米国が「北朝鮮への直接的な軍事行動の検討」に入ったと米紙ウォールストリート・ジャーナルや、経済専門サイトのビジネスインサイダー(BI)が伝えた。北朝鮮が米国に到達可能な大陸間弾道ミサイル(ICBM)を開発しているという脅威に対応するものだ。もし軍事行動(作戦)が実行に移された場合、米国の圧勝は間違いないという点で米軍事専門家の見方は一致しているが、作戦実行には「深刻なリスクが伴う」とBIは指摘する。「韓国はもちろん、日本への被害も避けられない」というのだ。(岡田敏彦)
まずは制空
BIによると、米軍の作戦の目的は2つ。一つは北朝鮮の核兵器の破壊。もうひとつは金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長を“除去”することだと指摘する。
そのために、まず必要なのは、絶対的な制空権の確立だ。つまり戦闘機同士の戦いで相手の航空戦力をつぶさなければならない。
北朝鮮の戦闘機は主力がミグ21で、1960年代のベトナム戦争時で既に性能的な限界が見えていた旧式機。これとは別に比較的新しいミグ29という戦闘機もわずかながら配備されている。航空自衛隊のF-15戦闘機や、米軍と韓国軍が用いるF-16戦闘機と比べれば設計年度は新しいものの、実は性能的には全く相手にならない。
例えばドイツでは1990年の東西ドイツ再統一時に、東ドイツが持っていた24機のミグ29を統合後もしばらく運用したが、電子装備を含む総合性能の低さなどから「この機種は不要だ」と判断し、他国に安く売却している。北朝鮮の持つ“最新機”はこのミグ29がわずか18機(推定)とされ、性能改善やアップデートを重ねてきたF-15やF-16を数百機擁する米軍にとっては、ものの数ではない。
またレーダーや通信を妨害する各種電子戦機の質、量ともに米軍は圧倒的で、米軍戦闘機に脅威となる北朝鮮の地対空ミサイル基地も、対レーダー探知ミサイルを持つ専門の攻撃部隊「ワイルド・ウィーゼル」がしらみつぶしにできる。
まずは「空」を制して、北朝鮮空軍の反撃と偵察機による状況把握を不可能とし、本番の軍事作戦を容易にするのが第一段階だ。とはいえ、ほぼ同時にレーダーに探知されにくい「ステルス機」が軍事目標に向け侵攻している可能性も高い。
米軍の攻撃シナリオ
BIは米シンクタンク「ストラトフォー」の北朝鮮専門家とともに米軍の攻撃シナリオを推定しており、特に重要なのは核施設の攻撃だとする。具体的には、レーダーに探知されないステルス機と、トマホーク巡航ミサイルによる核施設への電撃的な攻撃が主となるとしている。
グアムや米大陸から出撃するステルス爆撃機B-2は約2.8tのEGBU-28「バンカーバスター」特殊爆弾を最大8発搭載可能だ。この特殊爆弾はGPS誘導が可能で、爆撃目標の13キロ手前で投弾できる。対空火器が密集する重要目標に近づく必要がないため「一方的な攻撃」が可能だ。こうして核施設やミサイル製造施設、ICBMの発射基地を破壊する。
一方、F-22やF-35など小型のステルス戦闘機(攻撃機)は、山岳地帯に隠れる移動式のミサイル発射車両を捜索・破壊することとなるが、これは世界最強の米軍でさえ、簡単なミッションとは言い切れない。
韓国紙の朝鮮日報(電子版)は昨年9月5日の北朝鮮によるミサイル発射の直後に、事態の深刻さを強調。このとき黄海北道黄州から発射された3発の弾道ミサイルは、高速道路のトンネル内に隠され、発射時だけ外に出していたことが分かったとしたうえで「トンネル内に隠れている場合、米国の偵察衛星などで事前に発見することは不可能だ」と指摘した。
BIでは、これを破壊するためには米特殊部隊がパラシュート降下してミサイル発射車両を捜索し、直接攻撃するか、もしくは上空の味方米軍機に位置を伝えて爆撃を誘導する必要があるとしている。ただ、北朝鮮全域で200発ともされるノドンやスカッドなどの弾道ミサイルをすべて破壊するのは難しい。
