2018年9月9日日曜日

探査機の命、預かります JAXA宇宙科学研究所「はやぶさ2」

■宇宙の起源解明へ使命
 
地球誕生から約46億年。単細胞に始まりホモサピエンスまで、生命はいつどこでどのように生まれたのか。その謎を解くため2014年、宇宙航空研究開発機構(JAXA)の小惑星探査機「はやぶさ2」がH-IIAロケット26号機で打ち上げられた。そして今年6月27日、地球から3億キロも離れた小天体リュウグウに無事到達した。

その探査機プロジェクトの遂行という重責を担う「ミッションマネージャ」がこの人だ。

「2」は、致命的なトラブルを抱えつつ数年間も宇宙をさまよった末、地球に見事帰還した「はやぶさ」の後継機。そのはやぶさでも軌道計算などを担当したが、いま「2」にその経験と技術をつないでいる。

リュウグウは地球と火星の間で太陽を中心に回る、たった900メートルの小天体。その表面に今後ピンポイントで探査機を降ろそうというのだから至難の業だ。

「瞬間着陸してすぐ離陸するタッチダウンという方式を採用し、その勢いで舞い上がった砂塵や岩石などをサンプリングして地球に持ち帰り分析します。何としても帰還させなければなりません」

そこまでして小天体を目指すのはなぜ?

「リュウグウは太陽系誕生とほぼ同じ時期に生まれ、あまり進化していない天体。ですから水や有機物がさほど変化なくとどまっている可能性が高いのです。太陽系誕生の謎解き、水や有機物の起源ひいては生命体のルーツに迫れると期待が膨らんでいます」

沈着冷静。「心身ともにタフ」と自負する。

昆虫好きだった少年は、小学高学年では星も好きになった。SF小説、子供向けの宇宙本や相対性理論が書かれた本をよく読んだ。

だが、部活は中学でバレーボール部、高校では山岳部だ。

「顧問の先生が南アルプスへ何度も連れて行ってくれました。体力の使い方や引き返す勇気、危機回避、チームワークなんかを学んだと思います。最終目標は無事帰ることですから、行動もそのために最も安全な方法を考える。あの経験は探査機運用にも応用しています」

はやぶさはタッチダウンやローバ(観測機器)の放出未遂などのミスに見舞われた。トラウマはないのだろうか。

「ないと言えば嘘になります。だから今回、訓練とリハーサルを繰り返しました。科学者とエンジニアが一丸となって議論も重ねたし、探査機を予定通りに運用するためのコマンドの送受信の訓練で、タッチダウンの精度を上げました。探査機の飛行を支えるイオンエンジンの推進力アップとか一部部品の強化、長寿化も行いました。訓練はそうですね、合計50回ほどやったと思います」

気分転換は趣味の囲碁、フルートや尺八を吹くことだと笑う。

「家族との演奏? しません。私の怪しげな音色が混じるとひんしゅくを買いますからね。曲目はクラッシック、ポピュラーなんか何でも。でも自己流のせいか、なぜか尺八とフルートの音色が同じになってしまう。おかしい。でも自分では大いに楽しんでいます」

「2」は10月下旬にタッチダウンを実施する。候補地は、リュウグウの赤道上100メートル四方のエリアなど計3カ所で、同月中旬に1カ所に絞り込む。

直接小型ローバや着陸機を降下、岩石組成を調べたり、衝突装置を打ち込み、小さい人工クレーターを作って地下も調査する。そうしてサンプルを携え19年、リュウグウを脱出、太陽を4分の3周して20年暮れ、地球に帰還する予定だ。

「2」は果たして“乙姫様”から玉手箱をもらえるか。世紀の瞬間が迫っている。

■吉川真(よしかわ・まこと) 1962年2月6日、栃木県栃木市生まれ。56歳。JAXA・宇宙科学研究所宇宙機応用工学研究系准教授。理学博士。東京大学理学部天文学科、同大学院修了。日本学術振興会の特別研究員を経て91年から郵政省通信総合研究所(当時)勤務。98年、文部省(当時)宇宙科学研究所に着任し、今に至る。専門は天体力学。小惑星や彗星などの太陽系小天体の軌道解析、人工衛星や惑星探査機などの軌道決定を研究。天体の地球衝突問題「プラネタリー・ディフェンス」にも尽力中。夕刊フジより

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