2018年9月5日水曜日

きな臭くなってきた朝鮮半島 米、北へ先制攻撃の可能性は

北朝鮮がまた、きな臭くなってきた。
 
6月の米朝首脳会談後、「北朝鮮の核廃絶」に向けた進展が、ほとんどない状況だった。ドナルド・トランプ米大統領も、中国やトルコとの貿易戦争などで忘れているようであったが、ここにきて動きが出始めた。

手詰まりの状況を打開しようと、マイク・ポンペオ国務長官が8月末に訪朝する予定だった。ところが直前、北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長の最側近、金英哲(キム・ヨンチョル)党副委員長から「米国が平和条約締結を話し合わねば非核化はやらない」との書簡を受け取った。

驚いたポンペオ氏が、それをトランプ氏に見せたところ、その場で訪朝中止が決定された(8月24日)。ポンペオ氏が平壌(ピョンヤン)に向けて出発する、わずか数時間前の出来事だった。

ここで2つのことが改めて明らかとなった。

1つは、あくまでも「北朝鮮の非核化」を優先する米国と、何としても「朝鮮戦争の終戦宣言」が欲しく、核申告リストとの同時交換を狙う北朝鮮の姿勢である。「どちらが先に折れるか」ではなく、圧倒的に米国が主導権を握っていて、余裕がある。

もう1つは、トランプ氏は、あくまでも北朝鮮を「中国とのディール(取引)」に使おうとしていることだ。

トランプ氏は、訪朝中止を決断した際、「ポンペオ氏は近い将来に訪朝する見通しだが、その実現は、米中通商関係が『解決』してからになる」との声明を出した。トランプ氏の標的はあくまでも中国であり、北朝鮮問題は中国へ譲歩を迫るためのツール(道具)であるとみてよい。

トランプ氏の狙いは、北朝鮮問題で得点を挙げて、11月に迫った米議会の中間選挙を有利に運ぶことだ。北朝鮮とディールをして、それが得票に結びつくと判断すれば、すぐにでも平和条約締結を実現させるだろう。

世界最大の核保有国である米国にとって、北朝鮮の核はほとんど脅威とはならない。ただ、米朝和解となれば、北朝鮮が韓国を抱き込み「南北朝鮮統一」へと一気に流れかねない。

それは在韓米軍の撤退につながり、アジア情勢の大変動となる。逆に、米国が北朝鮮を先制攻撃した方が国内的に「票」が得られると思えば、そうするであろう。

いずれの場合でも、困るのは日本である。

米朝和解となれば、在韓米軍は撤退し、日本は米国のアジア太平洋地域における安全保障上の最前線に立つことになる。一方、米国が北朝鮮を先制攻撃した場合、韓国にいる在留邦人約6万人に多大な犠牲が出るばかりでなく、日本への北朝鮮からの核・ミサイル攻撃が考えられる。被弾となれば、その被害は計り知れず、その後の復興には多くの月日が費やされるであろう。

どちらに転んだとしても、日本にとっては死活的問題となる。人ごとでは済まされないのである。

■川上高司(かわかみ・たかし) 1955年、熊本県生まれ。拓殖大学海外事情研究所所長。大阪大学博士(国際公共政策)。フレッチャースクール外交政策研究所研究員、世界平和研究所研究員、防衛庁防衛研究所主任研究官、北陸大学法学部教授などを経て現職。著書に『「新しい戦争」とは何か』(ミネルヴァ書房)、『トランプ後の世界秩序』(東洋経済新報社)など。夕刊フジより

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