2011年5月22日日曜日

原発依存 大転換のとき

立命館大学名誉教授、安斉育郎氏に聞く(科学者の知恵の結集こそ)「新聞報道より」

事故を起こした東電福島第1原発の現状をどう見るか、日本の原子力行政とエネルギーの転換について安斉育郎氏に聞きました。

福島原発1号機での全炉心溶融などの現在の事態をどう見ているのか。
東電や原子力安全・保安院(経産省)は放射能量が下がり気味だと行ってきましたが、原発の危機はいっこうに去っていません。1号機だけでは無く、2、3号機の原子炉、4号機の大量の使用済み核燃料に何が起こっているのかほとんど分かっていないという事態が現に起こっています。
原子力政策を「先頭だって」進めてきた元原子力安全委員会委員長など16氏が「国民に深く陳謝する」とのべ「緊急提言」を発表しました。(3月30日)このなかで、溶融炉心が圧力容器を溶かし、格納容器の放射能を閉じこめ機能を破壊することや、大量の水素ガスの爆発によって「広範囲で深刻な放射能汚染の可能性を排除できない」と述べていますが、その事態が続いています。

専門家の測定で汚染地図作成を
原子力内の核燃料に蓄積される放射能は莫大です。原発の運転期間が長くなればなるほど中の放射能物質は大量になります。
(別表参照)
100万キロワットの原発を1年間運転して出来る放射性物質の一部
放射性物質       半減期    原子炉内生成量
クリプトン85       10.7年       2.2
ストロンチウム90    28.8年      19
ジルコニウム95     67日      590
ルテニウム106     372日      70
ヨウ素131         8日      310
キセノン133       5.24年     630
セシウム137       30年      21
セリウム144       288日     410
プルトニウム238     88年      0.37
プルトニウム239    24000年    0.037
(単位・京ベクトル、京は10000兆)

これが今、外に出てきています。
4月12日に原子力安全・保安院が最悪の「レベル7」の事故であることを認めたときに第1原発から外に出た放射性物質の量を、保安院が37京ベクトル、原子力安全委員が63京ベクトルとそれぞれ発表しました。(ベクトルは放射能の強さ委の単位、1秒間で何個の原子が放射線を出して別の原子になるかを示す。1京は10000兆)
37京ベクトルのイメージで言うと、北海道から沖縄まで全国38万平方キロ㍍ありますが、放射性物質が均等に振りまかれると、面積1平方㍍つまり座布団1枚に座った時、1秒間に80万発の放射線が出てくる、それぐらいとてつもない放射能の量です。
第1原発に蓄積された放射性物質がさらに外に出たらどうするか、あらかじめ退避計画を作って必要があります。それから、人間の体内にはいると甲状腺に蓄積されるヨウ素131に注目するのは理由のあることですが、全身に分布するセシウム137、骨に沈着するストロンチウム90等いろんな放射性物質がセットで飛んで積もっています。
ヨウ素131は半減期(放射能が半分に減る期間)8日ですが、セシウム137は半減期が30年と長く、長期間影響を与えます。どういう物質が、どこにどれだけ残っているのか実測データに基づいて汚染地図を作るべきです。これは学問的には難しいことではなく、専門家が測定して分析すればすぐに分かります。
そうしないと福島で避難した人々の、今後の帰還の見通しもたちません、これは政府の責任でが、専門家特に原子力・放射能・放射線に関わる多くの学会を束ねている日本学術会議が緊急に調査団を組織するなど、その人を担うにふさわしいと思います。

エネルギー転換「100年の計」必要
全国に54基のの原発があり、そのうち40基ほどが動いています。停止になった浜岡原発も「津波対策が完了するまでの間」というもので、地震の巣の上に立てられているので廃炉の決定ではありません。
福井県には関西電力等15基の原発が集中しています。福井は原子力発電の県で、その恩恵を大阪、京都、神戸等が受けています。全国の原発依存度は3割ですが、関西電力は48%と高い依存率です。しかし、福井でも活断層が原発の下に走っています。京都は福井の原発から60㌔圏、大阪も100㌔圏です。福島で事故が起こったときに、100㌔離れた宮城県の女川でも放射能が検出されました。放射能は100㌔ぐらいはすぐに広がります、しかも、関西の水がめである滋賀県の琵琶湖を抱えています。そこが汚染されれば、水に依存する人々の生活と産業が重大な影響を受けます。事故を起こさない安全対策を取らなければなりません。
今回の福島の事故は、特定の電力企業の責任のみに帰せられる様なものではなく、政府も認めている様に「国策」の推進の結果です。安全審査の考え方やチェック能力、法制度や行政の非民主的な実態、官民学一体となった批判の封じ込め体質など、多くの問題が背後にあります。
原発からの段階的撤退、再生可能なエネルギーの開発・普及の計画的推進、電力貯蔵技術の開発エネルギー節約型生活への転換など「国家100年の計」として進めなければならないと確信しています。

まだまだ、原発の事故は終わりそうもありません。事故発生から2ヶ月経過してようやく事故の全体像の深刻さが明らかになりつつあります。1号機から3号機までの圧力容器内の燃料棒が空だきの状態になりメルトダウンを起こしたようです。圧力容器の底が抜け格納容器も破壊され、汚染水が漏れた可能性があります。圧力容器や格納容器に穴が空いてると言うことは、水棺は出来ないと言うことになります。水を注げば注ぐほどに汚染水が増えるので、水を循環して冷却する方法しか無くなりました。まだまだ、原発の収束の目処はつきそうもありません。
あるホームページには臨界事故(核爆発)をおこして、収束させる方がいいという意見も掲載されていますが、これをすれば福島県は壊滅状態、関東から東北に放射能が降り注ぎ、人が住めるような場所で無くなります。これはあまりにも過激な意見ですが、賛成できません。

被災状況5/21日現在(警視庁まとめ)
死者=15.170名  行方不明者=8.857名  避難者=109.588名

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