー寺院と仏像を修復することができました。怖く見えた仏像も、今は穏やかな顔に戻りました。

仏像流出に危機感

〈翌年の06年、各地の仏像が非合法的に中国やタイの国境を越え持ち出されていると知った。軍政に寄進とお布施を禁止されて困窮した僧侶が、やむを得ず仏像を手放していたのだ〉

ミャンマーのお寺では、英国の植民地時代を含め何百年以上も、本尊をお寺の中で隠して守り、僧侶たちがひそかに拝んできました。それを手放すほど僧侶は食い詰めていました。仏像が地下マーケットに売り出されてしまったら、ミャンマーの国民にとり貴重な文化遺産が二度と戻らなくなる。07年に1体を購入して保護すると、後は次から次へと売りに出された仏像の情報が舞い込んできました。当時、ヤンゴン市内で大きな家を借りていて、仏像はその家の中に隠し、ひとりで拝んでいました。

当時、外国人が仏像を隠し持っていたら銃殺の処罰を受けるほど監視は厳しかったのです。移送では、野菜を満載したトラックの中に仏像を隠して偽装しました。2年間で家に301体の仏像が集まりました。

「前世で兄弟」確信

〈11年にミャンマーの民政移管が完了。12年10月、同寺院のパナウンタ大僧正に寄贈を申し出て、全301体を同寺院に運び入れた。鑑定の結果、2600年前の最古級と分かったものなど、多くが国宝級の仏像だった〉

民政移管して、これで安心して寺に仏像を預けられると思い、いろいろな僧侶に会いましたが、この人に託したいと思える人がいなかった。そんな折、友人からパナウンタ氏の紹介を受けました。会った瞬間、前世では互いに兄弟だったと確信し、すぐに全301体の寄贈を申し出ました。向こうも二つ返事で引き受けてくれました。数日後に私の家を訪れた大僧正は、びっくりしていました。小さい仏像がたくさんあるのかと思いきや、背丈より大きい物も含め歴史的な仏像ばかり、予想外の場所に安置されていたからです。数日後にトラック15台をピストン輸送させ、1日で301体の仏像を私の家から大講堂に移し、12年10月18日に式典を行いました。

〈301体を保護しながら、ゆっくりとお参りしてもらうため、床面積が10倍となる5階建ての参拝施設を建設中。今年12月の完成式典には、日本を含むアジアの約30カ国から仏教指導者が参列し、ミャンマー国内からは5000人以上の僧侶が集まる予定だ〉

仏像は13年春から公開を始め、15年9月には国営放送の特別番組で紹介されました。参拝時間は水曜から日曜の午前10時から午後5時までですが、対応が追いつかず、今ではほぼ毎日開けていて僧侶も休めません。

301体の一つ一つに歴史があり、参拝客は自分の顔に似ている仏像にありがたみと親近感を感じることが多いのですが、今は密集していて、ゆっくりと拝むことができません。一体ごとに参拝スペースを設け、時間をかけて拝んでもらえるようにします。

ミャンマーの人々は寺院への寄進が人生の大事な一部分で、中にはひとりで数千万円もこの寺に寄進するひともいます。私の友人は、日本から職人を呼んで日本風の家屋を建設して寄進もしました。今では、僧侶がその建物を瞑想する部屋に使っています。また、バガン王朝時代の寺院を模した参拝施設なども建設しました。遊園地なども併設し、家族連れが一日中楽しめる仏教の一大レジャーランドができつつあります。

ミャンマー連邦共和国 旧国名ビルマ連邦(1989年に改称)。首都はネピドー。人口は約5300万人で、仏教徒が約88%を占める。公用語はビルマ語でビルマ民族が多数派だが、シャンやカレンなど130を超す少数民族を国内に抱える。英国の支配下あったが、第二次大戦での日本軍侵攻を経て、1948年に独立した。産経ニュースより

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