2017年9月2日土曜日

日本の核武装は、なぜ非現実的なのか

<北朝鮮の核開発を止められないなかで日本の核武装があらためて議論されているが、現在でも日本にとって核武装の選択肢が非現実的であることに変わりはない>
 2012年の11月にこのコラム欄で、日本の核武装については、議論そのものをタブー視する必要はないにしても、事実上不可能だという議論をしました。

具体的には、
・現在の国連を中心とした核不拡散体制、具体的にはNPT(核不拡散条約)、およびIAEA(国際原子力機関)体制への重大な挑戦になる。
・最先端の科学技術を有する日本の核武装は、世界の軍事パワーを一変させる。
・国際社会から一方的に「悪しき枢軸国の復活」と見られて外交が困難になる。
・プルトニウム保有をしながら核武装宣言をするということは、世界の核拡散抑止体制を根底から破壊するインパクトを持つ。


という理由から、核武装の是非を議論をすれば事実上不可能だという結論に至る、そのような内容でした。

その時点から5年近い年月が流れ、この間に北朝鮮の核開発を国際社会は止めることができないなど、東アジアの情勢は大きく変化しました。そのような中で、日本の核武装の是非について、あらためて議論が提起されています。

では2017年の今日、核武装の現実性という点では、2012年の状況とどこまで違いがあるでしょうか?

まず現在では、北朝鮮の核攻撃能力の保有が迫ってきています。仮に、これに対する抑止力を第一の目的として日本が核武装すれば、国際政治の上では「日本が北朝鮮の核を認める」ことになります。

これは、国際社会の対北朝鮮政策を崩壊に導くだけでなく、佐藤栄作のリーダーシップによって西ドイツなど非保有国の世論をまとめ、NPT(核不拡散条約)体制というものを事実上作り上げた日本が、自らそのNPTという体制を否定することになります。これは日本がNPT体制から追放されるだけでなく、NPT体制の崩壊につながる可能性が濃厚です。

仮にNPT体制が崩壊すれば、例えばイラン、トルコ、サウジといった中東の国々への核拡散を招くなど、世界における核戦争の危機は一気に深刻化すると思います。

2012年と現在を比較した場合、具体的な違いは日本が高速増殖炉「もんじゅ」の廃炉を決定したことがあります。大量の使用済み核燃料を抱え、これを主としてフランスでプルトニウムへの再処理をしてもらっている日本は、プルトニウム保有大国です。その保有目的は、何よりも高速増殖炉における「核サイクル」を実用化してエネルギー源とすること、これに加えて通常の軽水炉の燃料としてプルトニウムを付加したMOX燃料を使うことです。

ところが、現在はMOX燃料を使用する「プルサーマル」運転が極めて限定的になっている上に、「もんじゅ」が廃炉とされる一方で、余剰プルトニウムの量は47トンを超えています。このような状況においては、現時点でも国際社会への釈明に苦慮する可能性を抱えています。日本が核武装への動きを見せれば、即座に厳しい査察の対象となることが考えられます。

日本はNPT=IAEAに加盟しているだけでなく、世界の主要国との間で「原子力協定」を締結し、二国間関係として相互に原子力利用の現状を「承認しあって」います。仮に日本が核武装の動きを見せれば、多くの国が日本との原子力協定を破棄することになるでしょう。日本としては、日米原子力協定の破棄、日仏原子力協定の破棄という事態になれば、民生用の原子力平和利用における国際的な協力が受けられなくなります。

また、日本が核武装の動きを見せた場合、これは昨年の米大統領選で候補だったトランプの「暴言」が現実化することになります。当時のトランプは、日本が駐留米軍の費用を100%負担しないのであれば、在日米軍を引き揚げるが、その場合に日本が核武装することは認めるというロジックでした。

順番こそ違え、日本の核武装はトランプの発言そのままです。裏返せば、在日米軍の引き揚げイコール日米同盟の解消へという流れになることが考えられます。

そうなると、日本は対中国、対ロシアなどに対する抑止力を自身で構築することが必要となり、核武装だけでなく通常兵器と兵員についても、数倍のスケールの増備をしなくてはなりません。これに核攻撃力の構築と維持のコストが乗っかるわけで、ただでさえ人口減と競争力低下に苦しむ日本経済は、これに耐えられるとは思えません。

2017年の現在、日本にとって核武装という選択は、以前より一層非現実的になっています。 NEWSポストセブンより

0 件のコメント:

コメントを投稿

日産ケリー前代表取締役の保釈決定 保釈金7000万円 東京地裁

金融商品取引法違反の罪で起訴された日産自動車のグレッグ・ケリー前代表取締役について、東京地方裁判所は保釈を認める決定をしました。検察はこれを不服として準抗告するとみられますが、裁判所が退ければ、ケリー前代表取締役は早ければ25日にもおよそ1か月ぶりに保釈される見通しです。一方、...