また金氏の“除去”も、そもそも居場所を特定するのが極めて困難なために、移動式ミサイル発射車両に対するのと同様に、空爆だけでは有効打とはならない可能性を指摘している。
そして「北」の反撃は
一方、「北朝鮮が(軍事的に)大打撃を受けても黙ったままと見る向きは皆無だ」ともBIは強調する。予想される北朝鮮の反撃は、韓国に重大な影響をもたらすという。ミサイル発射施設や移動式車両がほとんど破壊された後でも、残ったわずかなミサイルで北朝鮮は反撃に出るだろう。
また38度線の非武装地帯(DMZ)をまたいで、北朝鮮から韓国の首都ソウルまでの距離は約50キロ。北朝鮮軍はミサイルより圧倒的に安価で大量配備できるロケット砲を多数配備し、山間部に掘った横穴に潜めているとされる。こうしたロケット砲による反撃は無視できない重大なものだ。「ソウルには大規模な防空壕があるため迅速に市民を守れるが、都市機能の被害は避けられない」とBIは分析する。
また、DMZの地下を掘り進んだ秘密の「南侵トンネル」を使って、地上軍を韓国に侵入させるとし、「米地上軍はDMZ周辺地域で戦う可能性が最も高い」と指摘する。つまり北朝鮮領内に米陸軍の主力部隊が侵攻することはなく、韓国の守りに徹するとしている。
また、移動式弾道ミサイル発射車両を米軍が短時間ですべて破壊できる確証はなく、弾道ミサイルが日本に向けて発射される可能性も示唆しており「日本の一部の民間人にも死者が出るだろう」とのシビアな分析をしている。
戦争の勝敗は「そもそも北朝鮮が米韓日に勝てると見る向きは皆無だ」とするが、被害をゼロにすることも不可能で、北朝鮮攻撃指令は「米軍司令官(トランプ大統領)が気軽に決断できるものではない」と指摘するのだ。
自壊の可能性
一方、米誌ナショナル・インタレスト(電子版)は、北朝鮮が民衆の蜂起や内戦で崩壊する可能性とその後の展開について特集した。
北朝鮮については核兵器のほか、金正男氏の暗殺にも使われたとみられるVXガスなど生物化学兵器、さらに生物兵器をミサイルで飛ばす可能性がある国だと、その危険性を説明する。
そうした“危険な国家”が崩壊する状況は2つあると指摘した。ひとつは政権の崩壊で、金一族の統治がクーデターなどで終わりを迎え、新たな指導者が現れるとするもの。もうひとつは政府機構全体の崩壊だ。金一族が放逐されたあとも新体制が固まらず、派閥が形成されることで新政府の統治機能が弱まるというものだ。
内部抗争から内戦が勃発する可能性もあるとし、これにより核兵器や生物化学兵器を運用する部隊が、韓国に攻撃を仕掛ける可能性もあるとみる。
さらに中国の介入を招く可能性に触れ「中国は(北朝鮮と韓国の)統一を阻止するだろう」と指摘。「韓米軍と中国軍の戦闘が発生するかもしれない」と分析する。また北の政府崩壊で食料事情が逼迫し、食料をめぐる争いや飢餓状態が発生する可能性があるという。
最も問題なのは、意外にも北の政権が崩壊して韓国が併呑する形で半島を統一した場合だ。同誌は統一のための軍事作戦に5000億ドル(約55兆円)、南北の戦災復興に5000億ドル、北の経済開発に1兆ドル(110兆円)かかると概算し「韓国の政府予算(約40兆円)の約6年分に相当する。税収を倍増する選択肢も出てくるだろう」と指摘する。つまり、北朝鮮の崩壊統一によって朝鮮半島全体が大規模な経済破綻や混乱に陥る可能性があるというのだ。同誌は「北朝鮮が示す危険は核兵器だけではない」と警鐘を鳴らしている。 産経WESTより
ぼちぼちと生きているので、焦らず、急がず、迷わず、自分の時計で生きていく、「ぼちぼち、やろか」というタイトルにしました。 記載事項は、個人の出来事や経験、本の感想、個人的に感じたことなど、また、インターネットや新聞等で気になるニュースなどからも引用させていただいています。判断は自己責任でお願いします。
2017年9月1日金曜日
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